第621話「龍の強襲……鱗が緑で身体が白い龍現わる……」
するとバラスにテカーリンが大慌てで飛び込んできた……
「ヒロ!!聞いたか!?ギガンテック・ブラックマンバ…………おっと!お食事中すいません……そうですよね……アレがあそこにあるってことは、ゼフィランサス様は此処にいて当然ですよね?」
「テカーリン!何度も言うが……ワシ達は幾ら焦っても仕方ない!ギガントの呼び名を持つ個体のアレを動かす手段なぞ我々には無いのだ!……亭主!すまんが金を払うからワシにも飯をくれんか?」
そう言ったバラスにゼフィは『飯?オルトスのスープとステーキよ?お金なんか払えるの?』と意地悪く言うので、僕はテカーリンとバラスさんの分を出す様にお願いする。
「美味いなぁ……これは……ヒロさんなんかすいませんなぁ!」
「まったくもう!言っておくけど貴方達は『相当』異常よ?火龍と共に食事をしたがるなんて……知り合いが居ても普通しないわよ?まぁ初めての経験で悪くは無いけどね?」
テカーリンは冷や汗を流すが、バラスは『儂なんぞ何時でも潰されて死んじまうからな!恐れてても死ぬなら変わらないじゃ無いか!それにヒロを見ていたら守ってくれそうじゃろう?コイツは?がははははは!』と笑い飛ばす。
「お爺さん面白いわね。まぁ貴方が居ないとお肉の解体出来ないから殺すつもりは無いわ!お爺さんへブラックマンバの肉を渡してあげてちょうだい?解体費用がかかるんだったわね……代金は……」
「ギガンテック・ブラックマンバの素材を貰えんか!!あんな貴重な個体まず手に入らん!少なくとも王様へ献上するべきじゃと話していたんだ!」
ゼフィランサスは『好きにして頂戴。お金払えないからそれで良いなら成立よ?』と言う。
心の何処かで期待をしていたせいか、大喜びで飯を食うバラスさん……
「あら?そういえば……今日はあのリチウムって子は来ないのね?昨日はまた来たいとか言ってたけど……あの父親と何かあったのね……」
完全にゼフィランサスはリーチウム伯爵の名前を覚える気はない様だ……
しかしその言葉にテカーリンが……
「実は厄介事になってましてな……何処でどう聞いたのか鉱山のダンジョン遠征のほか、今日のトレンチのダンジョン見学も知っているのですよ。それで悪辣貴族達は全員来ると言いはじめましてな……あのリーチウムが親であるソーラー侯爵を説得してるんです……何か企んでいるのは確かでしょうが……」
「いいじゃない?連れてくれば?ダンジョンコアの部屋は主人しか入れないんでしょう?だったら身の回りの知り合いだけ入れて、他は締め出してしまえばいいのよ?」
「それがですね……実は下層階にトロル国の王子が居まして……どうやらダークフェアリーに拉致されたそうなんです……それを彼等が知ってしまえば、その事を使いトロル国へ使節団を送るのは目に見えてます。助けたとはいえ万が一事が拗れれば……王都側からすれば今トロル国と揉められないのです……帝国も居て、小国郡国家も動きが怪しい……そこにトロル国は……」
テカーリンの言葉を聞いて、『成程……国は国で面倒だな……男爵の地位を返上して早く逃げないと!今は腰まではまったが……頭まで浸かると息も出来ない!!』と頭をよぎる……
王の助けはしたいが……結果、悪辣貴族に肩を貸すわけにはいかない……
「大丈夫よ!王国には手が出せないわよ?今の時期に手を出せば滅ぶのは間違いなく向こうよ?今此処は修羅地獄よ?」
そう言ったゼフィランサスは屋根の方を見上げる……
そして僕も龍っ子も同時に見上げた……
「ゼフィ……これは?」
「困ったわね……起こしちゃった見たい。寝てたのに私と娘が縄張りにいたことを勘付かれた?……どうやら違うわね。目標は貴方かしら?でも……私の大切な家族に喧嘩吹っ掛けてくるなんて!やっぱりバカねアイツは……エーデルワイス・スペロ・イスミンスール!今度こそ燃やしてやる!!」
ゼフィランサスがそう言って飛び出していく……
『ガンガンガン!!緊急事態!!』
『ガンガンガン!!緊急事態!!全員持ち場へ!』
それと同時に鳴り響く見張り塔の警笛と木板……
「ゼフィ!!ちゃんと説明を!一体何をする気だ!」
「ゼフィランサス様!?……こ……今度は何だ!?」
僕が後を追いかけると、テカーリンがそう言って共に宿から飛び出す……
『ギァァァァァァオオオオオオオオ!!!』
見上げると、白と緑のが混じった色をした巨大な龍が見えた……大きな咆哮をあげ今にも街へ襲いかかってくる直前だった。
しかし突撃してこようとする龍は、それを寸前で辞めて身を翻す。
「ゼフィランサス!!お前の気配もあったから居るとは思っていたけど。私の領土にズカズカ入ってくるとは……どう言う了見かしら?それにあの龍種はなんだい?酷く不安定だがお前にも劣らない力がありやがる!二匹でこの縄張りを奪いに来たのかい?次は容赦しないって言ったはずだけどねぇ!!」
そう言って、身体全体が緑で腹のあたりが白色の龍はゼフィランサスに噛みつこうとする。
しかしゼフィランサスは、人型に龍の羽を生やして飛び回り器用に避ける。
「貴様!!何を遊んでるんだい!?さっさと元の姿になりな!それともそのまま胃袋に収まってくれるって言うのかい?……娘なんか連れ歩いて……それも私の縄張りに……早く産まれたのを見せびらかしに来たのかい?その考えはムカつくねぇ!!」
「エーデルワイス!!ひょっこり起きてきて邪魔すんじゃないよ!縄張りが云々言うなら、私の領地に広がる森をくれてやる!此処の街と交換だ!!大きさだってはるかに私が差し出す森の方がデカいんだ!!アタシとアンタ……今回の件で立場は逆転したんだ満足だろう?違うかい?樹木を意味する龍種……『森好き』のアンタなら大喜びだろう?だから久々の楽しい時間の邪魔をすんじゃないよ!!」
ゼフィランサスは姿を巨大な真紅の龍に戻しそう話す。
どうやら会話の内容から、ジェムズマインの街はあのエーデルワイスと呼ばれた龍種の縄張り圏だった様だ。
するとエーデルワイスと呼ばれた龍が、上空で旋回しつつゼフィランサスに文句を言う。
「アンタはそうやって気ままに言いやがって!!単に嫌がらせがしたいだけだろう?前も勝手にマグマを動かしやがって!!あの山を作って私と戦った事を忘れたか?」
「何と言ってるんだい?私は寝ぐらが欲しかったって前に言っただろう!!あそこに山を置かなければ魔の森は動いて来やがっただろうが。そもそも眠って忘れてんじゃないかい?私との約束を!お前が地面掘り起こして魔の森を破壊するって事をね。それなのに辞めて寝ちまったからあの時も山をこしらえたんだろうが!!」
どうやらゼフィランサスとあのエーデルワイスは因縁がある様だ。
考えてみれば周りには大きく森が広がり、その中央に鉱山のある巨大な山がポツンと不自然にあるのだ……変と言えば変だ。
それにしてもマグマを動かしたと言っていたが、地面を隆起させて寝ぐらを『相手の領地に』作ったのだろうか?
それだとしたらエーデルワイスが怒るのも当然だが、魔の森が何とか言っている……お互い様な空気もする……
「いいか?そのお前の寝ぼけた頭でも理解できる様に噛み砕いて教えてやる!!お前の縄張りの魔の森は、お前が今襲うつもりの私の旦那が開拓して元の『普通の森』に『今』作り替えてんだよ!!周りの森精霊に会って話をしたのか?聞いて来たのか?ああ?テメェの縄張りだって言うなら、アタイに詫びを入れてから開拓を手伝うのが筋だろうが!!」
エーデルワイスはそう言われて僕を見る……
しかし、元々短気なゼフィランサスにも火がついてしまった様だ。
「前から気に食わなかったんだ!!少し掘り起こしたら辞めちまう……。そんですぐに寝てアタイが文句を言う……そんな事を繰り返すこの関係にはな!!そんなに死にてぇなら燃やしてやるよ!今度は遠慮なしにテメェの縄張りの森ごと全部な!!そうすりゃあまた、一から森がは育つんだ!お前がいなくてもな!!」
ゼフィランサスがそう言うと、とうとう巨大な龍同士の空中戦が始まった……
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