閑話『trick or treat」4
「あ……あの伝説の火龍と緑龍が護衛を買って出るですと!?………」
「さぁ、そうと決まれば早く行きましょう?えっと貴方名前は何だったかしら?」
ゼフィランサスはシリウスの側に寄り、『早く行こう……下手するともう始まっている』と耳打ちする。
は!っとした顔をした後『自分の名前はシリウスです』と名乗ってから、場所を指差しながら騎士へ命令を出す……
「こ……孤児院は此方ですわ!急ぎましょう。嫌な予感がするわ妹が子供達を見ているのですが……自分から『残る』と言ったのです!!隊長はすぐに私の替わりに陛下へ報告を!陛下の前では、私からの命令と言いなさい!いいですね?コレは厳命です!」
姫は騎士団の返事を聞かずに小走りに向かう……
「ゼェゼェ……此方の裏手の建物が……ハァハァ……こ……孤児院です!」
「ママ!とエーデル……もう始まってる!!匂いがする!!」
「分かってるわ……急がないと無くなる!シリウスって言ったわね?担ぐけど良いかしら……それとも自分で歩く?」
「か……担いで下さいまし!!た……食べ損なうぐらいなら!!」
ゼフィランサスはシリウスを『ヒョイ』と担ぐと目に前にある建物に猛然とダッシュする。
「た……ただいま戻りました………。院長先生もうお加減は………カ……カノープス!!なに勝手に始めているんですか!!」
「あら!?意外と早かったのね?おねぇ様………チィ……」
カノープスの周りには腹ペコちびっこ怪獣が既に群れをなしている……
皆が木皿を持ち、ユイナ特製ハロウィンランチを我先にねだっているのだ。
「悪魔っ子にゼフィ、あとエーデルもいらっしゃい。待ってたわよ?本当に食事が無くなる前でよかったわ……なくなったら暴れそうだもの貴女達三人は……」
後ろからそう話しかけられビックリする四人だった。
悪魔っ子は『お食事会』が始まるとシリウスを迎えに行った。
だが、王宮に向かう騎士の中にはシリウスは居なかったので、龍っ子の気配を探して空間移動をした。
院長先生が倒れていた為、代役はシリウスになりそうだった……
しかし龍種が現れ騒ぎになった為、運良く進行役を手に入れられそうなカノープスは『姉の分』も自分で食す計画に移った……
だがシリウスはゼフィランサスの機転の良さに救われ、無事帰還に成功した訳だった。
姉妹の激突は避けられそうも無い……食の恨みは怖いのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでは、お食事会を始めます。今日の糧をくださり、大地の神様に心より感謝いたします!では食べましょう。いただきます!」
「院長先生!カノープスおねぇちゃんと、シリウスおねぇちゃんを許してあげてください!」
「なりません!この孤児院で食で争うなど言語道断、ユイナさんが皆の為に用意したのに……こんなおめでたい日に喧嘩なんて!幾らおふたりでも此処では許しません!ヒロ様とユイナさんの御加護の元私達は生きながらえる事ができたんです!そこで反省して下さい。そもそも民の手本になる御二方が………くどくどくど…………」
ゼフィランサスとエーデルワイスは非常に目が泳いでいる……
何か言ったら多分自分達も『同罪』になりかねない……『口は災いの元』なのだと院長を通じて理解した。
『此処では院長先生がルール……そしてそのルールは全員平等である』
平等な為、二人の食事はしっかり用意はされている。
だが、見るだけで食べるのは『王宮』へ持ち帰ってからだ。
当然持ち帰るのは騎士の役目で、姫は触る事も許されない……それが『院長ルール』だった。
この院長ルールは以前に起きた姉妹喧嘩が原因で出来たものだ。
『オルトスの焼き肉』これは2人には衝撃的だった……
皆で食べる温かいご飯、そして濃い目に作られた非常に美味しい漬けダレ……肉は王宮では食べられない特殊肉……
最後の一枚を巡って二人は喧嘩になったのだった……孤児達でさえ半分にして食べるのに、姫達は争ってしまった。
そこで生まれたのが『院長ルール』だった。
「御免なさいーーー!もうしません!!妹のカノープスとは仲良くしますから!!」
「おねぇちゃんと仲良くしますから!院長先生ーーー!!御免なさいーーー」
初めは皆が食べづらかったが、孤児院のハッピーハロウィンパーティーが続く……
急に大人しくなった姫達は何故か口をもぐもぐ動かしている……孤児達はそれを見てクスクスと笑う。
「あ!!悪魔っ子ちゃん!駄目でしょう?ズルはいけません!貴女いま二人の口に中に御飯を放り込んでたんでしょう?」
「だって………可愛そう……院長先生前に言ってた。誰しも間違いはある、赦すのも優しさだって……それにユイナおねぇちゃんが一番悲しむと思う。それはどうなの?院長先生皆の為に頑張ったおねぇちゃんの努力は無駄になっちゃうよ?」
黙った理由は簡単だった……口に中に何かが入っていれば話せないのは当たり前だ。
その理由は悪魔っ子の空間移動だった。
前にチョコを動かしとった方法だが、順番に口の中に用意された御飯を放り込むだけなのだから簡単だ
見てて可愛そうと思った悪魔っ子は、コッソリと合図を出していた。
「む……むぅ……仕方ありませんね、悪魔っ子ちゃんの優しさと、今日の御飯を用意してくれたユイナさんに免じて、食事を赦します!ですが次回はありませんよ?同じ事をまたしたら3度目ですから、流石に王様へ報告させて頂きますからね?」
そうして食事を許された2人だった。
「良いですか?これからハロウィンのお芋配りもあるんですから、喧嘩は駄目ですよ?」
「「はーい……」」
気のない返事を出す姫様を『キッ!』とした目で見る院長先生だった。
「院長先生は亡くなったおばあ様みたいに厳しいわね?おねぇ様……」
「そうね、本当に食べさせて貰えないなんて思わなかったわ。孤児院で喧嘩はやめましょう……」
「じゃあ食べ終わった人からお皿をキッチンに持っていって下さいね?そしてお出かけの準備をしてください。今日は午後から王都ギルドでハロウィンの配給です。私達と同じように恵まれ無い人へ渡す様に、男爵様から差し入れを頂きましたので!」
龍っ子は院長先生と一緒に王都ギルドへ向かう……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「龍種が街にいるって本当か!?」
「人化したところを見たんだよ俺は、上空で人になって王都に降り立ってた!」
「ああ!俺も見たぜ!でもどこに行ったかまではわかんねぇよ!」
そんな言葉が飛び交うギルドには、多くの人が集まりごった返していた……当然ながら龍種が原因だが、問題の龍なら目の前に居る。
冒険者は護衛の仕事で稼ぎ時だし、商人は他所の街に移動の斡旋やをする。
街民は情報収集と安全確保のために逃げ込んでいた。
そんな訳で、貴族やら冒険者が犇めき合い凄いギルド前は人数だった。
ハロウィンの風習など無い異世界では、仮装も当然無い。
配給の告知さえしてないので、大きな箱を持った孤児院の面々には興味も示していなかった。
しかしゼフィランサスとエーデルワイスの顔面偏差値の高さは嫌でも人の目を引く……
「おい、そこの姉さんもし護衛を探しているなら安くしとくぜ?もし何だった無料でもいいぜ?夜飯と酒でも奢ってくれるならだけどな!」
「ふふふ……威勢の良いボウズじゃないか?力比べで勝ったなら飯でも何でもご馳走するぞ?」
その言葉に遠くに控えていた王国騎士が慌てて割って入る。
「やめておけ!悪い事は言わん………」
てっきり冒険者は自分が悪役にされていると思い口を出そうとするが、騎士が守るのは女性ではなく冒険者の方だった。
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