第715話「陣の設営とダンジョン・ボッカ」


「箱は全部で何箱で、罠は幾つの箱にありました?」



 僕が聞くと、マックスヴェルを押しのける様に悪辣貴族がそれぞれで報告を始める。



 マックスヴェルは若干イラつく顔を見せるが、気を取り直して『オッホン!』と咳払いをする。


 それを聞いた全員が『しまった!』と言う顔をして一歩下がる……



「箱の数は9箱。そのうち罠なしが2箱で、7箱は危険な罠だ。罠の種類は転送が2箱で爆発が1箱、毒ガスが3箱で石化が1箱だ。複合罠で全部に毒矢か仕掛け矢がある。ランクはSSからAAだ!」



 僕はSS?AA?と耳慣れない言葉を聞いたのでモノクルを返して貰いその箱を見る……


 新しい箱の登場で、期待で胸を躍らせたが『S+とA+』の箱だった。



「ああ……SSってS+でAAとはA+なんですね………なんだ……非常に残念だ………特殊箱かと思いましたよ……」



「な!?SSとAAが残念!?同ランクと比べれば確実に格上の箱だと言うのにか?」



 発言で選択する言葉を間違えた……まるでその上の箱が存在すると言う言い方になったからだ。


 確かにガーディアンの箱など特殊箱が存在する以上は上位の箱はある。



 しかしそれを説明するのは難しい……


 面倒な事にしかならない上、ソーラー侯爵は僕を睨み付けているので『言うな』という事だろう。



「ああ、そういう意味では無いです。モノクルで見たら『S+』ですよね?僕達はこれをSSとは言わないんです」


 その言葉に『成程』と声が上がる。



「まぁ潜る側と依頼側では解釈が異なるのは仕方ない事ですよ……」



「大層な解説はそれくらいで良いだろう?さっさと箱の開錠をして、アタイ達は下に降りよう。目的は『箱探し』じゃないんだよ?全く……アンタもお人好し過ぎんのさ!」



 僕は『悪戯ルモーラの罠壊しの妖精鍵』を取り出して、マックスヴェル侯爵と罠がある箱に向かう。


 そして片っ端から開けるが、周りは恐れ慄いてかなりの距離を保ち様子を窺っていた。



 『根性が座っている……』と思えたのはマックスヴェル1人しか居なかった。



 罠の危険性など意にも介して無い。


 僕が失敗るとは考えてもいないのだろう。



「これで全部開け終わりました。一応中身は必ず『祝福』してから触ってくださいね。じゃ無いと呪いがある装備やアイテムも有るので」



 僕がそう説明をすると、マックスヴェルは近くの箱にすっ飛んでいく。


 そしてそれを見た周りに貴族も、マックスヴェルの後に続く。



 僕はチャンスとばかりにエクシアへ相談をする。



「エクシアさん。さっさと回収して下へ進みましょう。あの壁を破壊している暇は僕達にはありませんから。あんなの壊して、金を採掘していたら全て詰んでしまいます」



「確かにそうだね!それで……階段はここから近いのかい?」



 2人で相談をしていると、唐突にソーラー侯爵が話しかけてくる。



「ヒロにエクシア……それでどうする?8階層への階段は近いのか?ちなみに最下層まではどれくらいかかる?」



「ソーラー……アンタ……宝箱の中身は良いのかい?取りっぱぐれるよ?」



「エクシア……そんな事を言っている場合では無いだろう?人の住む勢力圏が無くなるくらいなら取り返せば済むが、精霊が居なくなるのでは話にならん!比べることさえ間違っておる!」



「なんだい?アンタ意外とマトモじゃないか………アイツらとオツムが一緒かと思ったよ。悪い悪い……今その相談をしている所さ坊ちゃんはまだ帰らないのかい?リーチウムが帰ってきたら出発するつもりさ!」



 エクシアの言葉は貴族を完全に馬鹿にする内容だったが、ソーラー侯爵は怒る様子も見せない。



「言いたい事は分かるさ。だが階層が深くなれば魔物は強くなる。今さっき戦ったのはストーン・アースワームだぞ?あれがこの階層を徘徊しているだけで大事だ!速やかに踏破せねばこの地は終わる。そして精霊を助けられねば財や地位など何の意味もない」



 ソーラーの言葉は凄く重みがあった……彼なりに何かを考えているようだ。


 そして、そこにちょうどリーチウムが帰ってきた。



「父上、ただいま帰還しました!!確認した結果、ホブゴブリンのパーティー2部隊を見つけ掃滅して来ました。この周辺には他に魔物は居ないようです。魔物の階層移動が見られた以上、速やかに下層域へ向かいましょう!これ以上、上の階層へ魔物を向かわせるべきではありません!!」



 僕は皆に地図を見せながら説明をする……



「現在は7階層の角に近い大部屋で、ここから2ブロック先に8階層へ降りる階段があります。道は一方通行なので迷う事はありません。ちなみに下層階段の脇に『転送陣』がありますので、戦力外冒険者や怪我人の搬出は此処からになるでしょう」



「うむ……ヒロよそれは理解した……。問題はこの転送陣側には『安全部屋』が無いと言う事だな?休息も取れず澄んだ湧水も無い。ともなれば上層階との往復を繰り返す他あるまい……問題はそれをどうするかだ……」



「父上。それは一度拠点を作る為に上層階から人を呼べば良いのでは?そして銀級冒険を多く集めて、警護に当たらせるのはダメでしょうか?」



「リーチウムさんの説明に付け加えるなら、問題はこの大部屋の魔物です……向こう側に行こうにも通過せねばならないのですよ?その度Aランクのグレード・ホーンと戦うのはリスクしか無いのでは?先程僕が使った魔法を扱える人は居ないでしょうから……」



 僕とリーチウムがそう話すと、ソーラー侯爵は『それしかあるまいな』と言う。


 そして『ダンジョン・ボッカ』を先行させての拠点作りと、護衛兵を用意するしか無いと結論に至る。



「では急ごう!拠点作りは資材運搬に時間がかかる……上層階のウィンディア伯爵の状況もここでは分からんからな。そもそもどの階層に居るかもわからん……急いで探さねばならんな……」



 話が纏まったので、ソーラー侯爵がマックスヴェル侯爵へ結論のみを話す。


 すると悪辣貴族達は懐が潤ったことで図に乗って余計な事を言い始める。



「まだここの金鉱脈の話が済んではないではないですか!ソーラー侯爵殿。私はマックスヴェル侯爵側の貴族ですぞ?金以外興味がないのです!!精霊より大切な金ですから!!ガハハハハハ!」



 マックスヴェルの真似でもしているのだろうが、その言葉はエクシアの逆鱗に触れる言葉だ……


 そんな言葉だと理解さえ出来ていないダメ貴族は、すぐにエクシアにぶん殴られ地べたを転げ回る事になった。



「おいコラ!マックスヴェルの旦那。いい加減時間がかかりすぎなんだ……今更箱の中身についての祝福説明とかは要らないよね?なら話は終わりだ!あと金鉱石がある場所は『この危険な部屋』の中だ。どうするかは自分たちで決めな!!その為の兵士だろう?」



 マックスヴェルは黙ってエクシアの話を聞いていた……


 その理由は分からないが、今までとは打って変わり笑いもせず静かに聞いていたのだ。



 しかし逆に周囲の貴族はマックスヴェルの様に黙ってなく、暴力を振るった事を咎め始める……


 だが当然エクシアも黙っていなかった。



「マックスヴェル!アンタには儲けさせる話は確かにした。だから金鉱石がある場所の提供も、箱の中身もアンタ達貴族様に優先させた!だが周りの外野の貴族衆はしらねぇよ。何自分まで混ざってんだ?約束なんかしてねぇだろが!」



 御もっともな意見である。


 マックスヴェルが鼻血を出している貴族の胸ぐらを掴み………



「俺の稼ぎの『邪魔をするな』と言ったよな?俺の言い方が足らないのか?ペリマー男爵………その首で償うか?この馬鹿もんが!!この階層は何階層だ!?言ってみろ!!」


 この行動には怒っていた筈のエクシアもビックリだ。

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