第682話「巫女カーデルと巫女もどき認定のミミ」
しかし、スライムが僕の仲間でも無いカーデルに懐いた、その理由はお婆婆様の報告で明らかになった。
「またもや迷惑をおかけしまして本当にすまんですのぉ……領主様。カーデルの両親ですが実は双方共に元々はマタギでしてな、幼い頃から森を駆け回っていたんですじゃ。ですが巫女見習いになった事で、村外へ修行に赴いた際に偶然『テイム』のスキルを身につけたそうなのですじゃ……。本人が鑑定士に聞いたとの事で、皆がそう思っていたのです」
そう言ってきたお婆婆様は僕に獣の牙を見せる。
それはカーデルの母が『テイム』して連れ帰って来た『サバンナ・クアール』と言う豹化の魔物の牙だと言う。
まじまじと見ていると、お婆婆様は話の続きを始める……
「先日巫女様と東の宮禰宜の父親に許可を貰い、カーデルが村の外で修行をし始めたら……その日のうちに『母と同じスキル』を得たのです。幼体とは言えフォレストウルフを手懐け帰って来まして……。調べて見れば、どうやら女性家系にのみ発現する『特殊なスキル』な様でございましてなぁ……」
そんな事をどうやって調べたのだろう?と僕は思ったので聞くと、この村には今『鑑定士』が山の様にいると言われた。
カーデル親子はテントを宿として貸し出す代わりに、ステータス鑑定を依頼したそうだ。
ちなみにカーデル親子はと言えば……お婆婆のテントで、家族全員がぎゅうぎゅう詰めになりながら泊まっているという。
そもそもの生活基準が僕達がいた世界と違う生活の為、カーデル家族はあまり気にしていない様だが……
「領主様……お借りしている物を勝手に貸して申し訳ありません。我が家にはもはや、帝都や王都の鑑定士に依頼できるだけの財力がないのです。こうでもしないと上位鑑定さえ出来ない有様なので……」
ちなみに、借りた物を又貸しするのはダメな事だと言うのは、この世界も共通の知識の様だ。
それを平然とやるロズやエクシア、そしてベンが異常なだけだった。
そう言われた僕は『別に自分の暮らしが不自由になるだけですし、貸したから新しいテント貸してくれと言われているわけではないですし』と言って返す。
「ヒロ領主様スライムの件も申し訳ありません。ミミを止めるのが私の役目だと思うのですが……実は私にも分裂した個体が懐いてしまい……」
そう言われたので、僕はカーデルの肩に乗っているスライムを鑑定する。
『Lv3 スライム幼体・分裂個体(契約者カーデル/親スライム・有り)…………』
確かに見る限り、分裂した個体で間違いがない様だ。
しかし他のスライムと異なるのは『幼体』という状態だと言う事だ。
「カーデルさん、咎める気は無いですよ?でも、その時の詳しく話が聞きたいんですが……。僕の時に似ていると言えば似ているので……スライムをテイムした時って、一体どんな感じになったんです?今の大きさのままで分裂したのですか?」
「え?最初ですか?ミミに触らせてもらった時、石ころより小さいサイズのスライムが突然分裂してしまい……その時は一緒に遊んでいたんですが……。テントに着く迄私の持ち物の中に居る事にも気が付かなかったんです。夕飯時に廃棄する予定だった魔物肉の骨に飛びついてきたので……気が付いたんです。後日この村に来ている鑑定士様に調べて頂いたら『テイムスキル』で常に従魔にし易い状態だという事でした」
どうやら説明の限りでは、スキルの関係で『テイム』に自動成功するそうだ。
こっそりスキルについて鑑定してみると……『従魔の囁き………パッシブ効果。特定条件下で、強制無しに魔物と意識を交わすことができるスキル。深く魔物に傾倒すると、自身が人型の魔物に転化する恐れあり』と出た。
危険を伴うスキルだが『パッシブ効果』の為に、オンとオフが出来ない……
彼女の父親の為にも、魔物に心を寄せない様にさせなければならないだろう。
だがそれをこの場で言えば、周りの鑑定士の目を引く事になる。
僕がそれをどう注意しようか悩んでいると、ミミがとても興味深い事を言い始めた……
「ししょぉー!!ミミから報告があります!カーデルちゃんは、私と一緒に修行の旅に出る許可を、父親の禰宜様と巫女様に取りましたのです!だからミミの居るパーティーに加わる事になりました。まず冒険者登録を済ませて、この村周辺の魔物退治をして来ました!」
話を聞く限り、どうやらその時『スキルの存在』に気が付いたのだろう。
まるで子犬の様なフォレスト・ウルフが、僕達の周りをぐるぐる回っているので間違いなく『テイム』されている。
それも『強制』ではなく『仲間』としてだ。
感知でも敵性反応がないので間違いはない。
しかしミミの言葉で引っ掛かる点がある……
ジェムズマインでは、初心者が退治依頼をすることが出来るのはスライム退治か、稀に出てくるゴブリン程度だった。
それ以外は薬草集めだったはずだ……僕はそれを不思議に思い聞いてみる。
すると、ミミの代わりにエクシアが……
「防壁で守られた街や王都と、村の基準が同じわけないだろう?街や都の類は周辺にかなり危険なダンジョンが幾つかあるんだ。それに血気盛んな馬鹿が多く集まるのは、アンタも何度かは見てるだろう?それにこれは前にも言ったはずだけどね?」
そう言われて僕は、村のギルドと街のギルドの扱いも違う事を思い出した。
街と違って冒険者の数が段違いで違うのだ。
使える者は見習いだろうが何だろうが使わなければ、村への脅威は取り除けない。
それらの理由から、各依頼や基準はその村や街に一任されていた。
「それに、街に来る奴や王都に集まる奴等は、我先に突っ込んでいって間違いなく死ぬだろう?だからこそのルールさ。それに比べて村は、親や先輩冒険者に連れて行って貰って最初に取るべき行動の全てを覚えるんだよ」
各パーティーのメンバーは6人以内で組むのだから、ミミ達のパーティー的には1人足らないので丁度いいだろう。
それにミミの側にいれば、僕の『鑑定』についていずれ知る事になる。
その時に『魔物になりたくなければ、人と魔物の垣根は超えない様に』と言えるだろう。
「じゃあカーデルさんは、ファイアフォックスのメンバーに登録する事になるんだね?因みに冒険者登録は何でしたの?巫女って項目はないんでしょう?」
「私は元々マタギの家系なのでレンジャーの特訓はしてるんです。あとは薬師のスキルを少々扱えるのと、祈祷で回復師と似た効果を出す事が出来ます。まだ見習いの域なので効果は短いですが……」
「そうなのです!カーデルちゃんは、出来の悪いワテクシの失敗を全部カバーしてくれる、人間ができた子なのですよ!スンバラシイでしょう?」
カーデルの万能感は素晴らしかった……予定外の掘り出し物にエクシアは大喜びだ。
だがその反面ミミの失敗が目につくだろうに……当の本人は何故か誇らしげにカーデルを自慢している。
「マジかい!じゃあ……アンタ……『マルチクラス』なのかい!?」
「そうですね……実は父にはあまり良く思われて無かったのです。『巫女に必要の無い』能力で、その分もっと神通力が多く欲しかったっと……」
「何を言ってるんだい!?デュアルに憧れる冒険者なんか山ほど居るのに、マルチが良くないだなんて……バチが当たるよ!?ちなみにカーデル……神通力って何だい?」
カーデルはエクシアやパーティーメンバーの『神通力って何?』と言う質問に対して、即座にミミを見る……
「ミミ!?貴女って確か巫女の為に村の外に出たのよね?まさか……今までの旅の間に神通力は一度も使ってないの?」
『ほぇー?』と声をあげなら、何故かパーティーメンバーを見渡すミミだった。
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