第595話「倉庫監視猫と安定のアナベル」


「あんさん!またこんなぎょうさん!感謝感謝!!お急ぎ便の味しめた見たいやねぇ?まぁわての取り分増えて文句なんかないんやけどな!って言うか……全部同じやんか!更にめっちゃ壊れもんやないか!ああこわ!ガラス屋でもおっ始める気でっか?」



 相変わらずよく喋る猫だと思っていると、アナベルもとい、テレサが登場する。



「ポチ……アンタは来るなり相変わらずやかましいねぇ!?こっちまで聞こえてんだけどねぇ?」



 彼女はモノリスプレートを操作して、僕の購入履歴を見る……



「またアンタ……随分同じ物を買ったねぇ!?まぁ見ていたから分かるけど……随分浪費家じゃないかい?金使わずに普通に叩き潰せば良いじゃないか?」



「それでも良いんですけど、もっと後悔させたいじゃ無いですか……王様絡みにくっつけてしまえば不敬罪でソイツの人生はお終いだし、汚い事は全部調べられるじゃ無いですか?その上で僕はあの商団を丸ごと回収してしまおうかと……」



「はぁ?アンタ……自分の商団持つ気かい!?はっはっはっは!!こりゃ傑作だ!!そうかい!そうかい!裏事情まで考えてのことかい?じゃあ……あの3商団はお払い箱かい?」



 僕は自分の領地内に、自由になる商団を持ておく必要があった。


 魔力ふんだんの木材の他、ポーション販売そんな物をあちこち手広く下ろしていたら、1日の時間が24時間では足らなくなる。


 3人に会って取引するだけで、かなり時間がかかってしまうのだ。


 だったら店を構えて、担当者を置いてそこから3人が持っていけばそれで済む。



 それに問題もある……


 何故ならば、マッコリーニもフラッペもハリスコも命に限りがある……次世代である彼等の後継者がマトモである保証はない。



 この世界の世代交代はかなり早い。


 マッコリーニも最近は『娘のレイカを嫁に出して、商団を継ぐ人を見つけたい』と言っているのだ。



 現代医療の無い異世界では平均寿命が低いのだから、それも仕方ない事だが……


 その時商団を作るにしては、販路などを考えると遅すぎるのだ。



 ならば、その問題のある商団をかっぱらい、根っこからマトモにすれば良い。



 ラット商会の跡地を居抜きで使う、持ってこいの状態なのだ。


 責任追求と彼等お得意の弁済を、マウス商会自身がされる……まさに自業自得な結果になる。



 それに、まともで無い販路など僕が断ち切ってしまえば問題はない……


 僕は至極真っ当な商売をするつもりだから……



「まぁ好きにやってみな!でもアンタ……そのままじゃ帰る手段見つけてもすぐには帰れないよ?分かってんのかい?」



 アナベルに言われて僕はそれに気が付いた……問題は結局尽きる事はないのだと感じた。


 忘れ物をしたと言い訳をして出たので一度、彼等3商団の居る部屋に戻る……


「では!その手筈で!倉庫におく商品はヒロ様がお泊まりの『ひだまり亭』に行きますね!明日の夜に確実に受け取りに参ります!」


 フラッペは足を引っ掛けられたお返しに、よろめいたフリをしてマッコリーニごと椅子と共に彼をひっくり返した。


 そして誰よりも早く僕の手を掴みそう言う。



 僕は鉱山の事があるので下手すると忙しい可能性がある。


 その為にマジックバッグを彼等からそれぞれ受け取った……その中に問題のガラスの靴を3足同じ数を入れる予定だ。


 マジックバッグの麻紐の持ち手には、それぞれが分かる印の紐を付けてもらう。


 宿の亭主に説明して、間違い無く受け取って貰う為だ。



「その商材は『ガラス製の靴』なので取り出し時には気を付けてくださいね?下手に扱えば壊れてしまうので」



「「「ガ………ガラス製の靴!?」」」


 3人は驚き大きな声を出す。



 あのプリンセスが履いていた物のレプリカ品だが、プロポーズに使う品のようで元が高額だった。



 その高額の品に特急便代金にポチの取り分を含めて4万円だ。


 しかし、元の金が2万台後半なので異世界への輸送費は格安だ。



「ガラスの靴………なんて物をお持ちなのですか!!凄い……これは大事件です!!」



 女性のフラッペは女性目線の販売アイテムには凄く熱心だ。


 一瞬でその価値を見抜いたようで、ブツブツと『王家と懇意にされている爵位持ちを探さねば!早急に!』と言う……


 目的を既に見失っている気がして怖い……



「僕はこの後鉱山アタックの話し合いがあるので、ここいらで……ああ!そうだ、薬用のガラス瓶と木の蓋って取扱あります?できるだけ沢山……と言うか在庫全部欲しいんにですけど!」



 別れ際に放ったその一言で、彼等は『只今お持ちします!!有るだけ全てですね!毎度ありがとうございます!』と言って、大慌てでギルドから出て行った。


 幾つ持ってくるのか正直怖い……



 話し合いに行く前にギルド売店の薬草棚を見たら、僕の依頼した品だけ『次回の入荷未定』となっていた……当然だろう……


 するとマラライが僕を見つけて走ってきた。


「ヒロさん!お待ちしてました!先程はお食事有難うございました!ポーションですが、銀級冒険者の人が即金の金貨120枚で買ってくれました!なんでも鉱山でダンジョンアタックが有るとか?凄い大金で売れたのでびっくりしました!!私後少しでもう1000束になるので、今からまた頑張ってきます!」


 僕は『確かにダンジョンアタックが決定した今、ポーションは高騰するだろうな』と思った。


 受付に聞くと、国家間戦争時と同じ水準まで既に上がっているらしく、2日期限のオークションで待てば150枚は硬いと言う……開始値が既に金貨115枚だと言うのだ。


 しかしマラライは、弟の為にそれを待っている事など出来なかったようだ。


 それに大金を既に手に入れた上に、更に1000束近く集めているという。


 多分稼ぐには『次のポーションをギルド・オークションに出せばいい』と考えているのだろう。



「よお!男爵!さっきのポーション有難うな!また俺も集めてるから次回もよろしくな!金貨150枚は硬いって言うからよ!マグネと俺はギルドの武器屋で装備を見繕ってきたぜ!まぁ当分は片手で扱えるロングソードが席の山だけどな!何にしてもアンタの一言は励みになってるぜ!」



「ああ!鉱山アタックが羨ましいってさっきガウスと言ってたんだ!だが今無理したら今度はもう片方の腕が無くなっちまう!体も鈍ってるから危険だしな!片手の戦闘に慣れる為に毎日ガウスと模擬戦だ!!あんがとうな!男爵様!」



 マラライの件を聞いた彼等は、今は彼女を中心にして一緒に行動をしているようだ。


 不運な身の上で腐らず頑張っていた彼女を見て、今までの自分の行いを振り返り戒めにしている様だ。



 戦闘慣れした彼等がいれば、マラライでもゴブリン位は倒せるだろう。


 しかし僕は錆びて欠けたナイフしか持っていないマラライを見て、『装備も買っていないんだな……最低限の装備で弟を助けたいと頑張ってるのか……』と思い、ガウスとマグネを見る。



「安心しろ!言いたい事はわかる!俺らが守るよ!なぁ?マグネ!」


「ああ!一時かも知れんが同じ冒険者だからな!」



 彼等は、僕の言いたいことを理解した様だ。



「マラライ……幾ら薬草エリアでも、その装備では危険だ。ダガーとバックラー位は持っていくんだ。」



 そう言って+3ダガーと+1バックラーをマジッククロークの内側から取り出す。



 随分前の冒険で宝箱から手に入れたが、使う機会が無い装備だ……


 ゴーレムに持たせるには小さ過ぎるし、売るにはせっかく手に入れたのに忍びない……そして売っても大した金額にはならない。



 ならば怪我をされて大変な状態になる前に、使って貰った方が心配のタネもなくなる。



「ええ?でもっ………」



「お金は要らないよ。それは今となっては使うに使えない装備だし、売るには折角手に入れたのに勿体無いしって事で、クロークの中で眠っていた物なんだ。貰ってくれると逆に僕も助かる。」



 そう言ってエルフ族の剣・ロア・ミナスフロアのロングソードを見せると、ガウスもマグネも剣を間近でガン見をした……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る