第696話「一路ジェムズマインへ!」


「侯爵様、多分嘘ではないですね……本当に大切なものであれば、別の形でしまっておくでしょうし……そもそも取られやすい場所には置かないでしょう」



 僕がそう言うと、申し訳なさそうに頭を下げる二人。


 怒っている訳ではないが、相手の目的が明確にならないのでどうにも気持ちが悪い。



 しかし伯爵達は別の事でも悩んでいたようで、ウィンディア伯爵が言い辛そうに話し始める……



「ヒロ男爵……それはそうと、今日はジェムズマインに戻らねばならん。鉱山遠征の件で街は今は忙しいのは、ヒロ男爵も分かっているだろう?それに姫様方の荷物の件も放置など出来ない問題だ。万が一にも危険があるかも知れないからな。昼過ぎには悪いがこの薔薇村を発つぞ?」



 結局は姫達は改めて来てもらう事になる様だ。


 今日は既に作業する気分では無いようで、親方衆に明日また来ると謝っていた。


 親方衆からすればドワーフの姫に頭は下げさせられ無いという事で、都合はいつでも姫達側へ合わせると言っていた。



「じゃあ移動の準備もしておかないとなりませんね?中にいた人には全部荷物を忘れずに出して貰わないと……二度と取り出せなくなってしまうから……」


 そう告げて皆に荷物纏めるように促す。


 侯爵達はその言葉を不思議がったので、テントに残すと二度と手元に戻らない……と教えておく。



「面白いテントだな?畳むと暫くして吸収してしまうと言うことか……まるで……ダンジョンだな?」



 ソーラーの言葉に僕はギョッとする……



 まさにその通りだ……ダンジョンとの違いは、吸収させた物はテントの外に絶対に出せない……そして設備になったものに何をしようが、次回使う時には元通りだと言う事だ。



「おお……ここにおりましたか。伯爵様すでに馬の用意は出来ました。何時でも馬車を走らせる事が出来ます」



 声をかけて来たのは村長だった。


 どうやら伯爵達は移動の準備をお願いしていた様で、馬車本体と馬の連結が終わった報告だった。



「あとハルナ様とミドリ様、次に薔薇村へお越しの場合には私の家を休憩所としてお使いください。一応こんな老ぼれですが村長をしております。他の家よりは村長の家という事で入り易いと思いますから」



 村長はそう言うと、一礼してから食堂を出て行った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあジェムズマインに帰るよ。準備はいいかい、忘れ物ないね?特にロズとソウマ……アンタ達忘れ物あったら薔薇村まで走って取りに帰らせるからな?」



「「無いっス!!」」



 エクシアは半ばあきれる様に二人に言う……食堂の仕事が終わってから二組のカップルはドワーフの事など意に介さず自分達の世界に没入していたからだ。


 エクシアとすればお互いの恋愛の邪魔はさせないが、目に見えると弄りたくなるのだろう……


 ドワーフ姫の所持品窃盗事件が解決しないまま村を後にする、なんとも歯切れの悪い帰宅となった。


 しかし今は仕方がない。



 ドワーフの所持品探しを終わらせる替わりに『土精霊の消滅』では比較対象にもなりはしない。



「お二人の姫様にはこの様な事になり非常に申し訳ない。今の優先事項はここだけの話……土精霊の奪還なのです。ですが騎士団数名には残り、問題解決をする様に指示をしました。薔薇村ギルドにも同様です。しかし今となっては、ヒロ男爵の言う通り、荷物が帰ってくる可能性は限り無く少ないでしょう」



 ウィンディア伯爵も相当にやり辛いだろう……


 一つ問題を片付けても、また新たな問題の種が埋まっていて既に芽を出しているのだから。



 しかしドワーフの姫ミドリとハルナは『ご迷惑をかけます。中身は本当に大した事のない、鍛冶をする時の着替えなのでお気になさらないで下さい』『ジェムズマインの鍛治場でも新しいのが買えますから』と気にしない様に……と二人が言う。



 僕は彼女達が次元収納を持っているのを知っているので、そこまで心配はしていない。


 そもそもマジックバッグには、鍛治で使う為の必要な物を用意していただけだとわかっている。



 鉱石類も少し入っていた筈だが、それを言えばまた面倒になる……と彼女達も思っているのだろう。


 ミスリル・インゴットやクリムゾン・ミスリルが入っていたら、状況は間違いなく違うだろうが……



「ねぇパパ?私達が乗ると馬車動かないから……飛んで帰るけどパパも一緒に帰ろうよ……」



 ゼフィランサスとその娘、そしてエーデルワイスの事を知らないマックスヴェル侯爵の事を考えると面倒だ。


 だが村に残ると言えば不自然しかない。



「じゃあエクシアさん伯爵様、僕は龍っ子達と先に帰りますね?」



「便利で良いな?だが馬がびびるから向こうでやってくれよ?」



 エクシアと伯爵達そしてソーラー侯爵は事情を理解しているが、マックスヴェル侯爵については別だ……そう思ったが貴族情報収集能力を僕は甘く見ていた……



「ゼフィランサス様の背に乗って帰るのか?空は魔物が少なそうで良いな。では街で会おう!ヒロ男爵よ」



 そうマックスヴェル侯爵は言うと、馬車をジェムズマインに向けて走らせる合図を御者にする。


 御者は漸く出発か……という顔をしつつ渡された荷物を積み込み始める。


 ちなみに龍っ子の背に乗って帰るのは僕だけだ。


 エクシアは『乗りたい』と言ったが、全員から『リーダーとしての自覚!!』と言われて却下させられた。


 そして最後までミミは『ガシッと!!』と言っていたが、最後の一言はカーデルの見事なチョークスリーパーで途絶え、グッタリしていた。



 ルーナ直伝『絞め殺す直前スリーパー』だと言う……



 ミミはルーナからのホールド耐性を手に入れたそうで、そこから研鑽した結果『抜け出し』と『死んだふり』の技術を会得したそうだ。


 ちなみに皆が『新種のスキル』と言っていたが、鑑定の結果スキルではない……生存本能が『ぎりぎりの死んだふりを演出している』様だ。


 だが幼い時から一緒のカーデルには『死んだふり芸』が見破られてしまい、ミミは強敵のルーナより格上である『天敵』を得た様だ。


 ちなみにミミ属性のエルレディアは『ガシッと』に興味があった様で、馬車から降りようとした瞬間エルフレアの手刀で意識を刈り取られていた。



 エルレディアを馬車の荷台に紐で括り付けたエルフレアは『ミミと共に居るとエルレディアの崇拝対象がミミになりそうだ……先に街へ向かいます』と言って馬車を出していた。



 ミミの精神汚染はすでに『種族を超越した侵蝕』レベルなのかもしれない……マモンやヘカテイアと同じ全世界の敵という事だ。



「じゃあ龍っ子街へ帰ろうか?」



 僕がそう言うと、ゼフィランサスは『可愛い愛娘ちゃん……帰りも特訓よ!』と言う……



「じゃあ帰りも尻尾にぶら下がるからね?……さてと……エーデルワイス貴女も手伝ってくれるかしら?」



「ええ勿論構わないわよ?乗っているだけだから。でも懐かしいわね……幼い頃に『母親ってなんで尻尾に乗るのか……?』ってずっと思っていたけど……貴女と戦う様になって有り難みがわかったわ。でも流石に二人の龍を抱えて飛ぶのは大変ねぇ……まぁゼフィの子供らしいけど……」



 龍っ子は帰りも尻尾に二人が乗るのかと思ったのか、すでに白目だった……


 尻尾での強撃をするのに必要な訓練と言うが、某お猿も特訓したら弱点では無くなった。


 だから尻尾の特訓はそれなりに意味があるのだろう。



 僕達は離れたところで龍化する龍っ子を見ていたが、マックスヴェル侯爵は初見なので実際に目で見てびっくりしていた。



「では皆さん街で待ってます……あ……あれ?マックスヴェル侯爵様そう言えばギールさんが馬車に乗ってませんけどお忘れでは?ドワーフ姫の件ですか?」



「ギールか?アイツなら朝のうちにジェムズマインへ送ったぞ?執事に前もって連絡しておいたからな」



 執事は短く『起床されてから食事を終えて、早々にジェムズマインへ向かわれました』と言った……


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