第653話「悪魔も満足する味?結飯店」


「あら……遅かったわね?」



「うるせぇな……今から食うんだ邪魔すんな……ずっと待っている間、この匂い嗅がされたんだ!分かるか?気が狂いそうになるぜ!ずっと並んでる時から気になってんだよ!テリヤキってのがよぉ!」



 どうやら待っている間に、マモンの心境の変化は更に大きくなった様だ。



「おお……クソうめぇ……生肉じゃねぇ……なんだコレ……弾力が!なんだこの照り焼きってのは……味が濃い……ああ!!これが『味』か!?俺様にもすぐに分かったぜ!こっちのは塩って言ってたな……塩ってあの塩だよな……おおおお!なんだこの溢れ出る肉汁にあった塩の旨さは!………」



「随分ご満悦ね?マモン……私もおかわり貰いに行かないと……龍っ子ちゃん行きましょう?」



「おい!ヘカテイア!タレと塩、照り焼きを3本ずつ!俺の分も焼いてもらってくれ!」



「無理よ?」



「はぁ?……何でだよ?」



「一人10本までだもの……貴方の分焼いたら私1本しか食べれないじゃ無い?」



「だから!!『俺の分もっ!』て言ってんだろう?」



「『だから!一人10本まで!!』誰の分を焼いても10本まで!だから皆並んでるの!意味分かるかしら?」



「お……お前……怒り方が……ユイナに似てねぇか?」



「ユイナさん!マモンが無茶言う……」



「わ!分かった!分かったから言いつけるなよ!食ったらすぐに自分でいく!!ああ……クソうめぇ……もっと早く食ってれば……あと3回は食べれたのに……くそ!って言うかトロル……デカすぎんだろあの肉!!誰が助けてやったと思ってんだよ!食うのも早えし!」



 文句を言いながらも、喰い終わったマモンはすぐに列に並ぶ……



 並んでいる間は文句を言わず、肉が無くならないことを祈って……


 彼は名のある悪魔になってから初めて祈った……肉がなくならない様に……と



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅぅ……食っタ食っタ!ギムドロルは満足!」



「おい!トロル!お前助けてやったのに……肉食い過ぎだろうが!」



「マモン言ったナ?お前にハ借りガ出来タ。トロルの城キタラ同じクライ美味イ物ご馳走スル。ギムドロルはトロルの王子だから、約束マモルぞ?」



「マジだな?絶対だな?おいユイナ!トロルの城に行ったらまた料理しろ………て下さい」



「ぷ!マモン!?アンタ……ユイナさんに命令してるの?お願いしてるの?どっちよ?」



「う……ウルセェな……お前には関係ねぇ!ってか……契約者!コイツら七匹地上に出すんだろ?腹ごなしに俺が纏めて送ってやる!……『デモニック・ゲート』……さっさといけよ!ゲート潜って此処から出れば真上の地上の出るぜ!」



「おお!マモン。オマエイイ奴!グルグアも更に感謝。オマエにもグレート・サーペントご馳走する!あの肉はウメェゾォ?」



 初めての肉料理に胃袋を掴まれたのか、ユイナに胃袋を掴まれたのかは分からないが、協力的なマモンはトロルから好印象を受けた様だ。



「トロルの皆さん、一応外に出たら『ヒロ男爵』の身内と言ってください。そうすれば面倒は避けられますから!魔物は大概それで『仕方ない』で通りますから。でも絶対に暴れないでくださいね?僕が街に居られなくなるんで!」



 一応トロルたちには注意を促しておく……


 するとトロル達は、申し訳なさそうに話を始める……


「俺達、帰リ道分からない。故郷の方角調べるまで、ヒロ……厄介になれナイカ?帰るにも食料もナイ!」



「ああ!ギムドロルさん確かにそうですね。じゃあ……外で待っててください。一仕事終えてから戻りますから。お腹はもう平気ですか?」



「腹は平気!すまない助かル。オマエと出会えた事、大地の神々ニ感謝する!」



 そう言ってトロル達はゲートから地上へ向かう。



「すまん……イーザはデーガンと共に残ってくれるか?俺は混乱を避けるために、トロルと一度帰る事にする」



 テカーリンがそう言うと、ソーラー侯爵が貴族達に話し出す。



「貴族の皆の者聞け!これから先最下層は我々は邪魔にしかならん。だからテカーリンと同様地上へ帰ろう……テカーリンお前の言いたい事も分かるが、ギルドメンバーは邪魔にしかならんぞ?屍を増やしたく無いなら全員連れ帰るべきだ!」



「そうですね……私もソーラー侯爵に賛成です。ついていけるのは金級冒険者か、最下層に降りた経験のある冒険者だけでしょう。前に降りた際『死を覚悟』しましたし……」



 イーザの話で貴族からどよめきが起きる。



「イーザの言う通りだな……デーガンにイーザ、すまん先程の発言は撤回する。一緒に地上へ戻ろう!」



 そのイーザの言葉を聞いて、ソーラー侯爵はトラボルタの即座に指示を出す。


「トラボルタお前はヒロ男爵の手伝いをしろ!宝は全部拒否するのだいいな?ヒロ男爵よ、此処まで共に歩ませて貰った私からの礼だ。コイツらを手足として使ってやってくれ」



 少し状況が変わった様だ……


 どうやら宝を少なからず得て、そして腹も満たされトロルに起きた脅威も分かった為に方向性を変えた様だ。


 勿論ビビった事も要因だろうが、大きな理由は空腹を満たされた事で欲望が薄まったのだろう。



 食欲は欲望の中でも大半を占める物だ……だからダンジョンでは大きな差に繋がるのだと思われる。


 トロルが変異した理由は『食欲』からだから……



「ソーラー侯爵様!この命に変えても、ヒロ男爵様はお守りします!」



 トラボルタの言葉に即座に返すエクシア……



「おい!トラボルタ……アンタ実は馬鹿だろう?ヘカテイアとマモンを仲間にできる奴が『誰に何』をされるのさ?」



 そう言ったエクシアの言葉にソーラー侯爵が笑う。



「その通りだ!トラボルタ……ガーディアンを見たのが2回目のお前と、状況を詳しく知るヒロ男爵では次元が違うだろう。邪魔にならない様に、手助け程度にしておけ!ヒロ男爵の命令はちゃんと聞く様に!いいな?勝手な行動は慎め!」



「はい!承知いたしました!この新しく頂いた『魔剣・サイクロプス』にかけて誓います!」



 急に魔剣と言われたので、皆がその剣を見る……折角なのでコッソリ鑑定をさせて貰うと……



『魔剣・サイクロプス………一つ目の巨人サイクロプスが死んだ後、結晶化した核をつかった珍しい武器。サイクロプスの結晶魔石を剣に埋め込んだ事で、サイクロプスの腕力補正を使用者に与える。(補正効果・ATK+3196)』



 攻撃ありきの武器だった……完全に脳味噌筋肉用の力技武器だ。


 それも両手用武器なので、更に補正がかかる様だ。



 しかし攻撃力補正が3196って……『プス』は何処に行った!と言いたくなる。



 ……まさか……刺す音だろうか?


 だとしたら……補正のデカさの割に、刺さる音が軽すぎやしないだろうか?



 そんな事を考えていたら、いつの間にか貴族や冒険者達はゲートから帰った様だ。



 テカーリンに釘はさせなかったが、トロルの事は前もって言ったので貴族が悪巧みをしない様にしてくれる筈だ。



 まぁ……そうならない場合、王国は諦めるしか無いだろう……


 龍っ子とマモンは食べ物を『心から』期待しているのだから……食の恨みは怖いのだ。



 まずゼフィランサスも敵に回すだろう……龍っ子の母だけに。


 問題はアラーネアとアシュラムだが……ヘカテイアが敵に居る以上、争った時は被害が大きいだろう。



 ヘカテイアはマモンが喧嘩を売られれば、多分一緒に買う筈だ……


 なんだかんだ言っても二人は仲が良い。



 その理由にユイナの最後の串肉はマモンが貰ったが、手に入らなかったヘカテイアが欲しがったので、マモンは已む無く串から外して半分にしていたのだ。



「じゃあアタイ達も下に行こうかねぇ?……でもトラボルタとその仲間に、ウルフとそのパーティー……これから見たり聞いたりする事は絶対に口外禁止だぞ?口が裂けてもだ!」



「なんだよ?エクシア……随分勿体ぶるじゃ無いか?」



 ウルフの言葉に睨みを効かすが、ウルフが逆らうはずが無い。


 今でもエクシアの事が大事なのか、龍っ子を連れて来てからは何があっても彼女を守れる位置をキープしているのだ。

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