第699話「遠征手続きとメイフィの罠」
ちなみにドワーフ達は坑道使用時に一人当たり干し肉3枚の契約で外へ出たそうだ。
追加干し肉10枚で薔薇村までのアリン子の護衛付きだったそうで、ドワーフ達は当然支払ったらしい。
彼等はトンネルアント・タイラントという珍しい前衛タンクの護衛を得て、楽をしつつ薔薇村に行く事ができた訳だ。
『ダメダッタ?』
駄目かどうかと言えば駄目だが、それを選んだのはドワーフだ。
人と街の常識を知らないアリン子に罪を問うのは間違いだ。
それにアリン子坑道で育つキノコは、既にジェムズマインでは受け入れられている様で、街のためになっている。
文句を言う奴がいたら、マッコリーニとドワーフ達直接言ってもらおう。
相手はドワーフ王国の姫だが……
ちなみに僕にとって責任転嫁はお手の物だ。
だがこのマイタケは残念な事に希少食材であるが為、量はそこまで流通しないだろう。
1日で作れる量がどうしても限られるからだ。
しかしマッコリーニが絡んでいる以上は、間違い無く金のなる木で間違いは無い。
原材料が持ち込んだ木だけに、本当に金のなる木だ。
そしてアリン子は優先して守られる契約だから、その件については僕とすれば御礼こそあっても文句など無い。
「取り敢えずアリン子としては、此処を通じて誰かを外に出す場合は、ひだまり亭のお爺さんも一緒に来てもらう様にする事!分かった?良い人ばかりじゃ無いから気をつけるんだよ?」
僕はアリン子に、問題になって街から追い出されない為にもそう伝える。
アリン子は素直に従ってくれるそうだ。
クイーンの制御下にいない分自己主張が出来る良い子だ、人に嫌われず居てもらうにはルールを覚えてもらう必要もある。
それが人の街だ……自由のないクイーンの制御下より遥かに良い事は間違いはない。
ホウレンソウを教えると、アリン子はすぐに理解して外で狩りをしてきていいか聞いて来た……知識レベルが本当に高い個体だと感心するしかない。
「じゃあ僕はギルドに行かないといけないから、アリン子も食事時までには街に戻るんだよ?じゃないと食いっぱぐれるからね?」
そういうと『ぴこぴこ』と触覚を動かして、分かったの合図をする。
僕はアリン子とドワーフの繋がりを確信できたので、石材工房の前のギルドへ向かう事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ヒロ男爵様!衛兵長から報告がありました……またしでかしたそうですね?全く……それより今回お呼びした理由ですが、男爵様として参加されるダンジョン遠征の件の書類についてです。では説明をさせていただきますね?ミオではしっかり頼むぞ?」
そう言ってミオと説明を入れ替わるデーガン。
説明はデーガンで無くてもできるし、急ぎの用件ができた場合、僕の相手で抜けられないのでは困ると言う事だろう。
「おはようございます。昨日は寝られました?なんか浮かない顔ですが?」
「実は薔薇村で事件があって……ドワーフ王女の私物が盗まれたんだけど、僕の私物も貸していたので……まぁおもちゃのつもりだったけど……それが凶悪な武器になりそうで怖いんだよね……」
デーガンは他の話で時間を割かない様に注意しようとしたが、話の重大性に目を見開く。
僕は仕方ないので、先に窃盗事件に話を説明する………
「あの美しい姫様方の私物を!?羨ま………あ……ゆ……許せん!!その件は任せておけ。この街に来るものと持ち物の一斉調査を進言しておく……オレンジすまんがギルドを空ける、急様だ!サブマスター補佐として暫くの間仕切ってくれ」
そう言ってデーガンは、ドワーフ王女の私物を回収するべく防壁付近の衛兵詰所へ走って行ってしまった……
「ヒロさん実はデーガンってば、あのミドリさんにお熱なんです……相手は王女様なのに。それはそうと説明をしないとですね!ちゃんとしないとあなたが怒られちゃうもの……あ!……初めてあなたって言っちゃった………」
そう言って照れるミオに、蹴りを喰らわせるメイフィ……
「きゃぁ!いったい!もうメイ………はわわわわわ………」
「ミオ先輩?何度言ったらわかるんですか!?今は先輩なんですか?それとも奥さんなんですか?先輩だったらちゃんと仕事をしてください!!奥さんだったらその管理の席をワタシに譲っていただけますか?せんぱい!!」
ポンコツとして怒られたミオは皆に笑われている。
「ごめんなさいね?ヒロ様の奥様の事は蹴りたくて蹴ったんじゃないんです……もう毎日ヒロさんを見た瞬間ポンコツになっていくので……書類忘れてどう説明するのか聞いてくださいよ……もう……」
そう言って羊皮紙の契約書面を出してくるメイフィは、非常に苦労人の様が見て取れる。
「ミオさん?ちゃんと仕事してくださいね。僕まで怒られてしまうので……」
大したことではないので怒るつもりはないが、周りは妻としての認識一定着しつつあるので一応注意しておく。
するとミオの隣にメイフィが座り説明を替わる。
「ヒロさん説明の前に……鉱山遠征が終わったらミオさんと結婚式くらいは挙げて下さいね?後輩としてモヤモヤしてますから!」
その言葉で周囲から視線を一気に集めてしまう……ミオは冒険者から人気があるからだが……
ちなみにミオはギルド業務中は真面目に働いているつもりの様だが、最近はあからさまに態度へ出ているそうだ。
少し前から受付嬢達は、ミオの結婚式の話をする様になったらしい。
しかしそうなると、シャインとゼフィランサスともあげねばならない。
そもそも元の世界に帰らなければならない僕は、なんとか誤魔化さないとと思っているとウルフハウンドが徐に隣に座り始めた。
「よぉ!ヒロ男爵様。あれ?エクシアは一緒じゃないのかい?ってか何してるんだ?そういえば小耳に挟んだが……結婚式するのか?どうしたらそこまで漕ぎ着けるんだ?何か上手い技があるのか?なぁ……教えてくれよ!」
「まったく……せっかくヒロ様とミオさんを書類契約使ってくっつけられそうだったのに……空気を読めないんだからウルフハウンドさん……」
「え!?書類契約?」
「あ?なんか……ごめん?メイフィ、それ……よく言われるよ俺……」
「ウルフハウンドさんが今戻って来るなんて……ミオ先輩も運が悪いなぁ。さぁ……悔しがっても仕方ないので、任務依頼と貴族報酬の話をしましょう」
メイフィの策略はえげつなかった……
それらしい空気感を出して、結婚式の段取りを約束をさせようとしていたのだ。
しかしエクシアにベタ惚れのウルフハウンドが来たせいで、計画に支障が出た様だ。
僕とミオの件を見聞きし、それを利用して大騒ぎの結果エクシアと結婚する……と言いかねない。
そう思ったメイフィは早めに幕引きをした様だ。
ちなみにメイフィの言った貴族報酬とは、王国内部の危険な場所……即ちダンジョンなどで一定の功績をあげた場合、王国規約に則り評価され、陛下から褒美を下賜される事だという。
任務依頼は当然、ジェムズマイン領主ウィンディアからの出兵依頼になる。
自らダンジョン遠征に出向く事は、貴族だと出来ない……
なぜかと言えば自領でも無い相手の領地に、戦力を派遣する事は争いの起因となるからだ。
だからこそ、出兵依頼をお互い事後承認という形で出す……
内容は形式的なものだが、お互い争わずダンジョン踏破のみに注力するという書面であり争いを避ける為にも必要だ。
僕はその他色々説明を受けてサインをする。
これで漸く鉱山にあるダンジョン遠征の準備が整った事になる。
余談だが水面下では各貴族共に、方々のダンジョンへ冒険者を派遣している。
なので、この契約書面は表立って大きな遠征がある時にのみ使われる形式的なものに過ぎない。
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