第617話「禁呪の威力……意識が吹っ飛ぶ一撃」


 フレディ爺さんの一言に文句も異論も言わず外に出るソーラー侯爵だった。


 だが、リーチウム伯爵も頭を下げて後を追っていく……どうやらこれを機会に話し合う気だろう。



「さて……あの石頭も出て行ったな……じゃあ、話を続けるぞ?」



 そう言ったフレディ爺さんはマジックテントの由来を話す。




「さっきも言ったが、その頃は『流れ』がどこから来るかなどは厳密に分かっていなかった……。じゃが、其奴等は服装が儂等より上等で見たこともない素材が多かったのだ。そして調べる程に、持つスキルは羨ましいものばかり……皆が嫉妬したよ!だから儂は彼等が居た世界を『異世界』と定義して、そこから流れてきた事から『流れ』と名付けた」



 僕以外の皆が困惑する……


 お爺さんにしては知識量が半端ないので皆薄々は……と勘繰っていたが、まさかその『名称』を決めた頃に話が出てくるとは思わなかったのだ。



「ワシは此処の世界より進んだ技術やら産業を持つ、その知らぬ世界にかなり嫉妬してな……。いつかその世界をこの目で見てやろうと、好奇心からいくつも魔法を重ねる実験をしておった。重ねがけ魔法と言えば当時は準禁呪の扱いでな……じゃがそうする事で僅かだが、異世界を繋げる『ライン』が出来たんじゃ!そして初めて自身の魔力で手に入れたのが……そのテントじゃ……ワシは異世界から、遂に自分の力で何かを手に入れた事で浮かれておった。その事がどんなに危険かも考えておらなかった」



 フレディ爺さんはマジックバッグを開ける様に言って、僕の横に座って中から魔導書を取り出す……


 数冊の赤黒い表紙の本を出したが、それが血液によるシミだと気がつくのには時間入らなかった。



「ワシはすぐに手に入れたそのテントを鑑定した。空間拡張を設定できる不思議なテントじゃった。儂は更に研究して空間拡張を最大限使い中に部屋を作った。すると出来上がったのは、何故か見たことも無い部屋の構造じゃった。そんな物この世界には存在しない。当時はすごい話題になり、ワシは宮廷魔術師のトップに上り詰めるのに何の苦労もなかった……。しかしその時の儂はのぉ……テントは既に変質して『この世界と混じり合っていた』とも気がつかなかったんじゃ。慢心の結果じゃな……。だがバカな儂は自慢の魔法と言って、皆にその呪文を教えてしまったんじゃ……」



 フレディ爺さんは袋に手を突っ込み、1本の古いワンドを出す。


 天使と悪魔が彫刻されたワンドで、真ん中には巨大な魔石がハマっている。


 デーガンとギルマスの話では、どうやら宮廷魔術師のトップに渡される魔法のワンドの様だ……


 それを机にそっと置き話を続ける……



「人々は一人でかける呪文形態をより簡易的にするために、人数を2人3人と増やしていった。ワシは面白がってその輪に飛び込んだ。その結果……6人でかける魔法で、一人の異世界人を呼び出す事に成功したんだ!……じゃが大馬鹿だった……その者は『精霊王』の血を引く子孫じゃった……。その者はこの世界で、各精霊を使わせたら右に出る者はおらん存在にあっという間に上り詰めた。それまでこの世界では、精霊を知る者は巫女だけだったのだ。じゃが……その者のおかげで冒険者までも精霊の力を借りれる様になった……」



 フレディ爺さんは今度は袋から6個の腕輪を出す……


 そこには『宮廷魔術院・魔法省』と魔法文字で書かれている。


 懐かしそうにそれを触る……


 そして袋を僕から受け取って、何かを探しながら話をさらに続けた……



「それを知った近隣諸国は、揃って召喚に明け暮れた……大概は変な道具や家具が来るだけじゃったが、ある日馬鹿な事をしでかした者がおった……。人数を6人から13人に増やしたのだ……。魔力の制御絡みで人数は6人でしかならんと言ったのにだ。人数でゴリ押しした結果、儂の計算通り爆発的な魔力に増幅した。その末に召喚されたのは『魔王』だった……。しかし奴等には当然その事など知る由もない。相手が何者か知った次の瞬間には、もう止める事が出来ないほどの魔物が、魔王の身体から湧き出したと言う話じゃ……。王の息子はなんとか騎士団を盾に逃げ出して、近隣諸国へ助けを求めた。あっという間に戦火は広がり、この世界に魔物を統べる魔王種が誕生した。それがのちに『審判の日』となった……」



 血に塗れたエンブレムだった……その数4個……


 どうやら皆はそのエンブレムに見覚えがある様だ。



 ビックリして口が開いたままだった……


 そして問題発言が飛び出した……



「此処まで説明したらもうわかるな?ワシは時の英雄の一人……名前を変え、風貌を変えて長い間戦い続けた元冒険者じゃ……。初めは剣神アナベルのパーティー『精霊の剣』の魔導士であり魔導師だ。わしの歳は既にゼフィより歳をとっている。剣聖アナベルも聖女テレサも英雄王・死霊斬りのアッシュも全員が名前を変えて生きてきた……そして戦いの中散っていった……だが……今はワシ一人だ……」



「剣聖アナベルと剣神アナベルは同一人物なのですか?2代揃っての誉れ高き称号だと言う話は?」



 そう言ったのはウルフハウンドだ……どうやら憧れだったのだろう……



 フレディ爺さんは『同一人物じゃ。『剣神』のスキルを手に入れた者は二人とおらんからな?仕方無く身内であり、長男だと偽っただけじゃ……アホみたいに長生きしてたら、おかしいじゃろう?』と言う。



 ウルフにそう言ったあとフレディ爺さんは、



「儂が好奇心で作った魔法は、各国の見栄のために悪用された。その結果それは様々な召喚呪文の亜種を産み続ける結果となった……魔物の召喚に位置転換ゲートが良い例じゃ。悪い事に使われた反面、役に立つ事も多い。魔法は使う人によりその形を大きく変える……。マジックテントの生い立ちは、同時に異世界単一方向召喚呪文の誕生秘話に直結する……そう言う話じゃよ……」





 そう言った後、フレディ爺さんが重い腰を上げて僕に向くと『マジックテントの作り方を伝授するぞ?受け取れ!』と言って……



 僕の頭にを置くと、強烈な刺激が頭を襲う……そして僕の意識が吹っ飛んだ……



「シャイン回復を!もっとMP回復薬持ってくるわ!」


「パパ!パパ!!」


「ヒロさん!今回復を!!龍っ子ちゃんどいて、MP回復したからまた魔法かけるから!」



 龍っ子とシャインそれにミオの声で起きたが、時間にして15分くらい意識を失っていた様だ。


 立っているゼフィ……何故か金眼になっている……



「このジジイ!私の亭主に何をした!!さっさとテメェのお得意の魔法で今すぐ回復させろ!咬み殺すぞ!!」



「ゼフィ!!やめろ!大丈夫だ……あと……フレディ爺さんは、もっとしっかりやる事を伝えてからやってくれませんか?まじで死んだかと思いました……」



「痛かったじゃろう?これは禁呪の一つで『焼き付け』と言う方法じゃ!一番早く覚えられるが酷い激痛でな!まぁ童なら死んでも生き返るだろうと思ってな!」



 ゼフィに宙ぶらりんにされながらもフレディ爺さんは、お茶目に舌を出している。



「ちょっと!まさか……死ぬ可能性があったんですか?」


「ちっとばかりな?50%位は死んで……意識障害で寝たきりが30%くらいかのぉ……残り15%は脳細胞が死滅して……えっと成功するのは5%だったはずじゃ!」



 アホか!と言う数字だ……それを普通に使うあたりがぶっ壊れている……


 しかしフレディ爺さんが話を続け始める。



「じゃが……鑑定した結果、既にお主『悪魔種』ではないか。そもそも悪魔種には『不死属性』があるんじゃ……消滅せんかぎり死なんじゃろう?脳が壊れても再生するしなぁ?寧ろどうやって普通に死ぬ気だ?じゃからお主みたいな普通と違う奴には、これが一番早いんじゃ!それにワシの持っている魔法形態は、今ので全部焼き込み済みじゃから、後で絶対感謝するぞ?」



 そう言って、僕が必死に黙っていた事を思いっきり暴露する……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る