第695話「透明化する犯人とその行方」


「おばちゃん!焼き魚追加で……あとご飯おかわり!」



「エク姉さん朝から食いますね?あれだけ昨日飲んでたのに……」



 ロズはちびちび魚を摘んでいる……目線はテリアを追いかけ中だ……


 テリアが魚を解してくれるのを待っている……のは目に見えているが、テリアは食堂の手伝いに行ってしまった。



 ユイナが食事を終えると、食堂の目まぐるしさを見兼ねて手伝いに行き、ミサもあとを追いかけ調理手伝いに向かった。


 アーチとミクそしてカナミまで手伝い始めたので、テリアだけロズといちゃいちゃ出来ないのだ。



 ちなみにソウマはドワーフ姫との酒の飲み比べで撃沈中、二日酔いでテントに居てベロニカが面倒を見ているので二人はここには居ない。


 ちなみにソウマが本当に酒で撃沈なのか、ベロニカに撃沈なのかは不明だが……


 なのでベロニカも食堂を手伝っていない。



 ロズが仕方なく自分の飯を持ってソウマの部屋に行こうとするが、エクシアに首を押さえられて『お前がベロ娘の邪魔をしたら……お前の春はあたしが冬にするぞ?いや折角だから、お前の頭と同じ様な草も生えない『氷河地帯』にするか?オイ………ロズ?』と怒られていた。


 ロズは首をブンブン横に振り、不貞腐れ顔でちびちびと魚を解していた……



「おはよう諸君!いい朝だ。どうした?そんな顔をして?」


「マックスヴェル侯爵……飯屋で大声を出すな。すまんな皆の者……今しがた起床した。アレは何というか悪魔的なベッドだな?ヒロ男爵よ。全く起きることがなく、完全に寝坊してしまった。執事が起こさなかったら昼過ぎまで寝ていたと思うぞ……」



 朝飯をもう食べたと思っていた侯爵二人は寝坊したそうで、かなり遅れて食堂に来た。


 窃盗事件があった後なので、守銭奴マックスヴェル侯爵を見る目は冷ややかだ。



 しかし、ほぼ時を同じくして伯爵達も来る。


 朝から村長宅で、ドワーフの姫達が薔薇村にくる事の打ち合わせをしていたそうだ。



「なんだ?どうした………エクシアまでそんな目で見るとは……何なのだ?」



「どうした?エクシア……相手は侯爵様だぞ?ダンジョンではない以上問題は無しにしてくれるか?」



 マックスヴェル侯爵の言葉に合わせて、ウィンディア伯爵もエクシアに話す。


 伯爵とすれば自領での問題は避けたいのだろう。


 だがエクシアは、お構いなしに侯爵へ質問をしてしまう。



「マックスヴェル侯爵……今までアンタ寝てたって言ったよね?それを証明出来る奴はいるかい?」



「儂は部屋で一人で寝ていたが?起こしに来た執事と騎士団なら全員テントで控えていたぞ。それが何だと言うのだ?いったいどうした?」



 侯爵は突然疑いの目を向けられたので、事の詳細の説明を僕達へ求めた。


 それに対してエクシアが臆すことも無く、ドワーフの姫が持ち込んだマジックバッグが盗まれた事を話を話す……


 侯爵は流石に事実無根だ!と怒ると思われたが、予想を反して笑い出した


 どうやら、このような事は日常茶飯事のようだ。



「お前達の期待を裏切ってすまんが……残念だが儂ではないな。そもそもそんな物を昨日儂は見てないのだぞ?お前達も見ではないか……昨日は即座に部屋に入っただろう?あれから儂は装備を外し、水筒の水で身体を拭いてから布団に包まったのだ……そしたらうっかり寝てしまって今起きたんだ。それに儂は武器の類に全く興味がないのでな……だがあのテントであれば盗んででも欲しいがな?がはははは」



 今はテントの中に人がいるので、テントは畳む事が出来ない。


 中に人がいる間はテントは盗まれる事はないが、他の物となれば話は変わる。


 姿を隠せる人間がいる今は要注意だ。



 そう思っていると、予想外にもマックスヴェル侯爵が大きな声を出す……



「おい!騎士団、この村から誰一人出すな!旅人や商人そして冒険者に怪我人も含めてだ!どうやらドワーフ王国王女の品が盗まれた。荷物あらためをして盗んだ者を即座に見つけて斬首せよ!王国の恥を表に出すな!」



 そう言ってマックスヴェル侯爵は指示を即座に出す。


「いいかヒロ男爵……呑気に事を構えるな!!これはもはや国絡みの問題だ……お前の管理する村で『無くなった』では済まんのだぞ?我が国の民がドワーフ王女の物を盗んだのだ。犯人の斬首だけで済む話でもないが……な」



 マックスヴェル侯爵は腐っても貴族だった……『国益にならない問題は、すぐにでも明確にする必要がある』と言って僕達を黙らせる。


 もし本当にこの件にマックヴェルが無関係ならば、侯爵としてかなり面倒な事件に巻き込まれた事は間違いないだろう。



 ドワーフの姫が持つ物を王国の国民と思われる者が盗んだのだ……



 今のところ侯爵達は、犯人の目星が立たない以上は国民を疑う他ない。



 持ち物に僕の私物が混じってようが、侯爵にしてみればそんな事はドワーフとの争いに比べれば小さい事でしかない。



 マックスヴェル侯爵は、ソーラー侯爵にも騎士団を出して村を封鎖するのを手伝うように言った。


 当然だがソーラー侯爵は、マックスヴェル侯爵が言う前に行動には移していた。



 だが、内心では彼の企みだと疑っていたので、その言動全てに驚いていた……犯人を捕まえる事に全力を注いでいるからだ。



 僕もその行動を見て犯人の目星が外れたので、給仕が言っていた事を伝えみる事にした。



「実は先程とても変わった事がありまして……この店の給仕が『動く床』を踏んで転んだんです。しかしその後の床は何ともなかったそうで……。どうやらその動く床と言うのは、スキルの類では無く『マジック・クロークの裾』ではないかと思うんです……多分透明になれる類かと……」



「「「「クローク?」」」」


「クロークとは……あの着るクロークか?」



 凄い反応を示すマックスヴェル侯爵に、ソーラー侯爵とザムド伯爵は疑いの目を向ける。



「それが誠ならば儂は断然欲しいぞ!?妻が不貞をはたらいているか調べるにはうってつけではないか。最近若い伯爵共にべったりなのだ。もし不貞が分かったならば断じて許さぬ……相手は元より父親諸共貧民生活をさせてやる!」



 ザムド伯爵とウィンディア伯爵をチラッと見るマックスヴェル侯爵だったが、ザムド伯爵はユイナにお熱でウィンディア伯爵は奥さんにべったりだ。



「「我々は断じてそんな事はない!」」



 力強く両伯爵が否定を示すが、今それは問題ではない。



「因みに伯爵様……多分その封鎖は失敗します。もし思った通りのマジッククロークだとして、透明になれる物なら視力頼りでは見つける事は不可能です。それに姫達はマジックバッグを失ってからそこそこ時が経過しています……元から盗む目的だったなら、既にこの村には居ない筈ですから……」



 二人は『それも仕方ないが、何もしなかったでは示しがつかん』『侯爵としての責任問題もあるからな……何かせねば陛下に顔向け出来ん』と交互に言う。



 2時間程村内を探索した結果、村人や鑑定士から冒険者に至るまで誰も持っていなかった。


 しかしそうなると、場当たり的な犯行ではなく綿密に計画した犯行となる。


 ドワーフ王国の姫様達の持ち物を限定とした窃盗事件という事だ。



 それに気がついたのか、ザムド伯爵は本当に心当たりがないの聞く。



「姫様方……本当に心当たりがないのですか?間違いなく窃盗犯は姫達がドワーフ国よりジェムズマインへ来ているのを知っているのです。



「ミドリも私も密命を受けた訳でもないので……元々私達はジェムズマインへドワーフの暴走を止める為に来たのです。持って来た物と言えば、ドワーフの鍛治道具以外は旅用の着替えだけです。あとは途中の村で買った非常食くらいですね……それもどこにでも売っている干し肉ですよ?」



 姫達はあれこれ言いながら、思い出すがやはり心当たりはないようだ。

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