第572話「ダンジョン最下層……決戦まであと僅か」


 地図を見てみると、地下3階層には目に見える変化が現れた。


 このダンジョンはできて間もない低層階のダンジョンだったが、全階層は?と言えば3階層でおしまいだった。


 一番奥の大広間にはダンジョンコアがある様で、魔法の地図にはコアの様な印が出来ていた。


 問題はその大広間だ。



 どう見ても変な名前の表記があるからだ。


 そこに居たのは3人で、どう見ても『人間』だろう……



 しかしその名前だけでは、冒険者かどうかは予測が付かない。


 だがこの階層のコアの部屋に居る以上、大凡『敵』なのは間違いが無い。



 そこに居た名前をみると………『ビーズ』『ステイプ』『廣瀬ミサ』とでた………



『廣瀬ミサ………!?どう見ても苗字と名前だ……コレは!!まさか異世界人を!?………………』


 僕は口には決して出さないが、心臓が激しく鼓動する………


 『あのクソ虫!また懲りずに異世界人を!!』………僕はそう思うと、ドス黒い感情が心の底から湧き上がる感じがした。



 するとオリバーは、僕に向けて『神の幸あれ!祝福!!』と唱える………



 祝福の直後に、不思議なことに僕の心のドス黒いモヤモヤが、綺麗さっぱり無くなっていくのを感じる。



「え……?な!?どうして?あれ?なんか清々しい?」



「今ヒロ殿は、穢れに飲まれそうだったので祝福で祓いました!何か理由があるのは表情でわかります。しかしここはダンジョン……その気持ちをコントロールせねばならんのです!ヒロ殿が死んでしまえば、人族の最大の敵である凶悪なリッチキングやアンデッドマスターになり兼ねませんぞ!?」



 つい最近まで王都の腐敗貴族やらダークフェアリーの事で、平和主義であった僕の気構えが変質していた気がしていた。


 異世界に来てからダンジョンでの連戦に次ぐ連戦で、どうやら穢れに心が囚われていた様だ。



 今まで色々注意を受けていたが、どうやらこの場所が穢れが溜まる場所で、それに飲まれる場所である事を心の中から排除してしまっていた様だ。



「オリバーさん!有難う御座います!ここ最近言葉遣いや、考え方が乱暴になっていたのですが……成程!身をもって理解出来ました……ここはダンジョン……穢れが集まり人が堕落する場所なんですよね!!」



「そうですね……それが分かっただけでも良い成長でしょう!金級冒険者の心構えはそこから始まります。同じ階級になれる様にヒロさんも頑張って下さい!」



 僕はオリバーとそう話した後、皆にマジックアイテムの『魔眼牢獄』の説明をする。



「と言うことは、その長谷川と言う勇者の仇が討てると言うことですね?私は賛成です!恨みを晴らすと言う訳ではなく、妖精種は滅んだ後も時間が経てば再生します。ダークフェアリーが再誕した場合、より酷い悪意が続くでしょう!例え討伐しても、それでは一時的な解決になってしまいます!」


 マールの発言にアルベイが続く……


「そうじゃな!儂もマールと同じ様にそう思うぞ。妖精種はある程度の記憶保持をすると薔薇村のルモーラに聞いたことがある!死んで肉体が無くなってもいずれ帰ってくるとな!」



 僕達は一番奥の広間に入った時点で敵と思われる3人を牽制しつつ、ダークフェアリーを無力化する戦法で纏まった。


 しかし『廣瀬ミサ』と言う子の事情が分からない以上、下手するとダンジョンコアと融合している可能性さえ捨て切れない。



 注意しつつ、出たとこ勝負にしかならないだろう……


 僕達は細心の注意を払いつつ、隣に続く広間のドアを開け放つ。



 最奥部まで大部屋が3つも続き連戦は間違い無い。


 戦闘音などはコアの部屋に絶対に聞こえるので、圧倒的にこっちが不利だ。



 隣へ続くドアも軋む音を立て中に入る……僕達は魔物の注意を否応無く引く……



 アンデッドの巣窟らしく、中に居たのは無数のスケルトンだ。


 鑑定結果に出ていた魔物は、第一層から三層の範囲で全て存在する為、多くのスケルトンは此処の階層にいる様だ。



「オリバーさん!!範囲で祝福を」



「うむ!俺に任せておけ!」



 オリバーは興奮すると自分の呼び方が、『私』から『俺』に変わる様だ。


 オリバーは荒々しくもあり、しかしながら現状を理解し冷静に対処をする。



 しかし僕達の考えは、1匹の羽虫によって絶たれる。



「させるかよ!!『ムー・ゲーテ・タムロン………ムド・サイレンス!!』



 突然黒い穴から顔を出したダークフェアリーは魔法を唱える。


 穴の位置的に対象は僕を予定していた様だったが、ダークフェアリーは僕とオリバーの会話を聞いて即座にターゲットを切り換えた。



 名前の通り『沈黙』を意味する様で、鑑定で見るとバッドステータスの『沈黙1H』と表示されている。



 口をパクパクさせ無声音のオリバーを見る限り、呪文詠唱だけで無く通常会話も当然出来ない様だ。



「オリバー!」



 僕は彼の名前を呼んだが、それで治るはずもない……すぐにマールにヘルプを出す。



「マール!沈黙解除薬があればオリバーに今すぐ!彼は沈黙の状態異常だ!!」



「クソが!余計な事を言うんじゃ無いよ!!勘がいいにも程があんだろうが!!ムカつく異世界人め!」



 ダークフェアリーはそう言うと、すぐさま黒穴に顔を引っ込める。



 アンデッドであり魔法生命体のスケルトンには、ダークフェアリーが『仲間である認識』など無い。


 攻撃対象は、目の前のダークフェアリーに移っていたので、すぐに逃げ去っていた。



「オリバー!コレを飲んで!沈黙解除の薬よ!!」



 オリバーはマールから受け取った薬を『ゴクゴク』と飲み干す。



「くそ……声は出るが……うまく出せん!!」



 オリバーの声帯は回復したが、即座にエリア祝福発動は無理の様だ。



 僕はオリバーを待っている余裕はないので、水っ子と風っ子にヘルプを出す。



『水っ子!風っ子!スケルトンを全部叩き潰す!!力を貸してくれ!!』



『初めから私に言えばいいのよ!!マッタク仕方ないわね!!風よ吹き荒れろ!!ストーム・クラウド!』



『ゴォォォォォォォォ!!』



 風っ子は水っ子より早く化現すると、即座に小規模の竜巻をスケルトンの群れに放り込む……



『ボガン………ガシャン……ガラガラ………』


『ゴシャ……バキバキ……ガシャン………』



  内側から外側に吹き荒れる風に、部屋の壁に叩きつけられ粉々になるスケルトン。



『待ってました!!ウォーター・スフィア!!……私の新技とくとみろぉぉぉ!!ストーム・レインバレット!!』



 何をどうしてそれを生み出したのか……水っ子はスケルトンの頭上から、無数のウォーターバレットを叩き込む。



『ガシャン……ゴシャ!!』



『バキン……ガチャン!!』



 目の前の惨状に只々目が離せないオリバーとマールだったが、エルフ3人とアルベイにミミは危なげなくスケルトンを叩き壊している。


 全てを叩き伏せた後、皆オリバーに駆け寄る……



「大丈夫か?オリバー殿!?喉は?」



「オリバー!無理はしてはならんぞ!まだ先は長い連戦だからな!!」



 エルフのエルデリアとエルオリアスは心配してエルフ特製の回復薬を渡す。



「エルオリアスにエルデリア殿……かたじけない!く!!あのダークフェアリーめ!まさか沈黙1刻呪文とは!!ヒロとアルベイが言っていただけあって悪質な妖精だな!!」


 そう言って後、オリバーはすぐに回復薬をくれたマールにもお礼を言う。


 マールはオリバーに『よかったわ……薬の持ち合わせがあって!沈黙解除薬の使用率は決して高くないから、持っている数にも限りがあるから……』と言う。



 しかしミミは沢山の薬を持って歩いている様で、そそくさとマジックバックから各種封印解除の薬を皆に渡す。



「どうぞ!ミミは沢山持っているのです!!いつも皆に『持ち歩き過ぎ!』って言われますけど!今日ばかりは役に立ちそうです!!ワテクシってば今日は大活躍ですね!!宿に帰ったら皆に自慢するです!!」



 凄いドヤ顔の自画自賛で、怒り浸透のオリバーでさえ笑い始める。



「いやはや……ミミ嬢はまさかのムードメーカーですな!怒りが嘘の様だ!ははははは!!」



「そうね!私も最初は『ガシッと』された時は……この子ヤバい!って思ったけど、今は考えを改めているわ!実力共に銀級でも問題ないはずよ!ギルマスのテカーリンにはそれとなく言っとくわ!!」



 マールの言葉にミミは、『ウッヒィーー!!』と言って喜んでいた。



 コレで水郷の巫女なのだから先が思いやられる……水鏡村の巫女の未来は不安しかない……

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