第620話「フラッペ大絶賛!ガラスの靴」


 今見ていたのは電動式やガス充填式では無いので、殆どの商品が手動式だ。



「エアーガン?ほぉ空気ですかいな!圧縮の?じゃあ……風精霊とめっちゃ相性良いじゃないですか!!中に風魔法たくさん詰め込んだら良いんちゃいますか?」



 どうしてそんな物騒な発想が思い付くのか……しかし物は試しに買って見るのも良いかもしれない……


 僕は、ほぼポチに騙される様に買ってしまった……スナイパーライフルにショットガン……2種類もだ……



 そして困った事にテントより玩具の方が高かった……そう値段を見てなかったのだ。


 金額は一丁あたり金貨3枚……本体は金貨2枚なので手数料がかなり高かった。



 エアーコッキングガンは電動の様に連射はできないが、僕の子供心が鷲掴みなのは間違いない。



「毎度あり!!ほなお急ぎ便で行ってきますね!それにしても……もう!!あんさん買いまくりやないですか!ちょっとは休ませてやー」



 言葉とは裏腹に非常に嬉しそうに買い物に向かうポチだったが、どう見ても納品してすぐに地球へ帰る(行く)気満々だったのだろう。


 今度拠点をどこにしたのか、猫の餌で釣って聞いてみよう。



 しかし今更だが、僕とすればこの買い物は辞めておくべきだった……


 オモチャでも周りはそう見ないことが多々あると言うことを、高校生である僕では見抜けなかったからだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕は自室で『ガラスの靴』を3商団から預かったマジックバッグへ3足ずつしまう。


 重厚な作りのケースに入った逸品だったので、見た瞬間びっくりした。



 宿の食堂に向かう……ひだまり亭の亭主に受け渡しをお願いする為だ。



「おはよう御座います!ヒロ様!ずっと待ってました!それで……例の物はもう準備が?もし準備が良ければ確認をと思いまして!」



 そう言って来たのは、マッコリーニではなくフラッペだった。


 商材が『ガラスの靴』と聞いて我慢できずあまり眠れなかった様だ。


 目の下にはやや隈がある。


「ちゃんと寝ました?フラッペさん?目の下に隈が……」



「それが……寝られなかったんです……ガラスの靴と聞いてもう……そんな凄いものを聞いたら想像が!!気がついたら朝でしたわ!」



 僕は髪留めの紐が括り付けられた、フラッペ専用のマジックバッグを渡す。


 彼女は中を覗き込むが、見えるわけが無い……相当眠いのだろうか?



「マジックバッグって中を覗き込んだ事なかったんですが……普通の袋なんですね?此処に……ガラスの靴が……」



 そう言って手を入れ中に入っているガラスの靴を念じると、豪勢な木箱ごと出てくる。


 箱の中は赤いベロア生地で、手触りが良く微かに香水が含まれている……



「まぁぁぁ凄い!なんて可憐な靴!!」



 そう言って手に取ってマジマジと見る……



 僕は宿の亭主に、彼女に渡した袋と同じものを渡すと紐の説明する……


 間違えて渡しても中身は同じだが、お互い喧嘩をされても困るからだ。



「ヒロ様……因みにこれの卸値はおいくらで?」



「卸値?買値って事ですか?」



 僕がそう聞くと、どうやらそうでは無いらしい。


 僕は靴を買った値段を彼等から徴収する気はない……商団そのものを回収するつもりだからだ。


 しかし彼女としては『それを元に商談』しなければならない……価格設定が幾らで良いか想像がつかないのだそうだ。



「金貨4枚で買ったので……そのあたりですか?」



「まぁ!?そんな訳が無いですわ……そうですね私の見立てですと金貨30枚……名のある貴族の御令嬢に愛を込めて渡すのであれば、金貨100枚だって出す人はいますよ!!詩を掘ればなおさら……ん!?この文字は?」



「はい?ああ……With heartfelt love that hasn't changed for thousands of years ...直訳すると『何千年も変わることの無い、心からの愛を込めて……』ってかいてあります。」



 木箱の蓋の裏に書いてある文字をめざとく見つけたフラッペは、僕に聞いて来たので読んでからそう教える。


 必死に復唱するが英文が覚えられない様なので、わかりやすい様に教える。



「これをあげる人にですが、貴女への愛は千年以上経っても変わらない……と言いたいんですよ」



「わかります!意味は分かりますとも!!ですがその発音と響き!お客様に伝えたいですから!!」



 フラッペは販売する気満々だ……これはマラライの罠に壊れやすい物を選んだに過ぎない。


 貴族へ販売するなら次回にして欲しいが……



 だが僕は悠長に此処で話はしてられない。


 ご飯を食べる時間だ……何故なら例の二人が飛んで来る気配がする。


 どうやら龍種になった事で、その気配が明確にわかる様になった様だ。



 ゼフィや龍っ子の言っていた『匂い』とかはまだ分からないが……それがわかった時点で僕は龍になるかもしれない……


 絶対にその道は進まない様にしなければならない……




「フラッペさん早々に片付けた方がいいですよ?ゼフィが間も無く来ますから……奪われますよ?光物好きでしょう?火龍は……」



 そう言った事で彼女は丁寧かつ大急ぎでガラスの靴を箱へしまうと、その箱も丁寧にマジックバッグに移動する。



「ヒロ様!ではこの品は実行日に確実に倉庫に置いておきます!!このフラッペにお任せください!!もし成功した暁には……これと同じ数の靴を!!我が商団に!!」



 フラッペの本音が溢れたところで、残念ながらゼフィが来た……。



「何かしら?相当欲しがり屋の顔ね?その持っている袋は食べ物?まさか……私の亭主から私と娘のココアクッキーを持って行ったのかしら?」



 どんだけ食いしん坊なんだ!と言う発言だ……



「違いますよ!靴です……食べ物じゃ無いですよ」


「靴!?何よそれ!食べものじゃ無いのならそんな風に抱えないでよ……紛らわしいわね!!ああ……ひだまり亭の亭主さん!新しいお肉とって来たわよ!娘の狩の練習だからちょっと傷が酷いけどね?街の外に放って置いたから、後でギルドで分解してもらいなさい!毎日お世話になるから自給自足はしないとね?」



 フラッペに言った後、とんでも無いことを口走るゼフィだった。


 しかしゼフィに食事を提供している間に、すぐに衛兵長と数名の衛兵がすっ飛んできた。



「ゼェ……ゼェ……て……亭主……ギガンテック・ブラックマンバ………ゼェ……ゼェ……首から上と下に分けられているが……ゼフィランサス様がお前の持ち物だと……今ギルドに知らせて来たが……あそこに置かれてると我々も困るんだ……馬車が全く進めんのだ!」



 朝からなんて獲物を狩って来たんだ!と言いたくなった……


 ブラックマンバ……コブラ科で猛毒を持つ大型成体で4メートルを超える毒蛇だ。



 異世界産は、間違いなくそんな物では済まないだろう。



「何メートルあるんですか?そのブラックマンバは?」



「19メートルだ!頭無しで………」


 あかん奴だ!!魔力の容器になんか収まらん!!


「ど……毒は?……神経毒で猛毒ですよね?未治療は致死率ほぼ100%でしたよね?この知識は目学問ですけど……大丈夫なんですか?」



「ど………毒だと!?………あの巨体でか!?……く!!皆今すぐ戻るぞ!!立て!!今すぐだ!!誰にも触るなと言ったが、冒険者の馬鹿どもは絶対に触るぞ!!急げ!!死人が出ちまう!!」



 僕はゼフィを見ると、『よく知ってるわね?あの猛毒は龍種でも厄介よ!でも耐性持たせないといけないから小さいうちから戦うのよ!龍種はね?』などと言う。



 龍っ子を見ると、噛まれた形跡はないので一安心してしまう。



「もう!パパったら心配そうね?娘が大喜びしてるわよ?」



「なんかパパに凄く心配されたのって初めてかも!2回噛まれそうになったけど頭をガンガン!ってやったから平気!!」



 そう言ってその時の様を腕をふって見せるが、宿の亭主は気が気じゃない様だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る