第596話「自業自得!?薬生産地獄」


「マラライ貰っておけ!今のお前には必ず役に立つ。それにこんな武器持っているなら、それはマジでイラねぇ!!なぁ?ガウス!」



「マグネの言う通りだ!俺達が守ってはやるが、ゴブリン3匹来た時逃げ回ってただろう?薬草採集だけとしたって、お前も少しは自分で戦える装備は無いとな!」



 彼等はそのうっすら光っている刃を見て、更に『ぎょっ』っとする……



「ダンジョン産の修正付きの武器か!ダガーで修正付き……まぁ脱素人には必需品な物だな!」



「ああ!バックラーも修正品みたいだな!トレンチの低層階迄ならこれで充分だな!あとは革鎧くらいか!」


 そう言って二人は笑っていた。


 マラライは装備についてちんぷんかんぷんな顔だったが、いい物だと聞いたのでお礼を言ってきた。



「身体に身につける防具はサイズがあるし、女性用は特に限られるから!自分で選ぶ様に。ダガーとバックラーと実際に使った立ち回りは、二人に教わるといい。部位欠損してても冒険者だからね!」



「「ああ!冒険者の俺たちに任せときな!」」



「私一人前の冒険者になったら、必ずお礼を言いに行きます!ヒロさん食事と武器それに防具まで有難うございます!!」



 僕は『死なないための工夫を頑張る様に!』と言って彼等と別れる。


 彼等はすぐに薬草が自生するエリアに向かって行った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「全員静粛に!!やっと問題児が来た……それでは昨日出来なかった鉱山戦の会議を始めるぞ!!」



 ギルマスは僕を見てそう言ったが、元から戦略会議の時間など聞いているわけでは無い……酷い言い分だ。


 そんな風に思っていたが、周りの冒険者を見ると、何故か銅級資格持ちも多い。



 よく考えると、鉱山のダンジョンは既にスタンピードにより存在は明らかだ。


 問題はその魔物の質だが、スタンピードの事件以来上層階がゴブリン達の階層になったお陰で、銅級資格でもなんとか対応できる階層が出来た。


 しかし問題もある……斥候部隊がダンジョンに潜入した結果、大きな変化があった。



 魔物の質や数に変化があると言う。


 話を聞く限り、ダンジョン内部はかなり様変わりした様だ。


 フレディ老師と潜った時からあまり時間の経過は無いが、困ったものだ。



 変化は徘徊遭遇する魔物は1〜2匹の群れだったが、今は最低3匹からになったと言う。



 そのせいで3階の階層主まで行くのに3日も要して、残った傷薬の数に危険を感じ引き返してきたと言う。


 階層主の部屋も粗末な小部屋ではなく、5階層にある巨大な部屋にまで成長している様だ。



 現在は1〜4階層までゴブリンとホブゴブリンが占有していたが、少し前にスタンピードを起こすくらいなので、その総数は予測もつかないと言う。


 当然5階層に行く事など出来ないので、少し前まで行く事ができた5階のボス部屋も確認できない様だ。



 僕は話を聞きながら、いそいそと机の下で内職をする……



 何かといえば『ポーション作り』だ。


 素材が山ほど到着したのだから作るのは当然だ……ポーションは話を聞きながらなので、うっかり失敗する事もあった。


 300MPを使い4回失敗、完成品は初級ポーションが10個できた。



 僕は魔力が278/578になったので、魔力回復薬を4本取り出し一気に飲む……これで200MP回復するのだが、その瓶を見て気が付いた……



「ああ!これ同じ瓶だ!使えるじゃん!」



 うっかり声に出た……皆が一斉に僕を見る……



「ほう?何が使えるんだ?ちゃんと戦略会議の話を聞いていたか?男爵様と言えどもいい加減しっかりして貰わんとだな……」



 ポーションを作っていたなどとは言えないので、ギルマスの会話を遮る様に『部位欠損のですね……ポーション薬液を飲み終わったMP回復薬の瓶に詰めてマジックバッグに入れたら……ほら!大怪我しても……』などと、適当に言い訳を言う。



「…………何だと?……どう言う事だ?」



 苦し紛れについた適当な僕の言葉に、ギルマスはびっくりする。



「いやぁ……マジックバッグの効果はかなり使用期限や賞味期限を延ばすので……持っている人ならちゃんと蓋をすれば持ち歩けるなぁと……薬さえ持っていれば怪我してもなんとか生還出来るかなぁとか……。でも薬の安全性考えたら、配布と未使用の回収はダンジョンアタックの日から1日から2日にした方がいいかもですが!効力切れ考えると……危ないじゃないですか?ねぇ?」



「使用効果は10時間……ん!?ああああ!!そう言うことか!!お前!!なんて事考えやがるんだ!って事はアレか?死にさえしなければ、怪我した奴はそれを飲んで即ダンジョンから退出って事だな?そしてそれをお前は『また』手に入れたんだな!」



 僕は適当に言ったので、部位特化ポーションの『取り決め条件』を忘れていた……アレは秘薬同様かなり珍しい物扱いだったのだ……



「……うむ……ならば、脱出するなら救護隊を編成すれば、もっと安全に怪我人を逃がすことができるな!!よし!それは是非にでも予算を組んで採用しよう!!」



 ギルマスはそう言うと『デーガン!すぐに準備を!』と言う。



 僕は男爵の爵位持ちだが、お前呼ばわりだった……まぁいいが……



「はい!ギルドマスター!!直ちに『準備』を!!」



 デーガンは足早にギルドの道具屋に向かって行くが、すれ違い様に……



「非常に素晴らしい案でございまいた!!ヒロ男爵様!!部位欠損での失血死がなくなるだけで、冒険者達には大きな違いです!!」



 そう言って走っていく。



 僕に対して、周りの歓声が凄まじい……



 死ぬ確率が大きく減って、彼等は生存確率が大きく上がったのだから当然だろう。


 しかし見事に僕の仕事が増えた………自業自得だが最悪だ。



 僕は追加で2本MP回復薬を飲んで、ため息をついた……



 それからの戦略会議をまとめるとこうだ……


 参加条件(部位再生ポーションを人数分ギルド職員から受けとってから向かう事)


  尚、ダンジョンから欠損無く出た場合は、ポーションの数に限りがあるので必ず返却。


 ・ダンジョンの中に入る際は必ず6人以上のパーティーで入り、単属行動は絶対禁止。


 ・パーティーには必ず薬師か回復師を混ぜて、部位再生ポーションを持っていく事(参加条件)。


 ・銅級資格者は4階層までしか降りれない。しかし4階層を探索する場合、2パーティ以上で行動する事。


 ・救助隊の編成。主に怪我人のダンジョン脱出を業務とする。(ギルド管理)


 ・臨時編成の銀級パーティーは、4階層の駐屯地を作るまで5階層へは降りてはならない。(金級と、僕達を除く)


 ・1年(天)以上6名パーティー編成実績がある銀級冒険者は5階層へ降りれる。

  (臨時銀級冒険者増員は立ち回りに危険を伴うので不可)



 ・ボス部屋は許可なく立ち入りは禁止。理由、多くのパーティーで挑むと魔物が増える為


 ・上記内容にファイアフォックスは含まれない。(どうせエクシアとヒロは無視するから)


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ギルマスとサブマス……出来ましたよ。部位特化ポーション20本!!しめて200人分!!」



「ヒロ男爵!有難う!すまないな!……まさかこんな事を考えるとは流石だよ!では『部位特化ポーションの瓶(特大)』もしくは稀に出る『薬箱』を手に入れたとでもしとこう!!」



「そうですね、ギルマスの言う通りです。これで重傷者がかなり減り、泣く家族が減ります!すごく良い案です!流石ですね!!ところであの時なぜMP回復薬など飲んでたんですか?」


 デーガンの質問には、聞こえなかったふりで応答する……当然怒られるからだ。



 僕はギルドの小部屋でゴリゴリ素材を潰し続けて、飽きたら自分用のポーションを作っていた。


 当然部屋には立ち入り禁止で、貴族とギルマスの重要な会議名目だった。

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