第616話「龍種の特徴は非常に短気!?」


「ならば共同踏破した際に得た武器を進呈いたします。リーチウムさんにもお世話になりましたし、そのお礼です。どうぞ納めてください」



 僕はそう言ってから、さっき開けて手に入れたばかりの武器を取り出す……


 金や権力にうるさい貴族なら、貴重な品を貰えば自慢したくなり下で宴会でもするはずだ。



 以前のリーチウムの様に……僕はそのつもりで渡した。


 理由は早くダンジョンコア・アーティファクトについて話の続きをするためだ。


 正直武器をこのおっさんに渡すより、仲間に武器を渡した方が鉱山遠征は間違いなく捗る。


 だが今は、ダンジョンコア・アーティファクトの話を知っている人を増やしたくない。



「アイアン・エイプ・ボーンクラブという武器ですが、僕は剣を使うのでクラブは……もし良ければ………おっと………」


「ち!!父上!!ヒロ殿がまだ話しています!……父が申し訳ないヒロ!」



 話している最中に、ソーラー侯爵はかなり重いアイアン・エイプ・ボーンクラブを鷲掴みにして、大喜びだ。


 思惑通り武器を受け取った!……これで下で宴会をしてくれれば万々歳だ。




「本当に良いのか!?アイアン・エイプ・ボーンクラブといえば、西の英雄アーノルドが使っていた武器だぞ!?それも……彼の武器よりは、二回りは大きく大凡だが攻撃力も比では無いぞ?」



「先程言いましたが、この武器は僕にはあいませんから……」



 そう言うと、本気で僕が要らないと言ったのが分かったのか、改めて謝罪を始めるソーラー侯爵。



「おっとすまぬ!ワシとした事が武器となるとついな……愚息がワシに怒る日が来るとはな!!がはははは!!そうか!息子の友人ヒロ男爵だな!名前はしっかりと覚えた!!お主には息子が世話になった!これからも面倒をかけると思うが……頼むぞ!!」



 リーチウムの父と話すと悪辣貴族とは思えない感じだが、悪辣貴族として名が通っているのは、嘘では無い。


 ザムド伯爵もウィンディア伯爵も決して気を緩めていないので、それが窺えてしまう。


 ソーラー侯爵が開け放った外には何人かの貴族が来ていて、会議室の中を伺っていた……僕はそっちの方が気になって仕方がない。


 どう見ても物色しているとしか思えないからだ。



 その物色先である目線は当然、ユイナにミク、カナミにアーチにミサだ。


 女性冒険者をお抱えにしたいと顔に出ていたのだ。



 変な事をすれば、全員カナミとミサに斬り捨てられる未来しか見えて来ないが……



 しかし、その目線が僕にバレたと思った悪辣貴族の一人が急に変な事を言い始める……



「ソーラー侯爵様!今は武器の話ではありますまい!あのビラッツ如きが手に入れたのです!火龍の鱗を!!我々は飯屋以下と言うことになってしまいますぞ!!所詮トカゲの鱗ではありますが!周りの目は………」



 しかし誰よりも早い動きで、その貴族の両耳を切り飛ばしたのは、ザムド伯爵にウィンディア伯爵だった。


 彼等二人はすぐに戻ってきて、ソーラー侯爵の前に屈むとこうべを垂れる。



「ソーラー侯爵さま、お仲間の件ご容赦願います!」


「ザムド伯爵の言う通りでございます!火龍ゼフィランサス様を軽んじた発言は『王国全土』全て焼き尽くされましょう!もし罰を受けるのであれば、この街の領主ウィンディアが受けます故!」



「いや……一向に構わぬ!………ヒロと申したな……すまなんだ。ワシがバカを連れてきた。怒りを収めてくれんか?」


 やってしまった……一人の貴族が発したその言葉に、何故は非常に苛ついた僕は感情が思いっきり出た様だ。


 ゼフィをトカゲ呼ばわりした事に怒り、何故か自分でも分からないが『コイツ等を全てを灰にしてやる』と言う気にさえなった。



「パパ!!本当に私達の家族になったんだね?ママ……パパってば凄い気迫だよ!空気がビリビリって震えてる!!ママでも人の状態だと出来ないのにね?」



「あなたぁ!!私は怒ってくれて嬉しいわー。でもそんな怒らなくても平気よ?金眼を発動させなくても平気だから。今のあなたが怒ったら世界の半分が1刻無しに無くなるわー。流石にそれはだめよ?」



 止めに入るも『やっちまえ』の空気を出しているゼフィランサスだった。


 気がつくと、龍種の証である『金眼』になっていた様だ……どうやらこれは、龍種になった弊害の様だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お前達は下へ行っていろ!!」


「ですが!ソーラー侯爵様!」


「二度は申さぬ!次はわしが首を刎ねる!!」



 ソーラー侯爵が睨みつけると、悪辣貴族の全員が黙って下へ降りていく。


 武闘派なのは間違いがない様だ。



「まさか……我が愚息と共同踏破した相手が、あの火龍の亭主とは思わなんだ!すまなかった……それでその『金眼』は噂に聞く『龍騎士』で間違いなさそうだが?まさか……実在しておるのか?」



「父上!これ以上は私は怒りますよ?ヒロ殿は今日色々大変だったのです!それに先程冒険者の大切な武器を頂いた上、スキルや能力の情報を聴くとは……それは御法度という事をお忘れですか?相手は男爵でもあり、冒険者でもあるんです!!それと、言うのが遅れましたが……私リーチウムはヒロ殿と行動を共にします!悪辣貴族と謗られる行動はもう致しません故!そのおつもりで!」



「知っておるわ!既に報告はきた!!……だがそう話は簡単に進むわけないだろう!貴族家の話は帰ってからだ。………だが、無礼をしたのは侘びなければな!ヒロ男爵よ……すまなんだ度重なる無礼申し訳なく思う」



 普通に頭を下げるソーラー侯爵に僕らは困惑する……



 『本当に悪辣貴族!?』としか思えないのだが、うわべを繕うのが上手なのも悪辣貴族の手腕の一つだ。



 しかしどうやら僕を『龍騎士』と勘違いした様だ。


 変な噂が出るのは避けたいが、『実は龍種になりました』など言ったらもっと大問題だ。



「金眼のことは言えません……好きに思っていただいて良いですが、言わない約束をして頂きたいとは思います。……ですが身分が上の方にそんなことは言えませんので、そう思っているとだけ覚えておいて下さい」


「わしが言わない事を此処で誓おう!だから後ろにいる伝説の火龍の殺気をしまう様に言ってくれんかな?」



 オレンジはガクガク震えていたが、ミオは何故か平気だった。


 『第一夫人』のスキルでも手に入れたのだろうか?多分そんな物があれば、自分より下の奥さんのスキルは無効に出来そうだ。


 問題は、彼女達を奥さんと認め始めている僕がいると言う事だ……



「わかれば良いのよ?私にとって大切なのはこの人だけ……貴方が何かをするなら息子諸共この王国全土を灰にして、帝都から人を呼べば済むからね?覚えておきなさい?私はこの人より気が短いわよ?うふふふ」



「おい!ソーラーのチビ助!!あと下の奴らもよろしく頼むよ!鬱陶しくてたまらんよ!」



 そう言って入ってきたのは、フレディ爺さんだった。



「ぬぁ!?クルーガー導師!?様!?……まさか……貴方様が何故此処に?」


「わしの友に会いに来ただけだぞ?なぁヒロ?それにしても……少し街を離れていたら火龍の母と懇意とは……たはぁ……困ったもんじゃ……さっさと殺気をしまってくれ!老体に鞭を打つでない!!」



 フレディ爺さんは『よっこらしょ』と言って椅子に腰掛けてから持っていたマジックバッグを僕に向けて投げ渡す。



「お主に『マジックテント』の作り方を教えてやろう……これから遠征時に必要になるからな!多くの者が泊まれる環境がいいのだろう?……薔薇村で話を聞いたわい!」


 そう言って僕にマジックテントを出す様に言う。


 フレディ爺さんはマジックテントを見て懐かしそうに話し始めた。


「これはな……わしが世間への異論を唱えた際の苦い思い出の品だ。異世界は存在する。その発想を皆に受け入れてもらいたくて、異世界の産物を手に入れたいと言う欲から手に禁呪に手を染めて入れた物じゃった……若かったからな……」


 そう言ったフレディ爺さんは、ソーラー侯爵に『部屋から出ていきなさい。国などに固執するお前にはまだ早い』と言った……

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