第681話「薔薇村は問題児の宝庫」


 二人は本当に街の外に脅威があると思っていなかったのだろう……



 確かに問題を起こしたのは『ドワーフに擬態したドッペルゲンガー』だったのだ……襲われると思っていない様だ。


 ドワーフならば地位や名声より鉱石なのだろう……功績違いなのは非常に残念だ。



 そう思っていたら当然、とうある名前が飛び出る……クリムゾン鉱石だ。



「刺客であれば確かにそうですね。此処で作業する私達を狙う理由は、私達ではなく間違いなくクリムゾン・ミスリル狙いでしょうけど……」



「それが加工できるのはドワーフだけでしょう?人間ではその鉱石は誰も狙いませんよ。それどころか持っている事を知っているのは僕たちだけですよ。狙うならさっきも言いましたが貴女達の『同族』です……それも僕達には仲間か刺客か区別などつかない……



 そういうと、二人は了解してくれたのか『朝から出て夕方前にはジェムズマインへ戻る約束』をしてくれた……しかしそれが毎日の日課になる様だ。



 何故それが了承されたかは、『ドワーフの姫が鍛える武器』を『薔薇村に卸す』となったからだ。



 ジェムズマインの街ではなく薔薇村な理由は、僕絡みではなく『鍛冶屋』があるからで、そのうち併設して武器屋を建てるべきだろう。



 この街の貴重な収入源になるだろうし、ドワーフの鍛冶職人も居てくれれば水鏡村のダンジョン攻略にはとても助かる。



 街が近いジェムズマインの領主とすれば、流石に文句などつけられなかった様だ。





「それで?お二人は鍛冶場の製作はどこまで進めたんですか?」


「流石ヒロね……よく聞いてくれた!見て頂戴。基礎の部分が出来たんよ!コレからは炉造りだけど、コレは人間の方法と異なるから説明が難しいのよね。ひとまずは材料探しからだかな?……出来ればミスリルがあると良いんだけど……。できれば10kg欲しい。まぁ片方でも5kgもあれば満足なのが出来るから、最低一つ作って交代で使うしかないかな?ミスリルは武器を溶かすかして手に入れるしかないか……」



 ミドリがそう言うので、この間手に入れたばかりのミスリルインゴットを出す。



「あ……そう言えばミスリルありますよ?ミスリルのインゴット『15kg』ならこの間持って帰った宝箱に入ってました。」



「あ……あんの?まさに何でも屋だね……あとはヒクイドリの卵の殻だけど……コレはドワーフ王国から持ってきてれば話が早かったんだけどね……割とレアだから王都まで行くしかないかな?」



「炎耐性の高い、火龍の卵の殻でも良いんですよね?」



「ええ……勿論……まぁそんな素材は本来、ドワーフ王国でも炉には使えないけどね?持っているのが不思議……って……龍っ子ちゃんか!」



 河童に魚を貰ってニコニコしている龍っ子を見て、そういうミドリ……



「うん!味がしないから食べたくないって言ったら、パパがもっと栄養のあるもの食べなさいって!だから食べずに済んだの」



 多分、その話について不思議に思ったのだろう……


 ハルナが質問をする……



「龍っ子ちゃんは……そもそも、なんでそんな物食べてたの?」



「そばに殻しか無かったの。そしたらパパがご飯持ってきたって!流石パパでしょう?お腹すいたの分かってるんだから!」



「因みにパパって……何故そんな……」



 そう言いかけた瞬間何となく把握できたのだろう……『ああ……餌付けしたんだぁ……』という目でハルナとミドリが見る……。



 だが断じて違う……喰われるくらいなら別の餌を!!と思っただけだ。


 僕は意識を逸らす為に、龍っ子が食べていたと言った卵の殻を出す……




「スゲェ!こんな大きい!」



「ハルナがマルっと入りそうだよ?コレがあれば凄いドワーフ炉ができるね!!」



 殻を見た二人は大喜びだ。



「後は溶解液が必要だから、村のギルドで買うしかないかな?」




「売ってるかな?かなりの量だよ?」



 そう二人が相談しているのを聞いて、僕はスラをリュックから呼ぶ。



 スラは毎日何を食べているのか、かなりサイズが大きくなったので、今連れているのは本体であってリュックに収まらない部分は分裂して街でお留守番だ。




「え?スラがいるから買う必要ないですよ?……スラ悪いけどこの鍛冶屋が出来る迄の間、分裂体を作れる?」



 スライムは『あーい』と言ってから分裂して、ハルナの頭に乗っかる。



「よろしくなのです。ワテクシはスライムなのです!お手伝いするのれす!」



 キャラ作りがミミよりなのだが……と思ったら、分裂したスライムは何故か個性があるそうだ。


 どうやら餌付けされた結果、その為人を覚えて色々な個性を芽生えさせたのだろう。



 ハルナは若干戸惑いながら、スライムを頭から下ろす。



「このスライム……大丈夫なのかい?寝ている間に溶かされたとかなったら、ドワーフと人間で争いになってしまうんだよ?本当に平気なのかい?」



「ハルナさん平気ですよ。一応従魔として懐いているんで。それに人間の言葉も理解して、ちゃんと話す事もできるんですよ?最近ゴブリン溶かしまくって、その一部を再現できる様になったんです」



 ハルナはそれを聞いて、『ドワーフ溶かしまくって、ドワーフに擬態されても困るんだけど?』と言いつつ、スライムへお礼を言っている。


 多分溶かされない為の心配りだろう。


 そんな話をしていると、聞き慣れた声が遠くから聴こえる……



「師匠ーー見てくださいーー!ワテクシのスライムも大きくなりましたよ!!巫女仲間ちゃんと武者修行中でして、頑張って周辺の魔物を頑張って狩ってます」



 スライムのミミ侵蝕化を懸念していたら、突然ミミの声が聞こえてきた。



「ちょっとミミ急に走らないでよ……あ!こんにちわ!先だっての御無礼お詫び致します領主様。」



 そう言ってきたのは、ミミと巫女修行をしていたカーデルだった。


 しかし今の発言は聞き逃せない……師匠は何時もの事だからいいが『スライムまでテイムしたのか?』と聞き取れる内容だ。



「ミミちゃん……ヒロさんの事を師匠っていうのは理解できるけどスライムまでテイムしたの?……従魔は簡単にテイム出来るものじゃないんだけど?」




 ソウマの横に居たベロニカは、黙っていられなかったらしく口を挟む。


 しかしミミは、僕達にとんでもない事を言ってのける……



「そんな事はワテクシだって知ってますよ!実はカーデルちゃんと話して思いついたのです……スライムは分裂出来るんですよ?だったら師匠のスライムを分裂させて……ぶんどれば……ですよね?カーデルちゃん!?」



「ちょ!ちょっと!?私まで欲しがったみたいな口振りは辞めてください」



 そう言ったカーデルの肩にも、テニスボールサイズのスライムが乗っている……



「それにベロニカ先輩!シャインお姉様にも許可は取ってますですよ、ちゃんとしてるでしょう?ワテクシ!!師匠の奥様が良いと言えば師匠が言ったも同然!!」



 エクシアとベロニカは呆れ果てる。



「少々状況の理解が追いつかないねぇ……って言うか、安定速度で爆走するのミミの解釈には追いつけないね……」



「エクシア姉さん……師匠が師匠なら弟子も弟子……って事ですね……。まぁ言われれば確かにそうなんですが、まさか師匠からぶんどるとは……それも許可はシャインさんって時点で完全に計画的よね?」



 しかし確認するにもシャインが居ない……そもそも何故スライムがOKしたかも謎だ。



 シャインは多分『師匠の奥様』とか言われて気を良くしたのだろう。


 その結果うっかりオッケーしたのだろうが、問題はスライムの方だ。



 勝手に増殖しまくっても困るのだ……カブトムシやクワガタとは訳が違う。



 それにまだ問題はある……ミミはわかるが、カーデルとスライムの繋がりは殆どない。


 スライムは誰でもテイム出来てしまうほどの魔物なのだろうか?


 それとも、人語を話すくらいにまで成長したからこそ何かを選んでいるのだろうか?

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