第697話「街への帰り道」


 ドワーフの姫達も見ていたらしく、ギール男爵と朝一緒に食事を共にして食堂から送り出したそうだ。



 それを話したミドリは『最後にあのオモチャを出して見たのはそれが最後』と思い出して言っていた。


 どうやら食堂では話の流れで袋からあのオモチャを出してしまった様だ。



「なら……場当たり的な窃盗の可能性も出てきましたね………朝のうちに村に来て即村から出た商人や冒険者、そして特に『鑑定士』は何か鑑定の手段を持っている可能性があるので危険ですね。転売する可能性を視野に入れた行動かも知れませんし。まぁ可能性があって、推測だけの話ですけど……」



 僕がそういうとマックスヴェル侯爵とソーラー侯爵が、薔薇村に残る騎士団にそれを調べる様に伝える。



「アンタ良く気がつくね?その僅かな情報で……ってか諦めてなかったんだね?」


「あれ金貨何枚すると思ってるんですか?オモチャの割に意外と高いんですから……絶対捕まえてやりますよ!」



 僕とエクシアはそう言ってから笑い合う……しかしエクシアは……



「あ……倉庫の中覗くの忘れてた!くっそぉぉぉ………薔薇村って約束したのに!」



 僕は『思い出しちゃいました?』と意地悪く言うと、エクシアに肩をグーパンチされた。



「まぁ良いさ……実際それどころじゃ無かったしね。それで気にしてたテントは大丈夫なのかい?」


「はい。鑑定士の技術や鑑定スクロールの性能では『今のところ平気』です」



「今のところってのが怖いね……まぁ領民に凍死されるよりはマシだよな……それで他の建物も順調なんだろう?言い忘れて来てないよな当分遠征で帰れないぞ?」



 流石エクシアはギルマスだけあった。


 僕が気にしていたことは全て手短に確認してくれたので、忘れ物が無いと再確認できた。



「じゃあエクシアさん、僕達が先に飛び立つと龍っ子が馬の視界に入っちゃって怯えちゃうので先に行ってください……」



「ああ。確かにそうだね、まぁどうせ追い越されるけどね……じゃあ先に行ってジェムズマインで待ってな。いいかい?一人では絶対に穴蔵に行くなよ?」



 エクシアにはどうやらお見通しだった……


 僕が異世界メンバーに危険をさせたく無い気持ちが。



「行きませんよ!参ったなぁ……」


「おい!ヒロこれでも俺やユイナは歳上なんだ、今度こそ勝手にあっちこっち行くなよな?今はお前達の保護者役なんだからな!これでも大人っぽくな!」



 ソウマに駄目だしをされてしまう……どうやら僕一人で向かっても、この勢いならばエクシアと共について来てしまうだろう。


 『側にいない危険より、一緒に居る安全』を選択した方が皆の為だと良くわかった。



「ソウマさんこそ、ベロニカさん悲しませない為にも、鉱山遠征で無茶しちゃ駄目ですよ?良いところ見せようと、ロズさんと馬鹿みたいにに走って行くのが想像出来るんですから!」



「「「「違いない!!」」」」



 僕達はそう言って笑っていると、エクシアが合図を出す。


 どうやら伯爵と公爵の馬車の準備が整った様で出発した様だ……



 エクシア達はすぐにスピードを上げて、伯爵達の馬車を追い越す様に走っていった。



「さぁ!龍っ子、ゼフィそれにエーデル街に帰ろう!」



 僕達も皆を見送った後秋晴れの空に向かって飛び立った………



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヒロ殿安心してくだされ!街はちゃんと計画図案に基づき作って………………」



 急激に高度を上げたせいで、村長の声は途中で聞こえなくなった……でも言いたい事は聞かなくても理解できる。


 村長は頑固では無いが真面目すぎるのだ……


 遊び心を持って、もっと伸び伸びと村人と過ごしてほしい……せめて僕が領主の時くらいは楽をして欲しいものだ。



 だが村長が真面目すぎるその理由も簡単だった……悪辣副村長のせいで苦労をずっとして来た村長なのだ。



 今は村の住民の為にその身を捧げる覚悟が出来たのだ。


 以前の様に泣き寝入りなどは死んでもしないだろう。



 それはそうと、僕達の見送り住民の殆どが見送りに来てくれた。



 ちなみに、僕が鉱山遠征に行く事は既に漏れている様で、皆が心配していた。



 『領主なのにそこまでしなくても……』と言った声が多かった。



 だが精霊が消えてしまえば、彼らの生活は非常に辛いものになる……


 休耕地が出来る様な訳ではないのだ……土地は活力を失い植物を育てる力が極端に弱くなるそうだ。


 助けた土精霊ノーミーや森っ子の話では、森精霊や土精霊がいなくなった場合、精霊に関連性の高い作物の収穫は激減すると言う。


 それ以外にも普通の植物さえ育ちにくくなると言うのだ。



 精霊の祝福が無いと土地が枯れ果てるのであれば、絶対にそうなってはならない。


 だから僕は鉱山遠征に向かうしか無いのだ……



 自分たちの世界に帰る為にもだが……



 ダンジョンに行く前なので、薔薇村に来たついでにゴーレムを回収したかった。


 だが意外にも、ゴーレムは街づくりに適していたのでそれは叶わなかった。



 それにゴーレムに作業をさせている魔の森は人間には悪影響がある。


 その上そこから生産される木材は、薔薇村を街にする上での貴重な資材になっていた。



 多くの穢れを吸った樹木は、寄り集まり魔の森を形成するに至った。


 だが手順を経て加工すれば実は特殊な素材になる事がわかったのだ……それであれば使わない手はない。



 そしてその素材は、領地内の拠点作りに一躍買っているだけで無く、武器防具の製作にも役立っていた。



 その様な理由から僕はゴーレムを回収できなかった……


 せめて街が出来上がり、人々の仕事が安定し終わるまではこのままが良いだろう……という判断だ。



 ちなみに巨大なゴーレムが活躍できる場所は、ダンジョンの場合は天井が高いボス部屋しか無い。


 しかし居ると居ないでは、当然だが大きな差が出る。



 ゴーレムは巨体の為、後ろに隠れてしまえば僕自身へ攻撃が被弾する確率が減る。



 だが破壊された場合は当然ゴーレムが邪魔になり、破片などが散乱する攻撃を受けた場合は足場が不自由になるデメリットもある。



 色々シミュレーションした結果のゴーレムによるデメリットだ。


 そして火炎窟の場合、ゴーレムの本体である石の巨体を溶かせるだけの熱量が一番危険だ……


 操作中に頭の上から溶岩を被る事だけは避けたい……流石に即死する。



 通常なら有り得ない事だが、異世界だけに何をされるかわからない。



 そしてゼフィランサスの環境報告では、ダンジョン周辺には幾つかマグマ溜まりがあると言う。



 だが今のところはマグマによる侵蝕はダンジョンには見られないらしい。


 それはダンジョン特有の能力のお陰か、それとも別の意味で何かかは分からない



 しかしながら安心はできない。


 その問題のフロアが、ゼフィランサスの行ってない下層域にあってもおかしくはない……


 未踏破ダンジョンだけに、何があってもいい様に覚悟をするべきだ。



 ゼフィと話しながら考えに浸っていると、ジェムズマインの街が見えて来た……



「ねぇゼフィ……今の話では貴女亭主を巻き込んでダンジョンへの連れて行くのよね?」



「エーデル言い方って大切よ?それに巻き込んだ訳じゃ無いわ……妻に関わりの強い精霊を救出に行くのよ?」



「そうね……ゼフィ。言い方って大切だわ。貴女の今の説明は言い訳にしか聞こえないもの。それはそうと……もう街よ?そろそろ降りる様に娘さん言わないと街が大混乱よ?」



 ジェムズマインの物見櫓には衛兵が居て、クロスを描く様に旗を振っている。



 意味は『すぐに降りろ』だ……

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