第689話「大誤算?ソーラー望まぬ貴族の来訪」
食事を終えた僕は一度テントを作りに村長の家の倉庫に向かった。
皆は食堂で団欒を楽しんでいたが、コッソリ戻るわけにも行かないのでそれを言うと『頑張れよ』の一言で送り出された。
薄情な仲間だなぁ……と思いつつ村長宅へ向かう。
今この村では安心して物作りが出来る環境は、村長の部屋の倉庫だけだ。
部屋には窓があるので、僕とお近付きになりたい輩が窓に張り付いている……
村長にお願いして部屋を借り部屋に入ってすぐに、部屋の窓の外から声をかけられたのでかなり焦った。
ストーカーが怖いと言う気持ちがよく分かった瞬間だ。
許可も無く平気で部屋を覗き込む輩の持つ常識とは……何だろうか……
イスクーバが注意するも、その隙を見て他の鑑定士や商人が話しかけてくる……仕方ないから窓が無い村長の家の倉庫に移動したわけだ。
それを無事作成して広場の一角に設置していると、当然鑑定士が集まってくる。
時間的にはかなり遅いので、村民は家でゆっくりしている時間だった。
だからこそ集まって来たのは、村外から来た者だとすぐに分かる。
「通さぬか!我は『侯爵・マックスヴェル』なるぞ!退かぬか鑑定士共」
押し退けて僕のそばに来たその男は、僕を見下した感じで話をし始める。
「我はマックスヴェル爵位は侯爵なり。其方はテントを設置しているからにはヒロ男爵に仕える冒険者と見た。今すぐヒロ男爵を連れて来い!何を置いてもすぐにだ。お前やお前のパーティーが苦労したくなければだ……意味がわかるか?お前に言っているんだぞ?冒険者」
それを聞いた周辺の鑑定士は、この侯爵に『今話かけている冒険者風の男が、そのヒロ男爵です』と伝えようと試みるも、周りを囲む騎士団に追い立てられてしまう。
「おい、ヒロ男爵。泊まる場所がなんとかお前のメンバーが騒いでおるぞ?……ぬ?貴公………マックスヴェル侯爵か?何故この村に?」
「ソーラー侯爵よ何故も何も無いだろう?聞いたぞ……ウーバイのヤツに?それにマジックウェポンの箱の話を聞いたのだ。来ない方がおかしいではないか!そもそもヒロ男爵という男にお主が同行しているのだ、ならば我も同行して問題はないだろう?『同じ同盟貴族同士』なのだからな?」
そう言った後マックスヴェルはあたりを見回す仕草をする……
「おい!そこのお前。早く呼んでこい、ソーラーが居るならこの周辺に居るってことだろう?そのヒロ男爵って奴が……まったく使えない冒険者め!」
マックスヴェルがそう言った時、見るに見兼ねた村長がマックスヴェルに『僕が探している男爵だ』と教える。
「な!?何だと……お主が?おい!ソーラー知っているなら、お主が教えても良かろう?それにヒロ男爵と言ったな?何故自分がそうだと言わない!」
上から目線で言われたので、僕が本人だと知ったら『慌てる』と思っていたが、全くそんなことは無かった。
寧ろ更に言い方が酷くなったくらいだ。
「そう言えば……お主の事を執事に調べさせたら『冒険者上がり』の貴族だと言っていたな。確かに見かけ通り、賤しい冒険者の様だな……。まぁ我等の派閥に入れば、他者から馬鹿にされる事だけは無くなるだろう」
「おい、マックスヴェル!辞めろ」
「辞めろだと?おかしな物言いだなソーラー侯爵。条件を厭わず、ダンジョンを全て踏破するのが最大の目的なのだろう?お前は陛下の前で、大きな声でそう言って我々を集めたでは無いか!私は自分に幸があるなら『全力で手伝う』と言った筈だ!誰から悪辣貴族と呼ばれようとも財は力だ!それは間違いでは無いぞ、ソーラー!!」
睨み合う2人はお互いの目的の為に手を組んでいるだけで、ソーラー侯爵はダンジョンの破壊そしてマックスヴェル侯爵については、財宝が目当ての様だ。
マックスヴェル侯爵は自分でそう大きな声で言ったので、間違いはないだろう。
当の侯爵は僕を見て、相変わらず悪態をつく。
「ヒロ男爵よ、身なりはどうにかした方が良いぞ?同じ派閥で我が恥をかくのは我々だからな……冒険者として活動するのに文句など無い。私は今言ったが『財宝』が大好きだ。悪辣貴族?構わんさなんて言われても。そもそも金がなければ飯は食えんのだ!そう思わんか?」
気持ち良いほどまで、お金に執着している様だ。
「それで?まさかヒロ男爵様ともあろう者が『この見窄らしいテント』で泊まるとか言わんよな?村長、他に宿はないのか!?まさかあれだけとか……言うまいな?」
村で一番大きい宿を指差して、見下す様にいうマックスヴェルにソーラー侯爵が『そのまさかだ!そこさえも今は空いてないぞ?残念だったな?マックスヴェル……』と嫌味を言う。
「相変わらずだなソーラー侯爵。其々の目的をいい加減受け入れて貰わねば、お互いの今後に問題が出るぞ?」
「分かっておる。だが最も大切な事を言うとすれば『此処はお主の領地』では無い……という事だ。物言いは気を付けねば陛下からお叱りを受けるのは、まとめ役の私と言う事なのだ!陛下のお気に入りだからな?コイツは……」
ソーラー侯爵は『誰の管轄下にある領地か……』と言うと、面白く無かったのか憎まれ口を言う。
「ふん、こんな何も無い村だとは思わなかったからな!そもそも魔物が村に居るなど……それだけで、陛下の歩む道の妨げになりそうだがな?そうは思わんのか?異常過ぎるだろうこの薔薇村は。そもそも、ヒロ男爵が本当に陛下のお気に入りだとすればの話だろう?」
微妙な距離感で牽制し合っている2人だったが、その状況を崩す輩がいた……エクシアだ。
「おい!ヒローー!!マジックテントの準備はどうなんらい?アタイもう酔っ払うぞ!!ベロニカの肩借りないと歩けないんらから!!」
「エクシア姉さん飲み過ぎですよ?っていうか酔ってますから!いくらドワーフ国の姫様と仲良くなったからって、相手はドワーフですよ?酒で勝てる訳ないでしょう?ピンピンしてますよ!?お二人とも……」
「らって負けられないじゃらいか!……うぃっく………風呂入って寝たいゾォ!ヒロ!はやくーーー!」
エクシアのその言葉に、マックスヴェルはテントを見渡す……
「まさか………この全部マジックテントか!?……なんて奴だ!!これだけでかなりの財産だ。成程……王が気にいる訳だ」
そう言って一番近くのテントに向かっていくと、実際に手で触って確認する。
「不思議な作りだとは思っていたが……素材は布でもないのか!?雨など全く影響がなさそうだ……冬が近づいている今でも、外で使える性能は非常に素晴らしい」
ぶつぶつとなにかを呟きながらソーラー侯爵を見て『ソーラーお前はコレを知っていたのか!?何故派閥に属している皆に言わない!』と怒声にも近い声で言う。
当然ソーラー侯爵にはとばっちりに近いが、そもそも知っているからと言って誰彼構わず説明する必要もない。
テントは自分の物でもないし、出どころさえ不明なのだ。
「仕方ないだろう?この者は『我らの派閥ではない』のだ。情報など聞けるわけがあるか!教えて貰えば、派閥間でどれだけ問題になると思っている?借りを作ってそのままで済む筈はない事くらいは、お主が一番知っているだろう?」
「ソーラー……そこを上手くやるんだろう?」
「ならば聞くが、我々に何の情報が出せるんだ?こんなマジックテントと釣り合う情報を、マックスヴェル侯爵殿はお持ちか?」
そんな侯爵同士の喧嘩をよそに、テントの準備が整っているのを見たエクシアは、ドワーフの姫達を食堂から連れ出す……
「コイツがアタイたち自慢の魔法のテントさ。中がとてつも無くすげぇんだぞ!?今日はギルドマスター権限でアンタ達も泊めてやろう!ヒロには文句は言わせないから。でも泊まった結果、テントを気に入ってもやらないからね?さぁ入った入った!奥に風呂があるから、入ってきな。姫さんたち顔埃まみれだぞ?」
エクシアは、マックスヴェル侯爵の事を一度も気に留める事なくテントへ入っていく。
酔っていたので周りが見えていないのだろう。
僕は顔も名前も知らないので、エクシアも下手すれば知らないのでは?……と思ってしまった。
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