第667話「悪辣貴族と王権派」
宮廷鑑定士二人が退出して少しすると、様子を伺うように部屋の外を見た後に僕へ質問をする人がいた……ソーラー侯爵だ。
「おいヒロ……ヘカテイア様とマモン様は本当に平気なのか?人間は食べ易いと……」
僕はビックリしてしまったが、ヘカテイアの言葉が冗談なのは分かっている……相剋問題がある。
天族との紐付けは人間にも同様に成されている……と説明があったからだ。
「ソーラー侯爵様大丈夫ですよ?あれはヘカテイアの冗談です。『皆が揶揄うから自分も』と思ったのでしょう……人間に手を出せば自分の同族が消えてしまう関係にあるそうです。それを『相剋』と言うそうです……居ませんでしたっけ?説明の時……」
人間を襲う悪魔は下っ端の悪魔で、言うなれば力のある悪魔達が勢力争い用に大量生産した兵士のような存在だ。
それを人間が召喚すると、稀に術者に逆らって襲うと言う。
大概襲われる術者は実力が不足しているそうだが、この件にはヘカテイア達の方が困っているそうだ。
急に自分が消える可能性があるかららしい。
ちなみに相剋のペアになっている相手はわからないと言う。
秘密の三つ巴なので、迂闊に手を出せないと言う寸法だ……誰が考えたか非常に悪どいが平和を望む手段でもあるだろう。
「居たか居ないかなど問題では無い……話など頭に入って来るわけないだろう?ヒロ男爵はよく無事で話せるな……リーチウムはそう思わんか?」
「私は割と平気ですね……ゼフィランサス様の時に比べれば……」
そりゃそうだ……ステータスはまめにチェックするべきだろう。
『恐怖・恐慌』耐性を持っているとは夢にも思わないはずだ。
ちなみに鑑定スクロールで自分を鑑定した場合、『ステータス』か『スキル』か『魔法系種』を選択して使う。
そうしないと、鑑定スクロールには各項目がランダムに記入され無駄になる。
鑑定スクロールにも『記入できる大きさ』があるからだ。
森でエクシアに初めにあった時、教えて貰った基礎中の基礎だ。
「いつに間にかリーチウムは、我が父の様に逞しい戦士になっていたのだな……それが今まで見抜けぬとは馬鹿な親でスマナイ……」
「辞めてください!父上!」
家族の友情が見えた一瞬だった……
何故ソーラー侯爵が悪辣の仲間入りしているのか……それこそ気になる話になった……
「ソーラー侯爵変なこと聞いて良いですか?」
「む?なんだ?」
「ソーラー侯爵が『悪辣貴族』と呼ばれる理由が……」
「おいアンタ正気かい?直接本人に聞く事かよ?馬鹿も休み休みいいな!」
「はっはっは!エクシア構わんよ……。ヒロ男爵は包み隠さないのだな?それに……お前たち冒険者も気になるのだろう?顔に出ている……。今回鉱山ダンジョンの遠征に共に向かうのだ。蟠りがあれば命も危ないからな?話しておいた方がお互い良いだろう……」
そう言うとソーラー侯爵は詳しく説明をした。
「理由は政治的問題だ。王家は外交問題……特に王家を維持する事だけに注視しておる。国内のダンジョン踏破や魔物撲滅は『冒険者』がやるべきだと言っているのだ。貴族がこの国でその領土を保っていられるのは『民』のお陰だろう?我は国を守るには最優先で『ダンジョンを破壊する事』だと言っている。だが国王派は国を守ってこそ民が守れると言って聞かんのだよ」
その言葉にエクシアさえも驚く……
「ちょっと待っておくれよ。ソーラー侯爵……アンタが『国民の為』にダンジョンを破壊しようって事は、何故周りは『悪辣貴族』って呼ぶのさ?全く理に叶ってないだろう?」
「それは簡単な事だ……ダンジョンは富を産む。国王派がそれを悪い方へ風潮しているのだ。しかし我々の方にも問題があるのだ。その噂を利用して『貴族を集めている』のだよ。力ある貴族だけではダンジョンは踏破できないだろう?土地は何処の誰の手にあるかわかるだろう?」
「ごめん……ソーラー侯爵が言いたい事はアタイにはわからないよ……誰か噛み砕いて説明をしてくれないかい?」
そのエクシアの言葉を聞いたリーチウムが、自分の父の代わりに説明をしてくれた……
国王派は『ソーラー侯爵』を筆頭に、反王権派がダンジョンで私服を肥したいと言ったそうだ。
しかしそのソーラー侯爵は、その嘘を利用してダンジョン踏破に協力的な貴族を『更に』集め始めた。
彼がどんな貴族でも受け入れているのには理由があった。
ダンジョンは各地に点在するのだ……『自分の治める領地の外』に。
見つけたとしても、自分の領地で無いのであれば『領域侵犯』になりかねない。
そのダンジョンを踏破に向かったら『犯罪行為』と言われれば行くことも出来ない。
ならばいっその事その土地を管理する貴族を取り込んでしまい、自由に動ける様にした方が早いと言う訳だ……
それがどんな貴族であれ、問題解決をする為に必要という事になる。
私服を肥やしたい貴族にしてみれば、好き勝手に荒らされるよりマシなのは言うまでもない。
それにその貴族自身は絶対にダンジョン深部へ連れて行ってもらえる。
そして自分の領地のダンジョンが無くなれば、そこの領主は他の領地のダンジョン踏破に協力するしか無くなり、結局はソーラー侯爵の手助けをしなければ私服は肥やせなくなるという事になる。
結果、今回みたいな『悪辣貴族大集結』に繋がる訳だ……
ソーラー侯爵がその手法を取り出してから、王権派は尚一層ソーラー侯爵をバッシングしているそうだ。
だからこそ『ソーラー侯爵=財宝狙いの悪辣貴族』の方程式になったという。
リーチウムがその事に気が付いたのは『親子喧嘩』の日が切っ掛けだったそうだ。
今までは『金』や『地位』にしか目がいかず、親の言いなりだったが自分で見る様になったら親の苦労が色々見えてきたという。
それはさておき、ソーラー侯爵が推進している事は『王国に住む民』を思っての事に間違いはない。
ちなみにそれは先代の王に仕えた『ソーラー侯爵の父』の遺言を守ってるに過ぎないそうだ。
「なるほどねぇ……リーチウム!アンタ急成長したんだな?アタイがアンタを見た時はぶん殴りたかったけど……最近そう思わないのは理由が有ったのか……」
「ちょ……エクシアさん?俺を殴りたかったんですか?まぁ確かに今思えば『恥ずかしい態度』しかこのギルドの中で見せてませんしね……反省が必要ですけど……」
「仕方ないでしょう?だってリーチウムさん……僕にも絡んで来ましたよ?」
エクシアがリーチウムを揶揄ったので、僕も一緒になって揶揄う……
リーチウムは頭を掻きながら『面目ない』と笑っている。
だがソーラー侯爵は空いた口が塞がらない……
「リーチウムお前……何て命知らずなんだ……このヒロに?絡んだだと?」
「ああ、絡まれた時はゼフィランサスさんもヘカテイアさんそれにマモンさんも居なかったですからね……」
「確かにそうだねぇ……でも馬鹿には変わらないだろう?『ジュエルイーター擬きを殺す相手に喧嘩売る馬鹿』が居るのか?ってギルドでは数日話題が途絶えなかったんだから!」
「エクシアさん、それは自分も言われました……というか『それは』今でも言われますよ?あと褒め言葉か分かりませんが、今はヒロさん同様に貴族感が無いとも言われますよ」
ソーラー侯爵の言葉に僕は返事を返したが、エクシアとリーチウムの会話に侯爵は笑い出す……
「私の父上……お前の祖父だな…、あの人はな、今のお前みたいな人生を送っていたよ。皆で笑い合い『ダンジョンを破壊する人生』をな……。これがあの王権派の奴に少しでも伝われば……民の生活はもっと安全になるのだがな……」
「王権派に?どういう事ですか?」
そう言ったソーラー侯爵の説明をまたもや買ってくれたリーチウムが、現状の王権派の説明をしてくれた。
その理由は僕が政治に疎いからだ。
リーチウムは以前腐れ貴族であったが、父親のソーラー侯爵に怒られない様に貴族として情報は集めていた様だ。
ちなみにその王権派は?と言えば『出し惜しみなく援助をする側』に回ったそうだ。
だが実情はとてもきな臭く、貴族と冒険者の癒着があるそうだ。
聞いた僕とすれば、どっちもどっち……としか言いようがない……
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