第668話「ソーラー侯爵の目的と信念」
冒険者がダンジョンから持ち帰る品が少なくなる理由は、当然『ソーラー侯爵』が関わっているのは間違いない。
『踏破』してしまえば、その土地には冒険者は行かなくなる。
そうなれば周辺の治安は良くなるが、生活方法や収入源がガラリと変わる。
魔物が居ないのだから当然だろう。
ちなみにソーラー侯爵は『悪辣貴族』の名をうまく使い、『王権派』のダンジョンへの侵攻を推し進めている。
当然『民に害が及ぶダンジョンの踏破』が目的なので王権派は無闇に断るわけにはいかない。
その上、踏破にかかる費用はソーラー侯爵一派から請求なしだ。
そしてダンジョンから持ち帰る品は8割を持ち帰り2割は『その土地の民へ施す』と言ったのだ。
周辺の村や街は内心喜んだ……危険がなくなり、お金も掛からない。
それどころか貴族が宿泊すれば、間違いなくお金になるのだ。
遠征の食料を買い溜めし、宿を取る。
帰りも同様だし、持ち切れない素材の類は村で売っていく。
潤うのだから文句など言いようがない。
ちなみにダンジョン踏破の報酬が施しより多いのは、8割は参加した貴族で山分けにしないとその後のダンジョン踏破がままなら無くなるからだ。
遠征には当然金がかかる、その上自領では無いのだから報酬を多く得るのも当然だ。
当然領主は民の前では文句が言えない。
だからこれ見よがしに王国会議の場で言うのだが、ソーラー侯爵は王権派に文句があるなら『自分で踏破しろ』と王へ直接言ったそうだ。
失礼な物言いだから罰せられてもおかしくは無いが、王様はその件には『触れなかった』という……だがあの王様は当時『言えない理由』もあったのだろう。
ドクリンゴ女公爵の件が無くなったのだから、そのうち本心がどっちにあるのかはソーラー侯爵は良く確かめる必要があると思われる……
「まぁ儂も手段を選らなばない点は反省するしかないが……理屈をどう並べても、踏破せねばダンジョンは無くならないのが実情だ。民が死んでからはでは遅すぎるのだ……」
「ソーラー侯爵が言いたい事は分かりましたが、『悪辣貴族』は王都にも居ますよね?そことはだいぶ違う気がしますが?」
「十把一絡げに悪辣貴族はされがちだが実情は違うのだよ……王都内部の貴族にはかなりの派閥がある。覇権争いに、よからぬ事を企む貴族……王権派、旧王政派それはもう沢山だ……知っているか?お前の派閥も着実にできているのだぞ?恩恵に預かりたい貴族が多く移籍を考えておる。その代表格が『聖女の血族である王妃』だぞ?リーチウムも聖女の王妃の元で英雄になると息巻いておるしな?」
僕はその言葉にハッとする……
「ソーラー侯爵!家系図にもしかして……アシュラムって人いません?」
「アシュラム?さて……分からんな。家系図は曽祖父の時代の焼失してしまったのだ……国土戦の最前線だったからな。それで?その者が我が家系に何か関係があるのか?」
僕がそう言うと皆が僕を見る……その名前を知らないメンバーも多いのだ。
知っているほとんどは現在薔薇村にいる……当人を含めてだ。
だがゼフィの表情は違う……アシュラムの名前を聞いた途端、食事が止まり目が泳ぎまくる……
「い……今はアシュラムの話をしている場合じゃないでしょう?ダンジョンをどうするの?そこの男が言った様に、ダンジョンは山の様にあるのよ?此処の街を拠点に考えても、近くには10箇所はあるわよ?そうよね?エーデルワイス……アンタも食べてないで何か言いなさいよ!?」
「ハムハムハム……うん?食べたら話すわ……久しぶりの五感が満足できるご飯よ?邪魔をしないでくれるかしら?ゼフィ……ハムハムハム……」
切り捨てた一言で、次元収納を開けてエーデルワイスの飯を放り込むゼフィランサス……
そんな手段があるなら初めからマジックバッグの用意はしないのだが……
「ちょ……怖いわよ……睨まないでくれる?……分かったわよ!分かった!!話せば良いのね……話すから今すぐ返して!」
エーデルワイスの目の前に元の通りにご飯が出される。
一度も目がご飯から離れないが、エーデルワイスは説明を始める。
エーデルワイスの説明では、ダンジョンの場所は多岐にわたる。
ジェムズマインの近隣だけで実は10箇所もあるそうだ。
一つは僕が掌握中の『トレンチ』鉱山ダンジョンと呼ばれる『穢れノームの迷宮鉱山』それに今問題の『火焔窟』と名前がつけられた鉱山深部の火精霊の住処に、僕達が初めて入ったダンジョンの『水精霊の洞窟』、その他に『水鏡村の地下水脈ダンジョン』知っている場所だけでも5箇所だ。
しかし、エーデルがいる森の中に3箇所あり、説明を聞いたソーラー侯爵が『そこの森は僕の領地だ』と言う。
そしてこれまたゼフィとエーデルの爆弾発言になったが、ジェムズマインの地下奥深くに『旧王家の墓所ダンジョン』があるそうだ……
何故こんな場所に?と思ったら、此処は城など大きな建物を作るには最適な開けた平野だったそうだ。
因みに旧王都はジェムズマインの鉱山地下に今は埋まっていると言う。
困った事にそこが例の土精霊のダンジョンと火精霊のダンジョンがある中間点になるという。
そしてその王国の巨大な墓所がジェムズマインの街があるこの場所にあったのだと言う。
場所的に墓所ダンジョンの殆どは呪われているそうで、此処以外にも墓所系ダンジョンは世界中探せば山の様にあるらしい。
今表沙汰になっていない理由は、呪いをばら撒き生物が死に絶えるので、餌に困る火龍と緑龍は周囲を破壊して埋めてしまった……と言う……
いずれそれの処理もしないと、迷宮の最深部が根に届くと言っていた……
『根』とは地脈だったり龍脈だったり、『脈』と呼ばれる物が幾つかあり、それはこの世界の根幹だと言う……
『何故ダンジョンを破壊せず埋めた?』と言いたいが、二人にも餌以外の何か理由が有ったのだろう。
そして最後の一つは平原にポッカリ空いたダンジョンらしい。
その場所も当然の如く僕の治める領地だと言う……
エーデルワイスの縄張りが、僕の持つ領地とジェムズマインに被っているのだから仕方がないだろう。
そこは3階層しかないダンジョンだと言う……
『3階層』という言葉に僕はダークフェアリー絡みの嫌な予感しかしない……早めに対処が必要かもだ。
アーカイブから即刻、ダークフェアリーが何処にダンジョンを作ったか、詳細を調べる必要がある。
何故ならば、この間の『ミサ救出』の一件があるからだ……
それもこの間破壊したダンジョンは別の領地……リーチウムが治める領地内だ。
ジェムズマインや薔薇村近場にあったのならば、そこも『中に誰かが居る可能性』もあるのだ……
僕は急いでアーティファクトに確認をする。
『アーティファクトに質問!と言うか……お願い?ダークフェアリーの作ったダンジョンは全部で何個あって、それが何処にあるか調べて置いてくれない?』
『了解しました!マイ・マスター。用意ができたらお知らせします』
流石出来る子は違う!
「困った事だけどゼフィの言い分は間違ってないね。それで?ソーラー侯爵としてはどうするつもりなんだい?アンタの化けの皮は剥がれちまったよ?少なくとも私たちにはね?」
「いやいや……エクシアさんちゃんと話聞いてました?ソーラー侯爵は『王都貴族』の言葉を利用しただけで、ダンジョン踏破を推進してただけですよ?実情は『悪辣貴族』とはかけ離れてますよ?」
僕がそう言うと困った顔をするソーラー侯爵だった……
「エクシア……寧ろ今のままでも問題は無いのだよ。王都貴族の王権派が変にダンジョン利権に絡むと、今度は問題の『悪辣貴族』と要らぬ衝突を産むのだ。片方の顔を立てると片方が立たないのだ……」
まぁそうなるだろう……私服を肥したいのは結局両者なのだから……
目的意識の違いを信念に突き進むしか無さそうだ……ダンジョン踏破を目的とする貴族とすれば、財宝しか見ない貴族を利用してでもだ。
結果ダンジョンがゼロになれば、ソーラー侯爵の目的が果たせるのだから……
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