第712話「ノーム&ノーミー」
穴から外に出てみると、バケツリレーの様にノームとノーミーをユイナからミクそしてカナミへ、そのあとアーチへと渡されていた。
全員が2人くらいずつ抱えて、ノームの小ささから子沢山のお母さんの様になっている。
「お……も………腕が限界………2人はむり………ミクまだ持てる?」
「私も……も……もう持てません………既に2人持ってます……」
「あーちゃん!逆さまの脚持ちは駄目!………せめて降ろして……ホーンラビットの持ち方だよそれ!それも3人も……」
「仕方ないのよ!カナミ……このノームわざと抱きつくんだもん……これぐらいしないと!!」
「「「やめてくれーもうしないから!!降ろしてくれーーーー」」」
一部は阿鼻叫喚の地獄絵図だが、一応魔物はマモンとヘカテイアが一掃していた。
しかし安全ははない。
寧ろ根源を絶ってない以上、まだまだ今の魔物など序の口だろう。
僕が皆に降りる様に言おうとする前に、ノーミーが化現した。
以前助けた瀕死だったノーミーは、すでに精霊力を取り戻し元気だ。
自力で化現するとノームとノーミーに向けて怒り始めた。
「ノームとノーミーは全員さっさと自分の足で立って!!まだ魔物が来るんだから……今すぐ協力して。今から土精霊様を助けに行くんだから!!」
僕は『え!?』となる……
助けたノーミーは土精霊だと思っていたのだが……『土精霊様を助けに行くんだから』と言ったからだ。
「え!?ノームとノーミーが土精霊じゃないの!?」
僕がそう言うと、ノームとノーミーは不思議そうな顔をして、『何言ってんだコイツ』と言う表情で僕をマジマジと見る……
疑問が解消されないので、再度同じ質問をすると、見兼ねた森精霊が祭壇を通じて化現した。
「ノームとノーミーは薔薇村に居るドライアドと同じ存在ですよ?精霊にかなり近い存在ですが、純粋な精霊ではありません」
「でも化現しますよね?」
「ヒロ……貴方が助けたノーミーは精霊への進化を開始した存在です。時間をかけて肉体を捨て、純粋な精霊に生まれ変わる最中でした……」
そう言われた肩の上のノーミーは、僕へ会釈をする。
「ですが此処に居るノームとノーミーはその段階には至ってません。精霊の力を持ちつつも精霊ではない存在です。あくまで精霊種になれる可能性を持っているだけです。だからドライアドたちと同じ……と言ったわけですが……」
理解が追いつかない……どうやら精霊の世界はルールを含めてかなり広い様だ……
「いずれ精霊のことも勉強なさる事をお勧め致しますわ……ヒロが目的を果たす為には必要な要素ですから……」
「え!?森っ子は何か知っているの?」
ユイナが走ってきて聞きただす……
「私にそれを語る権限は無いのです……ですから『貴方達はもっと勉強』をなさって下さい。今迄の生活では得られない情報を探し歩くのです……そうすれば私が言う精霊と、今のノーム達の違いも理解が出来ます」
「森そこまでよ……それ以上は駄目!ギリギリもギリギリ……貴女……消えちゃうわよ?」
風っ子が強風を伴い化現する。
強風が出す轟音で周りの音を奪っているので、余程なことなのだろう。
『森!!やめなさい!話すなら念話にしなさい!!』
『風……ゴメンなさい。でも彼の仲間にも知らせないと……彼等はヒロと違って念話を使えないもの……』
『だからって精霊の事を話していい事にはならないわ!森……貴女が消えて困るのは『ヒロ』よ?貴女がいなくなったらヒロは契約を誰とするの?また初めからやり直し……ってほど精霊契約は簡単な事じゃ無いのは知ってるでしょう?』
『ほら……森、今すぐ帰るわよ』
風っ子は帰り際に『知識を探しなさい!帰りたいと言う割に貴方は遊び過ぎよ……』と僕に言って、森っ子を強引に連れ帰った。
「クックック……お前も随分変わってるな……精霊に説教される契約者なんか初めて見たぜ?」
「本当よ?悪魔に仮初の身体を渡すだけでも驚きなのに……精霊に『勉強しろ』って言われるなんて……本当に変なニンゲン……」
マモンとヘカテイアはゲラゲラと笑い始めるが、ロズが割って入る。
「笑っている所悪いが、魔物の群れが続々と奥から来るんだ。ヒロも戦ってくれると助かるんだがな?マモンとヘカテイは……はぁ……完全に興味ないなその顔は。仕方ねぇな俺らでやるか……来いヒロ!!」
そう言われたロズの後ろには、ホブゴブリン相手に剣を振るうベンとタンクの役目を果たすテイラーが居る。
他の場所でも多くの冒険者が戦闘に明け暮れている。
ロズがこっちに来ているので、指示役はベンの様だ。
「新手だ……ストーン・リザードの群れが来たぞ!ウルフスイッチしろ!」
「分かったぜ!ベン……こっちへ回せ!トラボルタ此処は任せたぜ!」
「ああ、行ってこい!死ぬなよ?」
「誰に言ってるんだ?ザムドの旦那から特別許可を貰って、此処でずっと戦ってるんだぜ?それに今や新装備だ!!負ける要素がねぇよ!」
ストーンリザードは壁を平地の様に自由に歩き回る、見かけは恐竜の様だがまだトカゲの域らしい。
ヤモリの様な動きで壁を這い回ると、側にいたウルフハウンド達に襲いかかる。
「1匹目!は俺が頂くぜ!」
ウルフハウンドはそう言うと、ストーンリザードに飛びかかる……
そして攻撃をしながら、周囲の冒険者へ攻略法を説明し始める。
「いいか?初見の奴らは絶対に尻尾は狙うな。直後に噛まれるぞ。刃が尻尾に到達する前に自分で切り離す上に、超速再生持ってやがる害獣だ!尻尾への攻撃は無意味だ!覚えておけ……」
その説明を聴くより早く、モアとスゥが次々とストーンリザードの手足を切り離す。
「付け加えるなら、意外と長い手足を狙うことね!振りかぶるとコイツ達は決まって反対の壁に『跳ねる』のよ。だから飛んでる時に手足を切れば、動けずもがくだけの雑魚よ?」
モアがそう説明する間に、ストーンリザードはどんどん数を減らす。
エルオリアスとスゥは剣術に長けているので、手当たり次第にストーンリザードの死角を利用して壁から叩き落としていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「これで全部か?意外に多かったが……結局ストーン・リザード16匹にホブ・ゴブリン6匹、顔の化け物が12匹にストーン・アースワームが1匹か……盛り沢山にも程があんだろう……全く……」
「そうだな。ちなみにウルフハウンド教えてくれるか?毎度お前達が潜ってる時はこんな感じでは無いのか?」
「いいぜトラボルタ……。魔物で言えば今日は異様に多いぞ?アースワーム自体がもっと下の層にいる魔物だからな。下層へ一度行った時かなり苦戦したが、装備のお陰でゴリ押しできる様になったのはデカイな……」
一度深部へ行った経験があるウルフハウンドの情報は大きい。
アースワームで苦戦していたと言う話だが、それより更に格上のストーン・アースワームと戦えたのは装備のおかげだろう。
ちなみにほぼ全員がオルトス装備かジャイアント・センティピードの装備だ。
中には複合装備の者もいるが、それはたいした問題ではないだろう。
「ヒロの案内は的確だな……その地図が欲しいぜ。どこのダンジョン・ボッカが売り出した地図だ?誰が書いた名前が下に書いてあるだろう?………なんだコレ!!くれ!俺にそれをくれ!!」
大声で騒ぎ始めるウルフハウンドに鉄拳が飛ぶ……その拳の持ち主は当然エクシアだ。
「そう言うと思ったから見せなかったんだよ!『くれ』は御法度だって知ってんだろう?……まったく……」
「いや……だってエクシア……コレは誰だって欲しいぜ?まぁご法度なのはわかるけどさ!!階層を映すマジックアイテムだなんて、流石に王家でも持ってないだろう?」
ウルフハウンドの言葉は、貴族とその手下の冒険者の興味をひくには十分だった……
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