第698話「ドワーフと地下坑道」


 ジェムズマインに来た商団や旅人が、龍種接近に混乱して気を失いバタバタ倒れていくので『旗を振る』事になったのだが……一向に守らないゼフィランサスと龍っ子の事で、僕は保護者としてよくお叱りを受ける。



 街に着いたら今回も衛兵長からお小言が待っている事だろう……


 随分前に旗を振っているのが見えたので龍っ子には言ったのだが、今は魔力飛行の特訓中と言われた。



 だから母親の指示が無いので龍っ子は降りなかった訳だが……街に近い場所では僕の言う事を聞いてもらう様にせねばならない。



 それもかなり急務だ……真下には門に入るために並んでいる行列が見えるからだ。



 特訓中はゼフィランサスの指示で降下なので、龍っ子は僕の指示を聞いてくれない……それなのに僕が怒られるのは理不尽極まりないと思うのだが……



 まぁ衛兵長がゼフィランサス相手に説教など出来るはずもないだろうが……


 でも一つ言わせて貰えば、一応これでも僕は男爵だ……この国が決めたルールでは少しは偉いはずだ。


 僕の周りの人間はナニカガオカシイ。



 男爵に説教をする慣れって怖いな……と思いつつも嫌な予感が的中する。



 龍っ子が行列の真横に降りたからだ。



 初めて見る龍に阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される……


 少し前までゴブリンが衛兵相手に襲いかかっていたが、武器を捨てて衛兵を盾にするくらい怖がっている。



 そして防壁上の衛兵長は大激怒している……オーガにクラスチェンジしたのか獄卒の就職先でも見つけたのだろうか?


 見るからに恐ろしい……当然ながら今の衛兵長からは逃げる準備が必要な様だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ゼフィランサス様、今日という今日は言わせて頂きます!!たとえ龍であってもルールはお守りください!そうでなければ二度とホーンラビット亭の賄いは持っていかせんし、ユイナさんの調理の一切をこの街では禁止させて頂きます!それが一番貴女様にダメージを与えられそうですから!!」



 ゼフィランサスは小さい声で『それは駄目!』と言うが衛兵長はがんとして譲らない。



 衛兵長を見ると簡易ステータスに『威圧無効(龍種)』と出ている……とうとう衛兵長がとんでも無いものを手に入れた瞬間だ。



「ゼフィランサス様、ならばお約束ください。ゴブリンさえ衛兵を頼る事例が起きました!!私がこの街で産まれてから一度も見たことのない光景です!ゴブリンが衛兵の背後に隠れる行為は!!」


「分かったわよ!じゃあこうしましょう?貴方達は目印を作る、そこで私達は降りるし餌もそこに落とすわ!なら良いでしょう?エーデル森の一部を借りるわよ?」



「ゼフィいいわよ。ワテクシは背に腹は変えられないですから!!」



 この背に腹はと言うのは『食事』の事なのが酷く悲しく感じる……龍種の威厳とは?と最近よく感じる。



「ヒロ様もご主人としてちゃんと教育をして下さい!良いですか?この街に悪評がたてば、しいてはヒロ様の自領にも影響があるのです!ここは各地への中継地点でも有りますから。ですから…………云々…………」



 僕とゼフィとエーデルはしっかり説教を受ける。



 『ゼフィランサス様とエーデルワイス様は、龍種として威厳のある行為をしてください!』と言う最後の一言でノックアウトしていたのは『エーデル』だった。



 その理由は「この様な事を『多種族』から言われたら、龍種の恥だと思いなさい!」と……以前同じ事を母龍から言われたそうだ。


 敢えてそう言われる事になった理由は聞かなかった……


 何故ならエーデルの目が既に白目で口を開けて『も……もうあかん……ワテクシ龍種の汚点まっしぐら……』と言っていたからだ………



 因みにゴブリンは混乱の隙を見て森に逃げ帰っていた。


 兵士が逃げた事に気がついた時、彼らの足元にゴブ茸(特大)が数個お礼として置かれていたそうだ。


 ゴブリン種がドロップするレアアイテムらしく、衛兵達は周囲の商人から即座に囲まれる事になったが……『身の危険より商売』……商魂たくましいと言ったところだろう……



 僕達が貴族門から入場して手続きを終える。


 そのまま常宿のひだまり亭に一旦戻り、アリン子の世話をしてから石材工房に行こうと思っていると、衛兵長に呼び止められた。


「ヒロ男爵様。街営ギルドのサブマスター、デーガンより伝言が御座います。街に戻り次第、ギルドへお越しいただく様にと。男爵様として、遠征参加の捺印をして貰う……との事です。」



 いよいよ遠征の準備が整った様だ。


 僕は衛兵長に返事をしてひだまり亭に向かう。



 ギルドより先にアリン子に用事がある……ドワーフの姫の事だ。


 どうやって外に出ていたのか今まで謎だったが、二人の靴の裏には『砕かれた木片とトンネルアント・マイタケの破片』がくっ付いていたのだ。



 木材片は薔薇村で付いたのだろう……香木片である事はほぼ間違いがない。


 しかしトンネルアント・マイタケは『どこにでもある物』では無い……そうなれば誰が手引きをしたのかは明白だ。



 問題は『何故手伝ったのか?』という事と、『何処で出会ったのか?』という事だ。



「お爺さん只今戻りました。僕がいない間に何か有りましたか?」



「おお!お帰り飯はまだ準備中じゃぞ?風呂ならすぐ沸かすが……ってお湯はお主が出したほうが早いな……」



 宿の亭主にそう言われたので、僕はアリン子に用事があるのでと言う……



 そしてギルドにも用事があるので、アリンコの用事を済ませた後すぐに向かう事を言っておく。


 お爺さんは気を回すので、風呂準備をして行き違いになると悪いからだ。




「おお、わかった。そう言えば確かにデーガンの奴が何度か来たな。急ぎでは無いと言っていたので忘れてた」


 僕は宿の裏口から宿裏手にある畑に向かう。



『オカエリ、イイコニマッテタ……チョコチョウダイ』


 僕はチョコを3個ほど出してビニールを取ってから口に放り込む……



『バリ……ボリボリ…』



「アリン子に聞きたい事があるんだけど良いかな?ドワーフの姫達を街の外に送り出したのはアリン子?」



『ウン。ソウダヨ?ナンデ?ワタシガツクッタ、スアナガミタイッテイッテキタノ……ダメダッタ?』



 話を聞いてみると、どうやらドワーフの戦士団はアリン子作の地下坑道に興味があった様だ。


 この世界では意思疎通が図れる魔物などそうはいない……人語を話す魔物は知識レベルが高く、凶暴かつ危険だ。


 しかしアリン子は違う、魔物寄りではなく何方かと言えばこっち寄りだ。


 だからこそトンネルアントの坑道について、ドワーフ鉱夫達へ情報提供する為にアリン子と接触したのだろう。



 そして話をする内に中を見れるか?と言ってしまったそうだ。


 当然会話の最中に『餌付け』があった事は間違いない様で『干し肉を沢山くれる小さい人間』とドワーフの事を言っていた。


 アリン子にとっての認識的はドワーフも人間も変わらない様だ。



 そして坑道の作りをドワーフ達に褒められて、あちこち見せて歩く内に外への出入り口の案内をしたそうだ。



 『万が一の時は、干し肉と引き換えに坑道を使わせる』契約をしたそうだが、契約方法はマッコリーニとひだまり亭の亭主のやり取りで覚えたという。



 ここでもマッコリーニの教育が行き届いていた。



 だがここで新事実が発覚した。


 僕が構ってあげられない間にアリン子は、マッコリーニと他2商団と『マイタケ販売契約』をしたそうだ。


 話を聞くと契約内容は『トンネルアント・マイタケ』の取引で間違いはないが、アリン子側は餌付けの外に『ジェムズマイン全域でのアリン子の保護』が条件になっていたそうだ。


 なんとこの件には、ひだまり亭の亭主も一枚絡んでいて『商工ギルド』全体がアリン子を保護する契約までになっていた。


 トンネルアントマイタケを亭主が持っている所を、フラッペに見られてフラッペがマッコリーニに猛突撃。


 マッコリーニはそんな事実を知らない為、今度は亭主に猛突撃……結果、亭主とアリン子の繋がりから契約に至ったそうだが、ハリスコは契約の時にちゃっかり居たそうだ。


 ハリスコの暗躍人極まる行為だ……だが、この件の立役者はひだまり亭の亭主である……


 話を上手くまとめる亭主は、本当に何者だろうか……?と思ってしまう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る