第612話「トレンチのトロル達救出計画」


 皆が注目する中僕は今あった事に中から、トロル部分だけを話す。



「トレンチのダンジョンに直接行けば、何とかなる可能性があるみたいです。実はダークフェアリーのスキルがダンジョンコアと通じて僕に吸収されてまして……それの次元門と呼ばれるものを使えば、彼等をあそこから出す事が可能みたいです」



 囚われの姫は響きがいいが、囚われのトロルは正直怨みがこもってそうで怖いが、あの階層にずっと置いておけば尚更ヤバいのは目に見えている。



 だが時間は既に遅い……さっきカナミが言った通り、既に星が瞬いているのだから、今から馬車では向かえない。


 というか、夜は危険なため馬車は夕方発が最終便で、終わっている。



 さらに付け加えると、鉱山行きなのだ……鉱山の特定経路を結ぶ馬車は、スタンピード以来動いていない。


 いつまたスタンピードがあるか分からないからだし、鉱夫達は危険回避で山へ入っていない。



 だから僕は皆にこう言う……



「明日早い時間に行くしか無いですね?もう夜だし!馬車もないし……」



「お前!?言う事はそれだけか?ダークフェアリーの『スキルを吸収』って今言ったんだぞ?スキル吸収だと!?そ!それは他者へも可能なのか?」



 テカーリンとデーガンは大慌てだ。


 スキルは習熟すると稀に得られる代物だが、それを吸収移行出来るとすれば引退した冒険者から現役冒険者へスキル移動ができる事になる。



「まだ詳しくは分かりませんが、ダークフェアリーから吸収したものを、彼女自身には複製して返却したようなので………出来る可能性はあるんじゃないですかね?まぁ詳しくはまだ分かりません」



「ふ……複写だと!?…………相手から貰うだけじゃなく更に帰すのか!?わざわざ複製して返すって事がまったく意味が分からんが……それが本当なら大事だぞ!?……く!羊皮紙だ!!オレンジ!ありったけの羊皮紙を持ってこい!!さっき休憩した時に持ってくるんだった!!終わる雰囲気だったから持ってこなかった!!急ぐんだオレンジ!」



 デーガンは大興奮だ……今言った『休憩』とは緘口令を出しに行った後のお茶を一口飲んで、回りの受付嬢と話して居た『非常に僅かな時間』の事だろう……あれが休憩だなんて……なんてブラック企業だ……




「おい!ヒロ!!早くその情報を得られないか?万が一それが出来るなら……スラムで引退している冒険者にかなりの金を払ってやれる!!」



 そう言って僕のコアをマジマジ見つめる二人……あれだけ『危険だ』と言って居たのに、既に言葉が翻されている……



 仕方ないので僕は遠隔コアを握ると……遠隔コアは僕と同期している最中だった様だ。



『マスターの知識と同期中……言語の習得60%完了……マスターの記憶より24時間制を採用……現在時間は19:52……標準時刻をジェムズマインの街に設定…………こんばんわ!マイ・マスター!質問をお願いします……』



 返答が返ってきたが、僕の記憶から時間を計算してくれた様だ……すごく優秀だ。



『えっと……スキルの移動の詳細方法を知りたい……!これでいいのかな?』



 聞き方が分からないので頭で念じてみる……



『スキルに移動ついての返答……スキルは外部からマスターへの吸収移動のみ可能です。その際マスターより複写した物を対象者へ返却します。スキルが現在と比べ上位レベルになった場合、上書きされます。その際使用MPは以前に比べ多くなります。同型種の前のスキルはコアブロックにも維持されませんのでご注意ください。』



『スキルの複写に上限数はあるんですか?もしくは持てる数とか……』


 僕はつい報告の最中に更に質問を重ねてしまった……するとその質問を優先的に答えてくれた……非常に優秀だ。



『スキル複写に制限はありません。尚、マスター以外の者のスキル所持の上限数チェックは対応していません。』



 短く正確に教えてくれた後、また本題を説明してくれるダンジョンコア……


 受け答えの正確性は、中に人が居るんじゃ?と思えるくらいだ。



『対象スキルを持たぬ他者へ複写の場合を含め『複写先対象者は必ずダンジョンにいる必要』が有ります。尚マスターは遠隔操作コアを持つ場合その限りではありません。コアブロック本体に複写が置いてある為です。新しくマスターがダンジョン外で習得したスキルについて、その逆も然りです。スキルは非アクティブ時でも常にダンジョンコアに複写が置かれます。マスター本体は操作必要はありません。単一対象へ複写の他、ダンジョン施設内多数複写も可能です。……以上報告終了』



 説明が非常に長かったので『条件付きで出来る』とだけ言っておくと、大喜びで跳ね回っている。


 問題は僕がそれをやる訳だが、手順も結果も影響も何も分からないのに不安だとは思わないのだろうか?



「ならば試しに私の持つ『斧威力二倍』のスキルをデーガンに複写してみてくれんか?それが出来るなら遠征時に戦力が二倍以上になるんだ!!相乗効果があり、同型種スキル持ちが近隣にいる場合『最大五倍』まで増えるスキルなんだ!!」




「だから!!ギルマス聞いてました?もう夜ですから!!」



 僕は子供の様にねだるタコ……いやテカーリンに文句をいうと、『あら?なんだったら、私が乗せて行こうか?』などと、ゼフィが要らぬ事を言う……



「なぁ?ゼフィランサスさん……ギルマスのテカーリンとサブマスのデーガンを乗せていくんだよ?」



 エクシアがビックリした顔でそういうと、ゼフィランサスは『嘘でしょう?』と言う顔で僕を見る。



「それは嫌よ!送るのはヒロ……貴方だけ、そこの二人は馬で行けばいいじゃない?ウルフの群れに喰われようが、私にの知ったことではないわ!」


 酷い言い方だ……


 こんな問題が起きたその日の内に、真夜中に伝説の火龍に乗ってダンジョンへ向かったらそれこそ過労死してしまう……


 だから僕は丁重にお断りをした。



 しかし、その日の話はまだ終わらない……


 正直ミサやカナミそしてアーチは嫌がるだろうが、ダークフェアリーが閉じこめてある『マジックアイテムの魔眼牢獄』を出して、コアの設置に関する情報を聞く必要があったからだ。


 僕らは流石に執務室横の会議室へ移動する。


 ダークフェアリーを見た時に、周りの冒険者の殺意が酷くなると予想されたからだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『貴様!!こんな所に閉じ込めやがって!!これだから人間は!!』



 第一声で毒を吐くダークフェアリーだったが、羽根の先が未だに再生されて無い。


 羽を使える環境ではないが……


 ダークフェアリーの念話は僕以外にも届いて居た様で、ギルマスのテカーリンは青筋を立ててこう言った……



「お前がやった事に比べたらまだ良心的じゃないか?ダンジョンにいた彼は踠き苦しみ無くなったそうじゃないか?だから彼と同じ状況になっても文句は言えんだろう?」



『これだから人間は!!元を正せばテメエ等が仕掛けてきた戦争じゃねぇか!アタイがメスだからってデケェ態度とってんじゃねぇよ!能無しが!』



 ダークフェアリーがそうテカーリンに言うと、遠隔コアが反応する。



『ダークフェアリー・固有名称アカナイタムの深層意識から、ダンジョンマスターへアクセスがありました。再生を開始します』



 そこにはアカナイタムと呼ばれたダークフェアリーの壮絶な記憶があった……



 その全てはダンジョンコアを通じて僕へ流れ込んできた様だ。


 フェアリーの死は、あまり群れから出ない為にそうそうある物ではない、ルモーラの様な単独で飛び回るフェアリーは稀なのだ。


 大抵人に悪戯をしに行く時は、群れでいく。


 そして驚かせたり悪戯をして返っていくが、その姿を認識できる事は少ないので、死ぬ事はそうそうない。



 しかし彼女に関しては両手で数える程に多かった……長命種なのに関わらずだ……


 その多くは欲望のままにフェアリーを探して歩いた輩が原因だ。


 運悪く彼女は、その場所に居合わせたのだろう。



 なので、大概の理由は人間達の欲望の果てに死んだ記憶だ。



 ごく稀に魔物に喰われる事もあったが、殆どが薬の代わりにされた古い年代の記憶であり、中には傷つき重傷をおった子供を助けた後に、運悪く見つかり魔物と言う理由から潰されたりと、助けたにも関わらず殺されるとか……それは酷い状態だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る