第690話「守銭奴?マックスヴェル侯爵登場」


「有名な個人ギルドであっても所詮冒険者という事だな!!侯爵が目の前にいるというのに挨拶も無しか?私は侯爵だぞ?伝手を作ろうとか思わんのか……嘆かわしい……」



 憤慨する侯爵は相手にされなかった事が相当気に障ったのか、テントの中に聴こえる様に言う。



 マックスヴェル侯爵は内部が異空間になっていると知らないのでそうしたが、その声はエクシア達には届いてはいないだろう。



 内部は魔力拡張の後に、僕のレジェンドスキルで再拡張され今の部屋数は50にもなっている。


 トロル用に改造したテントの要領で、サイズは人間用だ。



 ちなみに此方にはドワーフの姫がいるので、失礼なのはマックスヴェル侯爵だろう。



 炉作りで泥まみれの顔だとしても、姫には変わりがない。


 言葉を間違えば、ドワーフと人族の国交に問題があっておかしくないのだから……



 皆僕の言葉を気にしているが、エクシアは既に入って行ったので、このテントの存在を知るメンバーには、自分の部屋の確保をする様に言う。


 流石に男女別のテントを作れない……と言うより出せない。



 マックスヴェル侯爵と言う問題児が目の前に居るのだから、出してしまえば欲しがるに決まっている。


 僕はひとまず、テントの周辺を警備しているドワーフ戦士団にも中へ入る様に勧める。



「僕はまだ話さなきゃならない事があるので、ドワーフ戦士団の皆さんは先に中へどうぞ……」



「ヒロ様、マジックテントがどういう物か分かりかねますが、さすがにテントには姫様方が居るので我々は中には入れません。我々はテントの外で姫様を守りますので……」



 ドワーフ戦士団は姫の警護を優先して、テントの部屋を使うのを遠慮している。


 今更遠慮されても、姫様二人は絶対にキングサイズのベッドにダイブしている事だろう。



 それに僕も同じテントの部屋で寝るのだから、刺客が来た場合僕も無事ではない。



 そもそも村の外にはトレントやらエントなどがいる……更に夜はハーピーが多く村を監視しているので、まともな神経を持っているなら薔薇村で事件を起こそうとは思わないだろう。


 村の中にはエルフ親衛隊もいてエクシアも居る。


 そして絶望的な戦力を持つ火龍と緑龍が居る時点で、刺客を送り込んだ黒幕の命は絶望的だ。



 僕に何かあった時点で、犯人が分かるまでゼフィランサスは暴れ回るだろう……


 ここ最近依存度が高いせいか、鉱山に居る時間より街にいる時間が多い。


 それだけ今の生活が楽しいという証だからだ。



 それらに理由から彼等全員でテントの周辺を警護せずとも、姫様の部屋前で見張り程度で十分という事だ。


 テントの入り口を通る以外は、姫に近づく事自体が無理だからだ。



「じゃあ一度中を見てもらって、姫の居場所だけ把握してください。そもそもそうしないと二人を護れませんよね?中の状況は実際見れば意味わかりますから。休息をどうするかはお任せします」



 そう言ってから、テントの外に残っていたソウマにお願いして、ドワーフ戦士団を半ば強制的に中へ案内する。


 ウィンディア伯爵にザムド伯爵そしてリーチウム伯爵は、今のところ何も言わずに静観中だ。


 時間も遅いので僕は話を終わらせる為に、ソーラー侯爵へ中に入るように勧める。



「ソーラー侯爵様、良ければこのテントで泊まってください。部屋の間仕切りがあるのでトロルのテントと同じです。中はサイズが違うだけです。ですがお風呂は女性優先なので、全員入り終えたらになると思いますので期待はあまりしない方が良いかと……時間的に遅いですから……」



「風呂ぐらい構わんよ。宿でお湯さえ貰えれば布で湿らせて拭くさ。宿が無いので助かった。すまんが騎士団達の分も相部屋で借りても良いか?場所が無ければ無理には……って部屋が足らない事などないか……」



「えっと……マックスヴェル侯爵様、宜しければ今日は僕のマジックテントでお泊まりになりますか?皆同じテント内となりますがそこは我慢してもらう感じになりますが………もう夜もふけて遅いですし……」



 僕は問題児を部屋に閉じ込めてしまえば問題はない……と考えての事だった。



「万が一気に入られてもお譲りはできませんので……あしからず……」



「ふん。マジックテントだろうが所詮テントだろう?こんな見窄らしいテントが気にいる訳無い。まぁ今宵は仕方ない……討伐遠征だと思って我慢してやろう。それにもう既に深夜だからな、其方の言う通り話は明日の方が良いだろう。それに面倒な奴が目の前にいるからな、では案内するが良い」



 随分な上から目線だが仕方ない……マックスヴェル侯爵を中に連れて行くと、あれだけ文句を言っていたのに第一声が変化する。



「ヒロ男爵このテントを売ってくれ!!我が領地の一部と交換でも良いから頼む!!」



「マックスヴェル、貴公は先程全く異なる事を言って馬鹿にしていたでは無いか?そもそもこの様な物を端金で買えるわけがないだろう?領地となれば最低半分、それも其方が治める街も含まねばならんぞ?奥をみろ『風呂付き』だぞ?見た事もない素材で区切られた……別室の風呂だ!」



 マックスヴェルはソーラー侯爵を睨みながら『口を挟むな』と言う表情をするが、僕はこのテントを通じて懇意になりたいとは思わない。



 そもそも近いうちに始まる『遠征用』なのだから……その事をしっかりと伝える。



「マックスヴェル侯爵様、これは遠征用に持っていく予定なのです。だから先程欲しがってもと付け足したわけでして……」



「マックスヴェル侯爵様、私はこのジェムズマイン領全域を治めるウィンディアと申します。ヒロ男爵は今回の遠征に欠かせない人物です。鉱山のダンジョンは深く危険なのでこの様な拠点が必要となるのです」



 マックスヴェルはウィンディアの言葉を聞き、暫く考え込む……


 何かの答えを出したのか、何故かウィンディアに興味を持った様だ。



「ウィンディア伯爵よ……話はよく分かった。ところで聴きたいのだが、ヒロ男爵とは懇意なのかね?その様子だと以前より知り合いの様だが?ちなみにヒロ男爵は、鉱山遠征に出ると言う事だな?鉱山迷宮に潜っても平気な程の実力があると思って良いのか?」



「はい?ヒロ男爵とは冒険者の時よりの知り合いにございますが?娘達がフォレストウルフに襲われた所を助けて頂いた大恩人に御座います……。鉱山は元々、ザムド伯爵の管理下にありました。ですのでその時には迷宮の存在をヒロ男爵は知っていますが?……それが?」



「いや何……確かここの『鉱山迷宮』は銀級の実力が無ければ開示されない条件だったはず……だと思ってな?更に管理者は先代の領主……要はお主ら二人の祖父が管理していた筈だからな。成程……あのダンジョンは『マジックアイテム』の宝庫だと言う事だったか……」



 マックスヴェル公爵は、盛大に勘違いを始めた様だ……何をどうしたらそう行き着いたかは不明だが……



「私は部下や雇った冒険者を、各地のダンジョンに使いを出している。全ては財宝を得る為だ。これは何度でも言おう!全て財宝を欲して故のことだ!!だが、未だかつてこの『マジックテント』を手に入れた事がない……情報さえだ……何故か?と思わんか?」



「それが我々と何の関係が?」



「お主らが管理する鉱山迷宮は元々『ドワーフ族』の拠点があったと聞く。鉱山を掘る坑夫がどうやって過ごしていた……それが答えだろう?ザムド伯爵よ?……それをヒロ男爵が見つけた……数が多いのは『そう言う事』だろう?一度に手に入れる数にしては『多すぎる』ならば……迷宮は『特殊ダンジョン』と言う事になろう?」



「ぐぬ……それは………」



 事情を知っている二人は僕が異世界人とも言えず、このテントが異世界産だと言う話もできない。


 それにフレディ爺さんの事も触れられない……苦虫を噛み潰した様な表情になる。


 ターゲットがまさかの自分達に移ったからだ。

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