第701話「回転するゴーレムは危険がいっぱい」



 伯爵両名が設計したゴーレムは使えない訳では無い。


 脚がなくても、圧倒的重量で圧縮してしまえば魔物は倒せる。


 最早、手もいらないのでは無いだろうか?そう思いながらも僕は、その奇妙な石像に魔石を埋め込む。



 どんな動きをするのか気になったが、ぐりんぐりんと回転し危険極まりない……弥次郎兵衛の様にも思える。



「的は得てますが……動きが危険ですね。近寄れない………」



 皆の意見は同様な物が多かった。



「これであれば腕が破壊されても、身体で押しつぶせると思ったのだが……ゴーレムが待機場所で完全に停止するまで近寄れんとは……」


「伯爵様何事も経験ですよ……運用して改善点を探りましょう。でもこれはこれで利用価値はありますから……ダンジョンの通路で運用すれば魔物側は逃げ場がないですからね?」



「「「「!?」」」」



 そう僕は伯爵のゴーレムとインディーな映画を組み合わせればダンジョンの通路では敵無しだと気がついた。


 通路先頭で出して最奥部まで転がせば、敵は奥へ逃げるか潰されて死ぬしかない。


「いやいや……伯爵様方勘弁してくださいよ!?此処は石像を作る場所ですよ?丸い置物はもう『石像』じゃ無いですから!それに歪にならない球体ってのは本当に難しいんですよ?あと言わせて貰えば元を辿れば岩ですからね……これ……」



 石工親方からの、ごもっともな意見だった……丸を維持し続け転がさずに削るのは至難の業だろう。



 現代の様に、工具や設備が揃っていない世界なのだから、二度とやりたく無い仕事の一つだろう。



 ひとまずゴーレムに作り替えた石像をマジックグローブで収納しおく。


 ここにゴーレムを一体でも置いておけば間違いなく人集りが出来て、作成依頼でごった返す筈だ。



 そして鉱山入り口に持っていく約束をしてから、伯爵達と別れ宿へ向かう。



 異世界メンバーがギルドに来てない以上、宿で遠征準備に明け暮れている筈だ……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ!問題児のお帰りだよ!」



 アーチの一言で注目される僕だったが、クルッポーとスライムは安定して餌を食い漁っている。


 久々にミクのクルッポーを見た気がする。



「あれ?ミクちゃんクルッポー久々に見た感じだけど……」


「今特訓中だから……見かけてないのはそのせいですね。スライムに対抗意識が芽生えた様です……」



 スライムが大量繁殖&巨大化している現状で、クルッポーは自力を増すために自主特訓しているそうだ。


 そう言われてみると、少し大きくなっていた。


 しかしクルッポーの羽の色が少し変わっている気がしたので、ミクにその事を言う……


 赤い滲みがあったので怪我をしているのかと思ったが、そうでは無く成長段階らしい。



 ちなみにクルッポーは『念話』が出来るまで成長したらしいが、僕達とは話してくれない。


 ミクの友達とも話さず、どうやらミク限定で話をする様だ。



「それはそうと、ずいぶん忙しそうだな?ヒロ……また暴走してダンジョンボスに行かない様にして貰わないとな……あの水精霊の洞窟の時みたいになったら困るからな……」



 ソウマがそう茶化すが、心配しているのが顔に出ている。



「そう言えばお前さん達、飯の準備もして良いのかの?ちっこいのは皆食ってるが、龍っ子と悪魔っ子がさっきから厨房で食いたかってるんだがな?」




 おじいさんの一言で、一度身支度を中断して食事にする事にした。


 皆で食事をしていると………ギルドマスターが入り口から顔を覗かせる。



「皆すまんな……急で悪いが明日鉱山遠征を開始する、伯爵様達含めて先行組は朝出発だ。階層維持班は1刻遅れて出発になるが大規模移動だからそうなるので遅れんようにな?」



「はい。エクシアさん達にはもう伝えてありますか?」



「ああ、今行ってきた。帰りに寄って伝えてくれって事で来たんだ」



 エクシアはギルマスをアゴで使った様だ……伝言にしては相手に問題がある気がする。



「じゃあ頼んだぞ、今日はよく寝ておけよ?」


 そう言ってギルマスは戻っていった。




「いよいよ始まるのか?鉱山遠征とは……あれこれ大変だのう……。お前達がゆっくりなどしている所を見た事ないぞ?普通の冒険者は少しは休息を取るんだがな?……まぁそれだけ問題が多いと言う事だが……」



 食事を並べながらそう言う宿の亭主は、若干呆れ顔だ。


 確かに薔薇村から帰ってきてすぐに、今度は鉱山遠征なのだから呆れるだろう……



「私達もついて行きたいけど、人間と共闘するには貴方達は脆すぎるのよね……万が一ブレスでも吐いたら皆熱で死んじゃうし……」



 そう言われた僕はゼフィランサスには龍っ子とお留守番をお願いする。


 人間の戦いに彼女達が混じれば連携が出来ず、問題にもなりかねない。



 そして場所がダンジョンである限り、悪影響が出て彼女達が敵に回れば遠征は失敗に終わり、名前を持つ彼女達は外に出て破壊活動をするだろう……そうなれば人間は絶滅してしまう。



 以前からダンジョンに入っていたそうだが、人間があまり入らない『火炎窟』だから平気だったとも考えられる。


 鉱山遠征では大人しくしてもらう方が得策だ。



「ひとまずゼフィランサスは龍っ子の狩練習でもしてて……明日から数日は獲物の持ち込みは禁止だからね……」



 そういうとゼフィランサスと龍っ子から不満が出る……



「パパーお肉が勿体無いよ!折角倒しても味が悪くなっちゃうー。ユイナもいつも言ってるよ?食材は無駄にしちゃダメだって!」



 龍っ子が『わーわー』と喚くものだから、仕方なく方法を模索する……



「じゃあ、今から高山まで飛んでくれる?伯爵達のゴーレムをおいたら、このマジックグローブを貸してあげるから。中には前に倒した魔物も入ってるからね」



 そう言ってマジックグローブを龍っ子に見せる。


 このグローブは中に入れた物は本人しか出せないから、合言葉を決める必要がある。



「ゼフィ、悪いけどこれには合言葉が必要だ。僕とゼフィそして龍っ子だけわかる合言葉を決めておこうと思う。これの管理はゼフィがしてくれるかな?龍っ子の戦闘中に壊されると困るから……」


 僕はそう言ってから自室へ戻り、グローブ内の私物を全部マジッククロークへ移す。


 今まで詰められた物を『マスターキーワード』で解除することも思い出したが、今それをしている時間的猶予がない。



 中に何が入っているかもわからないので、それはまた日を改めてにして下に降りる。



「今自分の荷物は今移し終えたから、じゃあ鉱山に行こう……ゼフィは合言葉を考えててくれるかい?」



 と言って僕と龍っ子はすぐに鉱山へ向かう。



 当然ソウマ達に『早まってダンジョンに入らない様にな?』と釘を刺されるが今はそう出来ない。明日の遠征前に『ギガンティック・ブラックマンバ』など街の前に落とされたら堪らない。


 僕は伯爵達が作ったゴーレムを配置して魔物が出たら駆除する命令の他に集合位置をインプットする。


 その後すぐに龍っ子の背に乗って街へ帰る。



 そして宿の帰るとゼフィランサスがぶつぶつ呟きながらまだ悩んでいた……



「ゼフィ……合言葉は決まった?」



 僕がそう聞くと、真面目な顔をして悩んでいるゼフィランサスが……



「貴方が私と出会った時に私に言ったじゃない?ゼフィランサスは……『花言葉』とか言ったわよね?私は……あれが良いわ。でも思い出せないのよ……『愛』だけは覚えているんだけど……何だったかしら?」


「ゼフィランサスの花言葉は『汚れなき愛』だよ?」



 そう言うとゼフィランサスははしゃぎながら僕からグローブをむしりとる。


 そしてマジックグローブに合言葉を記憶させて自分用に抱え込む。



「じゃあ、当分はこれは私の物って事で!」



「ゼフィそれ借り物だから壊さない様に!約束だよ?」



 そう言うとゼフィランサスは『大丈夫よ。任せておいて!』と言って、どこからとも無く真紅の手袋を出してアクセサリー部分を付け替え手に装着する


 よくよく見ると元から女性用だったのかも知れない。


 僕が使うより何故かしっくりきている。



「これで娘っ子が幾ら戦っても問題無くなるわけね!」


「でも調理するユイナが居ないよ……ママ?」



 本末転倒だ……食材があっても気に入った味付けの料理が出来ないのだから……。

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