閑話『trick or treat」3


「龍が怖いのはわかるけど、酷いわねぇ……あんな風に逃げなくても良いと思わない?折角助けたのに……」



「でもゼフィランサス……よく考えると仕方がない事よ?今でこそこれが普通だけど、ある意味異常だから。此処の雑魚を倒した後、先に城に着くのはどう見ても私達よ?



 飛びながらゼフィランサスとエーデルワイスはそう話す。


 既に王都が人の肉眼でも確認できる距離なので、人間側も当然龍種に確認ができている。



「龍種が二匹こっちの方向へ向かっているって……本当なの!?」



「見張り台の話では龍が来たって話だぞ!」



「物見櫓で既に避難指示を出しているんだ!龍だろうが何だろうが危険には変わりない!」



 王都では住民が大騒ぎだったが、悪魔っ子は『ああ……やっぱり聴いてたんだ。多分食べに来るとは思ってたけど……意外と早かったな……』と思っていた。



 前もってこうなると想像していた悪魔っ子は、院長先生に『手紙』を渡す時に『多分後で龍が来ると思うよ?』と言ったのだが、全員に笑われていた。



「まぁまぁ……悪魔っ子ちゃんの言う通りになったわ……ちょっと私はギルドに避難所の空きがないか聞いてきますから、貴方達は此処で隠れているの!分かったわね?」



「院長先生大丈夫……。ゼフィランサスとエーデルワイスは多分『ハロウィン』やりに来た……。二人は喧嘩するけど、お祭りが好きだってお兄ちゃんが言っていたから……」



 院長は『お兄ちゃんって男爵様?って事は……まさか此処に向かっているの!?この孤児院に!?』そう言って倒れてしまう。



『バタン…………』



「副院長先生!!」


「副院長先生、院長先生がまた倒れた!!」



 孤児達は伯爵本家で掃除をしている副院長を呼びに行く……


「まぁ!?『また』なの?床を柔らかくしてもらわないと、そのうち打ち所が悪くて死んでしまうかもしれないわ!こう毎日何度も倒れると……」


 院長はノミの心臓で有名だった。


 何かある度に倒れるので『ノミ院長』と孤児から弄られる程だった。



「今度は何が原因なの?」



 副院長の言葉に孤児が全員で『龍族のゼフィランサス様とエーデルワイス様が此処の孤児院に来るそうです!』と言うと……



「ハァァ……男爵様ね?全く!王様には伝えたのかしら?……仕方ないから皆で王宮へ行くわよ、陛下に伝えないとカノープス……おっとっと……カノープだったわね今は。早く院長先生に手紙を残して家に戻るわよ。お父様にお知らせせねばならない事が……」



「今聞いてたから平気よ。シーリーお姉様、悪魔っ子ちゃんと此処に私は残るわ。じゃないときたのに居ないとなったら、王都中を探し歩くはずよ?」



「それも……そうね。じゃあ皆とお留守番してて、私と騎士団数名で戻るから」



 そう話した副院長と副院長補佐は、王から密命を受けていたので自分の役割を果たす。



「それにしても……ハロウィンって何よ!あんな美味しそうな匂い早く食べたいのに!!何で報告で帰らないと………」



 愚痴をこぼすシリウスだったが、龍種が来るとなったら最早どうしようも無い。


 それも目指す場所は間違いなく孤児院であり、悪魔っ子曰く『暇潰しのお祭り目的』だと言うのだ。



 すると王都に響き渡る『警報の鐘』……最大警報の為王都の全ての鐘が一斉に鳴らされる。



『ああ!もう……うるさいわね!王都へ危害なんかないわよ!あるのは私達の住む孤児院だけ……あれ?私住んでなかったのに……何で家だって思ったのかしら……まぁ良いわ陛下の元へ急がないと!』



 そう思いつつ王宮へ急ぐシリウス王女……


 しかし急に周囲が日向と日陰に目まぐるしく変わり、異変を感じた王女は上空を見上げると……そこには三匹の龍が王都の上を旋回していた……



「ほいっとな!」


 そう言葉が聞こえたと思うと、シリウスの目の前に一人の女性が『落ちて』来た………



「きゃあぁぁぁ………」


「な!?人!?………怪しい奴め……姫を!姫を守れ!」



「あいやー、ごめんごめん……人が居ない場所目掛けて降りたはずだけど……丁度走って来たとは……はじめましてワテクシは緑龍のエーデルワイスです!よろしくねぇ………ねぇ……ちょっと聞いて良いかしら?『孤児院』って何処かしら?」





「あ!貴女……エーデルワイス!!馬鹿なの?ちゃんと謝りなさい!龍族として嘆かわしい……申し訳ありません。人の子よ我が龍族の者が迷惑をかけました。この王都で問題は起こしませんのでご安心を。私は火龍ゼフィランサスと申します。実は知り合いが居る『孤児院』について調べていまして……孤児院についてお知りであれば場所を教えていただけませんか?」



 シリウスの目の前に運が良いのか悪いのか、問題の龍種二人が現れる……


 丁寧な口調で話すゼフィランサスに比べてエーデルワイスは妹を見ている気分になる……一言で言えば態度が本当に適当なのだ。



「大丈夫です……話は『悪魔っ子ちゃん』から聞いてます。『ハロウィン』ですよね?」



 そうシリウスが言うと、ゼフィランサスの後ろから飛び出てくるちびっ子がいた……



「悪魔っ子は何処?お姉さん……龍っ子はね『後で行くね!』って言っておいたの!だから来たんだよ?」



 シリウスは首を90度孤児院の方に向けて『元凶はあの子じゃ無いか!!ふんがぁぁ!!』と心の中で叫んでいた………



「今から御案内します。王都への被害は本当にないと思って良いのですね?」



「勿論!私達はハロウィンのお祭りで来たんですから!そうよね?エーデルワイスと私の可愛い娘ちゃん?」



 エーデルワイスと龍っ子は『フンスフンス』と鼻息を荒くしつつ早く行きたいと意思表示をする。



「貴方達は陛下に連絡を『私は孤児院へ戻ります』ので………」



「な!何ですと!?姫様そんな事が……我々にそんな事が出来る訳がありませぬ!」



「出来るかできないかでは無いのです。貴方達は『報告に行きなさい』と命令しているのです。私の命だったら間違い無く無事です。理由はヒロ男爵絡みですよね?知られたらまずいでしょう?三人共……」



「「「な……何の事でひょうか………」」」



 隠すのが下手な三人の表情は騎士団でさえ『ああ……無事だなコレは……相談せずに勝手に来たんだろうな……』と見抜かれてしまう……



「姫様絶対にご無理はなさらぬように、レドラとミッシュお前達は姫のお側仕えで残れ!龍種の皆様、この方は王族にございます故お側仕えの同行は御容赦願います」



 周りの誰かいるか確認した後、騎士の一人がそう話す。


 それを聞いたエーデルワイスは、早く孤児院に行きたい為にすぐに返事を返そうとゼフィランサスを見る。



「良いんじゃ無い?ゼフィランサス。私達は『ハロウィン』をしに来ただけだし、人族へ何かをしに来た訳じゃ無いし……そう思わない?」



「エーデルワイス良いも何も……そんなの人族の好きにする問題でしょう?私達は『孤児院』の場所を聞いただけでしょうに……寧ろ気になるなら騎士の方々の説明でいいのでは無いですか?」



 龍種二匹の決定に文句など言う事ができない騎士達だったが、姫はその会話に混じっていく……



「それでは困るんです!私が……あの悪魔っ子ちゃんが持ってきた『アレ』を食すまでは………決して王宮では………くぅ……」



 それを聞いた龍種の三人は『ニヤリ』とする……



「凄く意見が合いそうなお姫様ね!騎士の方々安心しなさい。彼女に悪さをしそうな奴がいたら、地の果てまでも追いかけて八つ裂きにしてあげるわ!そもそも私たちが居て、護れないことなどは万に一つ無いわ……」



「そうねゼフィランサス、私も同意するわ。この子は『分かっている側』よ……護る価値があるわね!」



 龍っ子もウンウンと言っているが、実は何のことか分かってない。


 分かっているのは『同じ腹ペコ同盟軍』だと言う事だけだった。

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