第700話「伯爵設計のゴーレムは弥次郎兵衛?」


「お疲れ様でしたヒロ男爵様、形式的ではありますが手続き終了です。ヒロさんの場合は、この書面さえ意味を成さないのは理解しているので……時間の無駄なんですけどね………」


 相当疲れているのだろう……メイフィは理不尽な事を言う。


 僕が好き好んで面倒事を背負い込んでいると勘違いしている様だ。



「やっと着いたぜ……ああ……どっかの誰かさんは空を飛んで街まで戻れるからいいよな……」



 そのセリフを聞いて振り返ると、そこにはブツブツ呟くエクシアがた。


 漸く街まで戻ってきたようだが、行きと違って馬車での帰路は不満が多いようだ。


 しかし他のメンバーは行きの恐怖に比べれば、長い馬車移動の方が精神的にも楽だったようだ。


 エクシアに比べて笑顔が多い。


「これはびっくりだ。見送られた筈のヒロ男爵が既に街にいるとは……やはり空の旅は早いと言う事だな」



 エクシアに続きマックスヴェル侯爵とギール男爵もギルドへ入ってきた。


 当然僕と同じように契約のためだろう。


 遠征参加への特別な権利を持つ悪辣貴族でも、遠征前であればちゃんとした契約が必要なのだろう。



「ところで……伯爵様とドワーフの姫達は?」


「ああ……今回の一件で大目玉ってところだね……街に戻ってすぐに、ザムド伯爵の別邸に連れて行かれたよ」



 それもそうだろう……何も言わずに勝手に出て行ったのだから、お叱りも当然だ。



「此方にヒロ男爵様はいらっしゃいますか?石材工房のモデラから来ました……ザムド伯爵様とウィンディア侯爵様が至急来て欲しいと……」


 丁度向かおうと思っていたが、向こうから連絡が来た。



 丁稚はそう言うとすぐに工房に戻っていく……仕事の最中に使いに出されたのだろう。


 前掛けもそのままで石粉まみれだったからだ。


 ザムド伯爵だけで無くウィンディア伯爵もいるらしく、僕を呼んでいるそうだ……何かあったのだろうか?と思い使いの丁稚に聞くが『内容は聞かされて無い』という。



 マックスヴェル侯爵達の前でゴーレムの話は出来ないので、『失礼します』と言って抜け出す。


 彼等はギルドで遠征参加への話があるので抜けられない。



 今のうちに面倒な事は済ませておこうと、使いで出された丁稚を追いかけ急いで石材工房へ向かう。



「伯爵様に親方、ヒロ男爵様をお連れしました」



 『ご苦労さん、じゃあお前は仕事に戻れ』と丁稚に言うモデラ親方、隣にはザムド伯爵とウィンディア伯爵がいる。



「すみませんね……実は幾つか石像ができたんですが、頼まれていた『全部』では無いんですよ。坑道が今使用禁止なので知り合いの石材商から石は工面してもらってたんですがね……」



 そう言ってモデラ親方は集めた事情を話し始める。


 話はこうだ……知り合いの石材商はモデラ親方に多くの石材を卸していたそうだ。



 だが、ゴーレムのガセネタ話を聞いた貴族が各地からこのジェムズマインに訪れた結果、実稼働中のゴーレム情報を聞いたそうだ。


 情報源は小国郡国家から、薔薇村を経由してジェムズマインへ来る商団だった。



 当然途中で寄る村は水鏡村だったが、もうその村は存在しないと言っても良いほどだ。


 ウィンディア伯爵の騎士団が村への立ち入りを禁止しているので、向かう先は当然1時間ほど先にある薔薇村になる。



 しかしその異様な光景を見て『商売になる』と思うのは当然だろう。


 薔薇村にある新しい建物で無料宿泊し、食事で金を落とす。


 そして持っている物を道具屋や食堂へ販売して、代わりに味付きジャーキーやらスモーク用の香木袋を買って、翌朝ジェムズマインに発つのだ。


 そして薔薇村の話をすると当然、ゴーレム目当ての人間もそこへいく。




 結果……『運が良ければゴーレムが手に入るかも』と思った貴族は『モデラでは無い石材工房』へ多数注文したらしい。


 モデラでは既に作業が僕と伯爵達の件でパンク状態だから、受けられないのは当然だ。



 注文を受けた石材工房は多数の注文で、てんやわんやの大騒ぎになる。


 石材商は急な注文を受けて石材を売るが、今までモデラに卸していた金額より高く買い取る石材工房が多数出てしまった。



 その結果、材料不足となったそうだ。



「ヒロ男爵よ……そこで相談なのだが……。先に私たちの分を都合できんか?鉱山に配置せねば鉱夫もまともに働けんのだ。魔導士の手配も既に済んでいて、これがあれば鉱夫の仕事もまともになるのだが……」



「ああ、別にいいですよ?戦闘用の簡易ゴーレムなら耐久性に問題があるウッドゴーレムでも何とかなりますし……」



「「「……………………………」」」



 多少の出費を覚悟していた伯爵達だったが、予想外の言葉が返ってきてびっくりしている。


 それもそうだろう……石像を利用したゴーレムだけでビックリなのに、今度は木材を利用したゴーレムと言い出したのだ。



 僕は武器を持たせて前衛タンクの役割が出来るゴーレムを企画中だ……問題は馬力だった。


 重い装備をさせると、ウッドゴーレムの進行速度は非常に鈍くなる。



 だがそのままでは非常に脆い。


 なので良い塩梅に調整する必要があるのだ……しかし忙しくてそれが出来ない。


 そもそも薔薇村にある特殊な木材でないと、魔力伝達が思わしくないのだ……



 だが今必要なのは『ストーン・ゴーレム』なので譲ることに問題はない。


 僕は石材工房モデラの一室を借りて早速ゴーレム魔石を生成する。


 魔力は十分にあるので幾らでも作れるが、問題は作成過程を他の客には見せられないと言うことだ。



 『他の客』とは勘のいい客のことで、ザムド伯爵とウィンディア伯爵が『モデラ』の顧客だと行き着いた者達のことだ。


 情報収集こそこの街では一番優先することなのだから、ここに来た客は他の者より一歩リードと言ったところだろう。



「じゃあ魔力充填は魔導士にしてもらいましょう……伯爵様その担当者を今呼べますか?」



「ああ……呼べるぞ……それにしてもいつも唐突だな……ザム。お前の雇った魔導士は呼べるか?」



「今すぐ屋敷に使いを出す。半刻せずに来る筈だ……まぁこうなるのは仕方ないな……なんせ『ヒロ男爵』だからな……はははは!!」



「じゃあ僕は鉱山の魔物をー殲滅する命令をゴーレムに与えますね……魔力充填はその人達が来てからということで……」



 そう言ってから、別室に移動してゴーレムに魔石を組み込む。



 ちなみに別室への入室はザムド伯爵とウィンディア伯爵だけで、丁稚は勿論、職人でさえも僕の作業中は入室禁止である。



「今鍛冶職人から武器を貰ってくる……ちょっと待っててくれるか?ヒロ男爵様よ……」



 そう言って急いで鍛冶職人に工房に向かう伯爵二人。


 暫くすると、鍛冶工房フレイムハンマーのバーン・ジョルジュ親方が装備を馬車に積んで職人数名とすっ飛んでくる。



「こりゃまたえらく急だな……出来ているから良いが……って言うか!!この化け物はなんだ!?」



 ゴーレムを見て驚くが当然だろう。


 幾つかは如何にもゴーレム……だったが一番大きい物はもうその形は捨てている。


 もう騎士像や女神像という概念は無くなり、『破壊されない』事に特化した形になっていた。


 僕が来なかった間、伯爵達は思考を巡らせた様だ。



 ほぼ丸だ……丸い体躯に腕が生えているうえ頭など無く胸に顔が埋まっている。


 それも正面と背面の両方に顔だ……



 『足は飾りだ』と言う言葉があったが、転がる岩はインディーの罠でしか見たことがない。


 だが異世界では、それがゴーレムになっているのだから酷い。



「ダンジョンで倒した化け物の話を聞いて思ったのだ!何も顔の部分は要らないのでは無いかとな?だから胸に視認する要素は埋め込んだ……顔を埋め込まず目だけで良かった気もするな……この気色悪い様になると……」



 そうなるとバロールの頭を意識して作った方が早いだろう。

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