閑話『trick or treat」5

「何を……俺に恥をかかすな……貴族の女だと知っていれば声なんかかけるか!」



 周りの目がある為威勢の良さを出そうとする冒険者に、悪魔っ子は話しかける……



「マッサン貴方が悪い……彼女は口説くには危険。今の私より彼女の方が強いから……」



 マッサンと呼ばれた冒険者は、悪魔っ子を見て説明を聞くとギョッとしてゼフィランサスを見る……



「おチビより強い!?……嘘だろう?俺はおチビに手も足も出無いんだぞ?」



「それは本当……手合わせした事ないけど。多分、今の私が本気出しても長くて一刻で死ぬ。早くて半刻で……バラバラにされる……」



 マッサンは何度も悪魔っ子とゼフィランサスを往復してみる……



「戦って見る?私は人差し指だけで良いわよ?更に此処から動いたら……私の負けで良いわ……」



 そう言ってデコピンの様な素振りをすると、マッサンは後ろの吹き飛ぶ……



「あ!御免なさい……つい空気を軽くはじいただけなんだけど……これでも駄目なのね……指でも無理かも知れないわ……」


 そう言ってゼフィランサスが指を指す場所を見ると、プレートアーマーが完全にひしゃげていた。



「うぉ!?何者……ま……まさか………噂の龍!?」



「はじめまして火龍のゼフィランサスと申します、こっちは緑龍のエーデルワイスよ、ハッピーハロウィンをやりに来たの!貴方は知っている?ハロウィン……」



「い!いえ!自分は知りません!教えて頂けますでしょうか!ゼフィランサス様!!」



 マッサンは直立不動で背筋をただし、まるで騎士団の一員の様な素振りを見せる……


 自分が相手しているのが人外であり、現時点で大問題の噂の主だった。


 ゼフィランサス越しに見える冒険者の表情が絶望的を物語る……逃げるべきか……止めに入るべきか悩んでいるが、後者は間違いなく死ぬのだ。


 すると意に解さないゼフィランサスは、ハロウィンの説明を楽しそうにする。


 まるで新しいおもちゃを貰った子供の様に……


「ハロウィンって言うのは、毎年同じ日に小さな子供がねお化けの格好して『トリック・オア・トリート、食べ物くれなきゃ悪戯するぞ?』って言うから、大人が食べ物をあげるお祭りよ?本当はあげるのはお菓子らしいの……だけど、お菓子は簡単には手に入らないでしょう?だから食べ物をって事なのよ。これは大人と子供が触れ合う素晴らしいお祭りなの!そうよねエーデル?」



「ええ!龍族は家族を大切にするからこれほど良いお祭りは無いわ!家族を大切にする種族は繁栄を意味するのよ?その理を知ってるかしら、貴方達人族は?」



 エーデルワイスとゼフィランサスの説明を受けたマッサンは、間違えて理解した……


 『この王国でハロウィンをやらないと、この世界に住む私達の家族とはみなさない』と理解してしまった。



「質問があります!エーデルワイス様、ゼフィランサス様………食べ物は何でも良いのでしょうか?」



「ええ!何でも良いわ、気持ちが大切ってヒロが言ってたわ!」



 エーデルワイスがそう言うと、周辺からざわめきが起きる………



「ヒ……ヒロと言うのはもしや……ヒロ男爵様はお知り合いなのですか?」



 するとエーデルワイスは『ゼフィランサスはヒロの奥さんよ?知らないの?』と暴露する……そして問題は更に大きくなる……



「と言う事は……この王都に奥様を?ま……まさかトンネルアントの件で?」


「ああ……あの群れならもう居ないわよ?来る前に私が焼き払いエーデルワイスが酸で溶かしたから……素材を取りに行くなら地面がまだ熱いから明日にしなさい」



 事のついでに焼き殺しエーデルワイスが強酸ブレスで溶かした事だったので軽く答えた筈だったが、人間には死活問題だった。



 その情報に一斉に湧き上がる民衆……



「ヒロ様が!!ヒロ男爵様がまたもや救ってくださったぞ……皆聞いたか?」



「ヒロ様の奥様達があのスタンピードの魔物を全て葬ってくれた。万歳、ヒロ男爵様!万歳、ユニバース国王陛下!!」



 その盛り上がりがハロウィンのお祭りと思ったのか、龍っ子がやらかす……



「ハッピーハロウィン!!トリック・オア・トリート!食べ物くれなきゃ悪戯するぞ?」



「「「食い物だ!!今すぐ皆持ってこい!!」」」



「いいか!?出し惜しみするな!」



「アンタに言われたく無いよ、マッサン。アンタはどうせ逃げてばかりなんだから、装備売ってでも買ってきな!」



 ハロウィンの意味が全くもって勘違いされた瞬間だった……



 民衆によって龍種のために山積みにされた食材を、今度はゼフィランサスの指示でギルド職員が恵まれない孤児や、スラムで暮らす訳ありの人間に施しをする。



 『ハロウィン』の情報を直接ゼフィランサス達から聞いた人々は、感謝の気持ちから食材を提供した。


 しかし事情を知らず民衆を見捨てて王都から逃げた貴族達は、より多くの食材を提供する様に王命が下された。


 当然事情を本当の語られる事は無く、逆らえば領地は燃やされる『恐怖のハロウィン』となった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「パパ、ただいまー!」



「ああ、おかえり龍っ子。ゼフィランサスにエーデルワイス……何処に向かって行ったのかな?」



 僕は机の上のお菓子を『ススス』っと自分の方に引き寄せる……



 僕の冷たい視線に耐えられなくなった訳ではなく、お菓子が目に入って釘付けのエーデルワイスは『ワテクシハ、オウトニイッテキタデ、アリマス!!』と即座に片言で答える……



 素直に話したエーデルワイスを、僕はおいでおいでして椅子に座らせる。



 クッキーを一枚渡して『孤児院』に食事に行ったのか聞くと、口に放り込んでから『うん』と言う。


 次にチョコを渡して何処に行ったかを聞くと『ギルド』だとすぐに白状をする。



 僕はやっぱりと思いつつ、お菓子が入った小皿を渡して王都で長時間何をしていたのか聴く。



 お菓子が食べたいエーデルワイスと龍っ子はすぐさま『ハロウィン』を広めきたと白状をする。



 その惨状が心配になったが、もはや後の祭りだ。



 終わった事を心配しても、今更どうする事も出来ないのだ。


 時間は戻せないし、見聞きした人間は多い筈だ。


「まぁハロウィンを広めようとした事は悪く無いけど、行き先くらいは言ってよ。一緒に行けたかもしれないじゃ無い?」


 そう言うとゼフィランサスは大喜びをする。



「是非来年は一緒に王都でもハロウィンをしましょう!娘も喜ぶわ!」



「あのねパパ、今日はアリンコいっぱい倒したよ!スタンピードとか言うのがあったんだって!ママとエーデルワイスがぼぼぼーんってやっつけて、私はバコバコバコ!って接近戦の練習をしたの!」



 龍っ子の問題発言を聞くと同時に、宿の下からテカーリンの怒声が聞こえてくる……



「悪戯しすぎだ!!お前ら今度は王都で何をした?王宮から名指しで俺が呼ばれたぞ!勘弁してくれよもう!!」



 龍っ子のテカーリンへの悪戯は始まったばかりの様だ……お菓子があっても止まることは無いだろう。

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