第683話「ミミの影響力」


「ホェーじゃないわよ……未だ嘗て見た事ないわよ!?ミミは私が回復師だから回復を専門にって……自分は薬師だから『薬の仕事は任せろ!』って………え!?貴女まさか回復もできるの!?ちょっと、ミミ!!」



「ルーナちゃん!ミミはね……あのね、一度落ち着くといいと思うの。だって私……カーデルちゃんに言われる迄、祈祷を忘れてたんだもん……巫女の祈祷あったねぇ……」



「「「「「「ミミーーー!!」」」」」」



 エクシアまで驚いて声を上げるが、もっと驚いた人物が他にいる……それは当然宮司をしているカーデルの父だ。


 カーデルの父は呆れながら、『宮司として』口を挟む……



「ミミ……お前から祈祷と踊りを抜いたら『巫女』として何が残るんだ?」



「…………サァ?ナンデショウ………?グウジサマ………デモ……コタエルマエニ………ミミ……シンジャウ」



 激怒のルーナに首を絞められ、ぐるぐる振り回されるミミ……



「ミミができる事は簡単よ!?ムードメーカーだけじゃない。やる事なすこと滅茶苦茶なんだから……まともな事なんか今まで一度も無かったわよ?王都まで一緒に行ったけどぉー全くよ?」



「モアちゃんそれフォローになってない!ワテクシの………」



 薔薇村に滞在していたモアが、ミミの大声を聞いて呆れ果てながら声をかけて来た。



「それで今度は何をしたの!?この間は火龍に『ガシッと』って言って出て行って、帰ってきたら『得体の知れないナニカ』を配下にして……。ところ回復系が使えるって本当なの?ミミ……。もし本当なら皆が怒って当然よ?冒険者なんだから……」



 モアがそう言うと、皆が笑い始めるが宮司とカーデルは心穏やかではない。


 カーデルの父は『良いか、カーデル。水鏡村の威厳がミミの天然のせいで今や地に落ちている!お前が必ず水鏡村の名を各地に示すのだ!いいな!?』と肩をガタガタ揺らす。


 どうやらミミに任せると、水鏡村の巫女の名に傷が付くと思ったのかも知れない。


 しかしカーデル的には、父親の後押しが得られたので気兼ねなく武者修行の旅に出られるだろう。



 問題は『ミミと一緒』と言う事だ。


 村の外を知らないカーデルは下手すればミミの精神汚染攻撃を受けて、呆気なく同族に堕ちてしまうかもしれない……スライムの様に……


 しかしこれでスライムがミミ化した理由がよく分かった。


 分裂個体はどうやら個体の相互リンクを失った様で、完全に別個体と考えて良さそうだ。


 しかし、ミミの個体はぶんどった本人が『スライム様』と崇め奉るので、それ以上の関係になれない様だ。



 スライムとしてはミミについて行った手前、僕の所に居た時の様に契約者を放置するわけにもいかず、その上想像していた従魔の主従関係でもなそうだ。



 『対等な関係以上の存在になるとは、夢にも思いもして無かった』……と念話で先程から僕に愚痴っている。



 僕とすればミミ相手に『考えが甘すぎる!』と言ってやりたいが、スライムが居れば遠征時にミミグループの状況も確認ができる。


 悪いことばかりではないと諭しておく。



 だが僕は、実の所違う意味でショックなのだ……


 どうやらスライムは、僕を放置して分裂して方々に遊びに行ってた……と聞かされたのだから……そう言われてリュックの中を伺うと、精霊モンブランの宿る聖樹の苗木ごと居なくなっていた。


 分裂個体が言う事は正しかった……


 ちなみに今回のミミの無茶であることが判明した……テイムのスキルやカーデルの持つ『従魔の囁き』の様な特殊スキルありきでもなく、強制関係を構築するマジックアイテムでも無く、第3の方法『敵意なくぶんどる』では特殊な関係が築かれる様だ。



 しかし弟子が相当な問題児なら、師匠はそれ以上に問題事を持ってくると言う事を皆は気が付いていなかった……ちなみに僕を含めてだ。



 唐突にモアが切り出す……


「ねぇヒロ……ミミの事より聞きたい事があるんだけど?貴方の後ろに居る見慣れない輩で、私達エルフ族に『威圧』を向けてくる奴は………何者かしら?」



「くっくっく……面白いじゃねぇか、契約者!!お前エルフまで仲間に入れて、鉱石加工師のドワーフも抱き込んでるのかよ?だが、お前には一つ言わせてくれるか?どっか行く時には『ホウレンソウ』とか………言ってたよな?」



 あ…………やべぇ……忘れてたとは言えないが、それどころでは無さそうだ……モアが隠す事もせずエルフである事を暴露するのだから、それだけ相手に対して殺気だっているのだろう。


 エルフ族と悪魔種は、『そう言う関係』か……と理解して、即座に止めに入る。



 僕がマモンとモア、双方の間に割って入ろうとするより早く『ヘカテイア』が僕の横に来て耳元でネチネチと………



「私……『ホウレンソウ』で待ってたんですけど?宿で……私には『報告が無かったので』契約者の貴方がどこに行くかもわからないし、どこかに行くにも、『貴方が居ないから』そもそも報告もできないし!!だからといって周りに八つ当たりすれば冒険者なんかすぐ死んじゃうし!憂さ晴らしで魔物引き裂いてたら、衛兵長含めて兵士が皆逃げ出すし………何処にも行けないわよまったくもう!!……それで!?今度はどこへ行くのかしか?契約者様!?ホウレンソウは約束事では無くもしかしたら食べ物かしらね?」



 ヘカテイアは、まだ言い足らなそうな顔をするので……ゴリゴリと音を立てて寿命が削られていく……



「ヘカテイアさんにマモンさん……連絡は今貰いました……。何も言わずにすいません。急がねばならない理由があったんですよ」



 そう言っておく……取り敢えずは、身の安全の確保が最優先だ。



 ちなみに次の手札は『探し物』カードだ……それを出してしまえば、この件は片付く。


 ちゃんと『ギルマス』カードとセットにする必要があるが、彼は今この薔薇村には居ないので後で謝れば済むだろう……と言うか済んで欲しい。



 なんだったら解体中の特殊素材で、解体師のバラスを抱っこもう。



 困った時のギルマスカードは『擦りつけ』の効果が抜群なのだ!……デーモンキングは向こうに行ってもらおう。



「今から世界地図を買って、『その探し物』をしに行って来たらどうですか?万が一揉め事が起きてしまったら、誰かを殺す前に『ジェムズマインのギルマス』に向かい、その人が爵位持ちかとか権力を持っている人間かなど、しっかり見て貰ってからにして下さい……そうすればホラ!僕が居なくてもあら不思議!」



「……あら不思議には残念ながらならんぞ!?……おいヒロ何をいっているんだ?問題児なら外を探さずに目の前にいる……お前で間違いは無い!!そもそもヘカテイアとマモンを此処に連れて来たのは『誰』だと思った?俺は死ぬ思いで世界を破壊できる2個体の『魔王クラス』を街の宿に置いて、飯を食わして待たせていたんだがな?………どうなんですかな?ヒロ男爵様?」



 ああ………詰んだ!!


 考えれば、ヘカテイアにマモンは『宿から動く』はずが無い。



 何故なら、そこに僕は『大概居る』と言ったのだから……



 なら『待つ』だろう……



 そしてその方々を連れ出すならこの人か、街のことを考えてミオかシャインが説き伏せるだけだろう。



 しかしマモンは意外と待っているのも、個人的にはアリだったと言いだし始める……


「まぁ、あの宿で出された肉が入ったスープは格別に美味かったから、俺は待ってても良かったんだがな?あそこは食う為の競争相手がいねぇし」



 マモンは敵意をむき出しにするエルフ族や、精霊種に近い森の民の威圧をものともせず、そんな風に話をし始めた。


 お爺さんの作る飯が余程美味かったのか、街へ戻りたそうにしている。


 それができない今、魚以外にも何かこの村で美味いものが無いか探す気の様だ。

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