第652話「ブラックマンバ(遺骸)が齎す新たな脅威」


「なんだい?ヒロ……このダークトロル達……穢れが要らないなら私達が貰うよ?こんな濃厚な穢れ……って言うかお前……えっと……ギムなんとか!本当に良いのかい?おい他のダークトロルどもも、後で文句言われても返さないよ?」



「お前何イッテル?穢れ誰が喜ブ?持っていけルならば持っていケ……寧ロ困ってル!」



「マジかよ?此処でこんな濃密な穢れを見つけられるなんて。おいヘカテイア半分だぞ!お前根こそぎ持っていくなよ?」


「マモン……アンタはオスの癖にちまちまセコイねぇ!……そもそもワタシが先に見つけて言ったんだろう?勝手に混ざりやがって……仕方ないお前はそっちの3匹な!アタシは先に見つけたから4匹だよ!奇数だから文句は無しだ!」



 そう言うと、マモンとヘカテイアはトロルに触った瞬間、身体の内部から何かを飲み干す様に奪い去る。



「くっくっく!マジか?これは予想外だ……コイツら折角かなり上位の魔物になれたのに勿体ねぇ!だがおかげで苦労無く力を手に入れたぜ!トロル種が得られる筈の力を!」


「そうね……かなり長い間彼等は此処に居たのね?それも飢えで相当穢れが濃くなってるわ。うふふ……これで特殊なスキル一つは作れるわ。何にしようかしら?」



 トロル達は穢れを吸い尽くされたせいで元のトロルに逆戻りする………しかし怖い内容だったので、僕は聞かなかたことにする。



「オオ!スガスガシイ……モトにモドッタぞ!?オマエ何シタ?……ダガ助カッタ……仲間ビックリシテル。元ニ戻れナイ……国帰れナイ言っテタ。助かっタ、アリガトウ」



「有難う?ウボォとか言ったな?何言ってんだオマエ達は損したんだぞ?折角トロルから攻撃力や再生力が遥かに高いダークトロルそれも固有種では無い奴になれたのに……テメェの主人などあっと言う間に越えられたかもしれんのに……今まさに棄てちまったんだ。」



「マモン、それを言うなら仕方の無い事よ……こっちはダークトロルである事はプラスでは無いのよ?」



 ウボォはヘカテイアとマモンの言葉に首を傾げるが、助かった事には変わりがない。


 更に今はユイナの手料理である、ブラックマンバの巨大串焼きがあるのだ……意識は食い物に向く。



「ウボォ持ってテモ、ツカワナイ……ウボォはギム様の側イル……ナンニセヨ助っタ……ウボォハラペコ。話後デ……ユイナ肉クレ肉クレ!!」



 ちなみに廃墟の柱を串代わりに焼いた巨大な串焼きだ。



「ウメェ蛇ウメェ………ブラックマンバ何時ブリダ……王子誕生イワイイライカ?……龍っ子イッタナ?オマエ気に入っタ……トロルキングダム来たら言え。ウボォはお前ニ礼をスル。必ずダ。シーサーペントの丸焼き喰わせてヤル!うめぇゾォ?」



「絶対だからね!私頑張ってギガンテック・ブラックマンバ狩って来たんだから!おじちゃんの家に行ったら、絶対シーサーペントって言うのは食べたい!」



「オオ!コレはギガント種カ!美味い訳ダ!……ナラ俺モ、グレート・サーペント狩っテ来てヤル!うめぇゾォ!コレと同じクライうめぇゾォ!」



 龍っ子はどうやらウボォに気に入られた様だ。


 食事のお礼もあるだろうが、王子にしっかりした物を提供でき無かった事が、今まで気がかりだったそうだ。



 ダンジョンコアが言っていた、トロル達の状態異常は何とかなった様だ。


 しかし、たった数時間でトロルは限界を迎えていた……



 特殊な状況に置かれていたのはほぼ全員で、穢れの影響は大小こそ差があったが、全員が間違いなく侵蝕されていた。


 運が良かった事に解決法が複数あって助かった……



 まさかヘカテイアとマモンが、穢れを回収する方法を持っていたとは驚きだ。


 よく考えれば、穢れが多い地獄で過ごすのだから、回収方法を複数知っているのは当然かも知れない。



 僕達は折角なので皆で食事にした……


 すると、食事に興味がなかったマモンは、気色悪そうにしながら見て回る……



「こっちの生き物って不思議だな?……何故肉なんかに味とやらを………おい?……ヘカテイアお前……何食ってんだ?」



 ヘカテイアも混じって食べているのを見たマモンは、ビックリして立ち止まり、『信じられない物を見た』と言う顔をする。



「何って……さっき言ったじゃ無いか『こっちの世界の美味いもの喰いたい』って……コレがその美味い物に決まってるでしょう?人間が食う物だけど、私には馴染み深いんだよ!何さ?美味いものは美味いの!」



 ヘカテイアは多めに串肉を持ち頬張っていたが、マモンに食べる姿を見られて少し恥ずかしそうだった。



 しかしヘカテイアの行動は、マモンに変化を生んだ様だ……


 ヘカテイアの目の前の座り込んで話をし始めた……



「単純に腹を満たすだけだろう?何が良いんだ?……まぁ良い……せっかくだから、俺にちょっと喰わせてみろ……」



「はぁ!?馬鹿言わないで!やっと焼き上がったものを貰ったのよ?コレは全部、『部位と味付けが違う』の!欲しいならユイナに貰いに行きなさいよ!焼き上がるまで、かーーーーーーなり待つけどね………早く行かないと、大きい肉は無くなるわよ?ユイナがそう言ってたわ!」



「なんだよ……ケチクセェな。おいユイナ!俺の分も焼け!」



 マモンは調理中のユイナに命令口調で言い、横並びをし始めてしまった……『食の女帝・恐怖のお説教』が待っているのに……



 ちなみにさっき辛抱しかねた貴族が同じ事を言って同じ目に遭って、『最後尾に並び直せ』と大激怒されたばかりだ。



「ちょっと……横入り!!貴方……マモンとか言ったわね?ちゃんと並びなさい!」



「あ?俺は地獄の……『煩い!!』………あ………地獄の……『だから何?今聞いたわ!』………いや……だから地……『地獄は今や全く珍しく無いわよ?今からあなたが『私の地獄のそれ』を味わうわ!』………え?……」



「良いかしら?皆『食べたくて』並んでるんですよ?」



「え?」



「『え?』ですって?それ以外言えないの?それに……見たらわかるでしょう!貴方は子供ですか?説明しないと『列の意味』が分からないんですか?何年生きているんですか?それとも何百年ですか?もっとですか?その間に学ばないの?何故こんな簡単な事を学ばないの!!」



「な……並びます……『待ちなさい!お説教の最中でしょう?何処に行くのよ?』………」



「クドクド……クドクド………クドクド………クドクド………」



「並べば……ああ……すいません……並びます………ああ……ご……御免なさい………」



「くっくっく……ザマァ無いわね……あのマモン一番的に回しちゃいけない状態が判らないなんて……甘いわね!!料理人は『料理中に』怒らせてはいけない……基本よね?龍っ子ちゃん?」



「そうです!ユイナおねぇちゃんはママも恐れてます……目が座るって言ってました!その状態になる前に、料理中は絶対待たないと『ご飯が貰えなくなる』と言ってました!あとは……周りを見て学ばないと自分が痛い目を見るって言ってました!……マモちゃんは……今そうなの?」



「マ………マモちゃん?ぷ………くっくっく……そうそう!マモちゃん怒られてるのよ!マモちゃん……馬鹿だから総料理長を怒らせちゃったみたい……マモちゃん……ぷ……くっくっく」



「ダメですねぇ?マモちゃん……ハムハム……良い部位も、ご飯の量も減っちゃうのに!お肉は良い部位から調理する……クチャクチャ……そう言ってました!ユイナおねぇちゃんは!」



「へぇ……良い部位から?………へぇ!!……良いこと聞いたわ!じゃあ一番最初に並ぶと良いのね?」



「はい!最初だけは焼き加減を見るので多く焼くのです。……ハムハム……だから貰える量も多いんです。でも並ぶのは4番目です!一番最初は量が多いけど最上級部位は火が満遍なく使える様になった後と言いました!多めに焼いてもらったら、冷めない様にマジックバッグに入れると良いんですよ?……モグモグ……ヘカちゃん!」




 そんな事が龍っ子とヘカテイアで話されているが、冒険者達は一心不乱に食べてはすぐに列に並び直す……



 ギガンテック・ブラックマンバの肉は希少品のレベルなど超えている……


 今のうちに肉一片でも食い溜めしたいのだ。



 そして暫くして、ヘカテイアが食べ終わる頃にようやくマモンが肉を10本持って帰って来た……

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