第713話「チャックの災難」


 冒険者や貴族から欲深い眼差しを受けるが、エクシアがそれをバッサリと斬り払う。



「じゃあ先に急ぐよ!アンタ達コイツに下手な真似したら……貴族でもただじゃおかないよ!アタイ達はコレがなければ最下層は目指せないし、出口も捜せない」



 エクシアは貴族達を睨み付けてさらに言い放つ……


「それに今のを見て感がいい奴は分かるだろうが……土精霊が全滅しかけてんだ。お前達が救出の邪魔をするなら……その時点からアタイの敵だ!覚えておけよ?」



 その言葉を聞いたソーラーはマックスヴェル侯爵を睨むが、マックスヴェルは仲間の貴族と冒険者が変な真似をしない様に既に怒声を発していた。



「いいか!エクシアの邪魔をする奴は私の稼ぎの邪魔をするも同然だ。私には金こそ全て。既に知っての通り、お前達など私にはどうでもいい!!邪魔をした奴は、容赦無くダンジョンに置いて行く。死ぬまで出てくるな!いや……死んでも出てくるな!!よく覚えておけ」



 貴族達はマックスヴェルの言葉が脅しではない事を知っている。


 金が大好きで、稼ぐ邪魔をされるのを非常に嫌うのだ……


 彼が集めた財産は王家に貢ぐ為にある。


 彼は『ダンジョンの稼ぎで地位を買っている』数少ない悪辣貴族で、王はその明確な意思表示を受け入れている……それだけの額の『献金』なのだ。


 だからこそ周りも文句は言えない……


 当然マックスヴェル侯爵がそんな事をする理由は、他者より自分が優位な位置にいる為だ。



「エクシア、これで良いか?アイツ等が邪魔をしたら容赦無く切り捨てて構わんぞ?ガハハハ!………ところで……金鉱脈の話はどうなった?」



 そう言ってキョロキョロし始めるマックスヴェル侯爵に1人のノームが話しかける。


「おい!お前。今に話からすると金鉱脈を探しているのか?それなら向こうの奥の広間の壁が金鉱石の埋まる層だぞ。我々ノームが案内しようじゃないか!助けて貰ったしなぁ!お前達、さぁ案内するぞ!」



 そう言って勝手にノームとノーミー達は案内を始める。



「エクシア!この小人が向こうだと言っているぞ。平気なのか?………後ろについて行っても?」



 エクシアが僕を見るので僕は手でどうぞ……とジェスチャーをする。



 しかし案内ノームが……「お前は鉱石が好きなのか?最下層の鉱石群は見て驚くぞ!おっと……ここから足元が危険の様だ!儂の後ろについて来るが良い!……」と言うがサイズが小さい為に、歩みは非常に遅く侯爵はイライラし始める。



「ど……どうなっておる!こんなでは数日かかるぞ?いや1天かかっても最下層には行けんぞ?」



「分かったって!!アンタに言われなくても、あたしゃ馬鹿じゃ無い。そんなのは見りゃ分かるよ!!それに待ってなんか居られないって言っただろう?」



 エクシはそうマックスヴェルにそう言うと……『チャック!!通路を見てくれ。この先危険って……いったい何があるんだい?』と呼びつける。



「ハイハイ!俺だってノームが何か言い出した時には、既にこうなると思ってましたよ!どれどれ………」



 そう言って通路をズンズン進みパパッと見ると、あっという間に罠を解除したり壊して回る。



「エクシア姉さん、終わりましたぜ?まぁ見える範囲ですがね……噂の金鉱石がある部屋の安全性はわからないので、部屋に入ってからっすね……」



 そう言うとチャックはマックスヴェルにも同じ様に説明をする。



「チャックと言ったな!素晴らしい腕前だ。うまく事が運んだら礼をしようではないか!!部屋前までは平気なのだな?ではお主も共に行こう!!罠があったら言ってくれよ?ガハハハハハ」


 そう言って意気揚々と大広間の方へ歩き出す。


 周りの貴族は自分の冒険者を褒めてもらえずチャックを恨めしく睨むが、常人では難しい修羅場をくぐり抜けているチャックとの力量の差は致し方ない。


 貴族達はマックスヴェルの後ろをついて歩くが、真後ろでは話しかけるのに躊躇してしまう。


 マックスヴェルの真横のチャックが邪魔でならない……と感じていた。



「チャック、さっさと部屋を見ておいで。アタイ達は暇じゃないんだ。部屋のついでに奥の通路も頼むよ……」



「姉さんは人使いが荒いっす!!こんなデカい部屋を1人では無理っすよ。って言うか他にもシーフはいるんですから!」



 そう言ってマックスヴェルの後ろの貴族を指さす。


 すると貴族達はチャックの気遣いを理解したのか、我先にと侯爵の元へ群がる。



「ならばチャックをリーダーに部屋の罠を解除してこい!気を引こうと時間を無駄にかけたり罠を起動させるなよ?そんな事をすれば逆効果だからな?」



 マックスヴェル侯爵は貴族達にそう指示を出す。


 当然ながら既にチャックは部屋に侵入し、一直線に部屋の外へ続く経路の安全を確保していた。



「姉さん!この部屋には罠はないですが、起動しない魔法陣がありますぜ?コレは…………トレンチで見たやつと同じ気がするんですが………」



 そう言ったチャックの言葉に、エクシアは即座に叫ぶ。



「チャックすぐに戻ってこい!!ここは広間じゃないよ。階層主の部屋になる直前の一番不安定で危険な部屋だ」



 しかしそのエクシアの言葉はチャックには届かなかった……



『ブモォォォォォ!!』



『ブルォォォォォ!!』



「ミ……ミノタウロス!?………大きさがやべぇ………ミノタウロスじゃねぇじゃねぇか!!コレはマジでやべぇ………ギルドの図鑑で前に見た……グレート・ホーンだ!!Aランクの魔物の群れだ……全員近くの出口に逃げろ!!」



 チャックはそう叫ぶと、一目散に一番近い出口に走り出す……


 そしてチャックの大絶叫その直後、フルプレートメイルに身を包んだミノタウロスにそっくりな魔物が大量に湧き出すと、周囲のシーフ目掛けて異常な速さで走り出した。



 グレートホーン特有の奇襲攻撃で『猛進撃』と呼ばれる攻撃方法だ。



「やべぇ!くっそ!!追い付かれる…………」



『ウォーター・プリズン!!』



 僕は突撃攻撃を辞めさせるために、敵味方関係なく動きを封じる魔法を咄嗟に唱えた……



 水鏡村のダンジョンで見た魔法を唱えたが、考えなしに唱えたので大惨事になる。


 巨体で走り出した直後息を荒げているグレート・ホーンには効果は抜群だった。


 だが問題は、見方も全員水の中と言う事だ。



『ガボガボ……ガボガボ…………』



「水っ子!今すぐ彼らを部屋の中から『弾き』出せ!!」



『精霊使いが本当に荒い!!説明も適当すぎるわ!まったく……』



 僕がそう言うと、水っ子が祭壇を通じて化現して文句を言う。


 しかし即座に部屋の中央に向かうと、周辺の水を操り近くの出入口に向けて一気に放り出す……



『ガボガボ……ゲボガボ!!……ギボガボガボガボ………』



『ガボガボ!!……グボボボべ………ガボガボ!……ガボ……』



 僕には全員が何を言っているか大凡分かる……『苦しいから辞めてくれ』とか『死にたく無い』だろう……



『ザッパン………』


『ドシン…………ゴロゴロゴロゴロ…………』



 凄い勢いで放り出され勢いよく転がり、その場に倒れ動かなくなるシーフ達。



 チャックは反対側の通路が近かった為1人だけ別方向に放り出されるが、すぐ側が壁だったので思いっきり壁に打ち付けられる。


 部屋の中ではグレート・ホーンが肺の中の酸素を全て吐き出したのか、次々に沈んで動かなくなっていく……



「回復師と薬師は全員、パーティーに関わらず倒れたシーフの回復を優先しろ!彼らが居なくなったらこの遠征は失敗に終わる!!それ以外の冒険者は全員周辺の索敵を怠るな!絶対にヘマをするなよ!」



 ソーラー侯爵は場数を踏んでいるので、多くの兵や冒険者に対して纏めて命令を出すのがスムーズだった。


 指示を出し終えたソーラー侯爵は、リーチウムを側に呼び寄せる。



「リーチウム!お前は我が騎士団を連れて、トラボルタ達と共に周囲から敵が来ないか見てこい!」



「父上。リーチウム、これより安全確認をしてまいります!トラボルタ達よ準備は良いか?騎士団は抜刀せよ。では参るぞ!!」



 ソーラー侯爵は、息子のリーチウムに騎士団と冒険者を任せてからエクシアの元に行く。



「エクシア……チャックは無事なのか?動かない様だが………」



「分からないね……多分無事だろうけど。見た感じ強く壁にぶつかったせいで失神してるんだろうさ」



「マックスヴェルの所為で申し訳ない……無事だと良いんだが……」



「まぁこれで死ぬ様な奴はファイアフォックスには居ないさ!だが……今あいつの所に敵が来たら危険なことには変わらない……早く向こうに行きたいが、グレート・ホーンが全部死んでないと逆に出口に近いチャックが危険だからね……」



 エクシアが心配そうにしているが、すぐにその心配は無くなった。


 チャックは起き上がり、頭をブルブルと振り始めたからだ。

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