第573話「ダンジョンの主との死闘」


 僕達はスケルトンを倒した後のドロップアイテムを回収する。



 スケルトンはゴーストやレイスと違って、呪い系のアイテムを落とすことはまず無いようだ。


 しかし手に入れられるのは、『スケルトンの骨』や『頭骨』そして『銅貨』良くて『銀貨』だ。


 骨は全部で12本、頭骨は10個で銅貨が37枚、銀貨が12枚と言うなんとも微妙な物だった。



 コレらはミミの薬代として全てミミへ渡された。


 アルベイ曰く、ジェムズマインの街で討伐報酬を獲るのに使えるので、それでひとまずは賄ってくれと言う意味だった。


 アイテムや貨幣の量からして、スケルトン自体は大凡40体位は倒したと思われる。


 次の部屋へ続く軋む扉を開けると、今倒した魔物の数と同じかそれ以上のスケルトンが居る。


 念の為に鑑定してみると……迷宮深化条件 92/200、固有個体発生討伐率42%になっていた。



『な!?固有個体率が42%!?どうして……不味い!非常に不味い……最終決戦で100%になったら……何が来るんだ!?』



 僕の焦りは顔に出ていたのか、珍しくミミから質問される。


「お……お師匠様!?どうしたんですか?そんなに困った顔をしてますが……敵はまたスケルトンですよ?ダークフェアリーが心配ならこのドアから攻撃すれば?どうでしょう?」



 その発言に、アルベイが思いついた行動をすぐに実行してしまう。


 火属性に弱いスケルトンなのだから、『燃え盛る・ダブルアックス』の炎熱効果で一網打尽にするつもりだったのだ。



「でかしたぞ!ミミ!!うぉりゃぁぁ!!焼け死ぬのじゃ!スケルトン共め!!」



 ドアをジリジリと焼きつつアルベイの斧が放った炎は部屋の中のスケルトンを焼きつつ、他の個体へ延焼が広がる。


 スケルトンだけに火葬になるが、問題はそこでは無い。


 固有発生率がみるみる上がっていくのだ。


 どうやら数字の増え方から、後続が部屋に流入している感じが見て取れる。


 そして固有個体発生率は討伐1体ごとに1%の上昇では無い、法則性が分からず不規則に上がっているのだ!!


 そしてあのダークフェアリーは、穢れを使いスケルトンをどんどん量産している可能性がある。


 固有種の事を知ってか知らないでかは分からないが……


 部屋内部のスケルトンが死んでは、部屋続きの開いている最奥部の扉から新個体が部屋に入ってくる。


 アルベイもそれを分かっているのか、嬉々としてスケルトンを火葬する。


「どうじゃ!!これで全部焼き尽くしたぞ!!ザマァみろスケルトンだけに火葬じゃ!このダンジョンはすぐに叩き潰すからな!!天国に行けよお前ら!」


 アルベイは此処のダンジョンのスケルトンとして使われていただろう、古代の戦士団に手向けとも思える言葉を残した。


 最後の1匹が崩れ落ちるのをアルベイが見た時、僕の鑑定結果は固有個体発生率が99%で止まっていた。


 どうやら『穢れを使い切って』品切れになったのは、ダークフェアリー側のようだ。


 非常に危なかった……ダンジョンコアの手前の部屋が『ダンジョンの主の部屋』で間違いはない。


 魔法の地図を見る限り、その主の部屋には1匹しか既に魔物はいない。


 同時に二体を相手せずに済んだのは、本当に運だろう!


「行きましょう!いよいよ決戦です!」


 僕がそう言うと、マールは『幾ら3階層の低層ダンジョンでも……踏破が早すぎるわ!半日もかかってないわよ?って言うか……あの量のスケルトンをアルベイ一人で?コレが……ファイアフォックス!?』と驚きが隠せない。



 そして、それを聞いたアルベイとミミはハイタッチをして喜んでいた。


 アルベイがスケルトンを焼き尽くした部屋に入ると、スケルトンの骨素材の殆どは灰になっていた。


 まさしく『火葬』である……


 銅貨も銀貨も、残念ながら高熱に焼かれ続けて硬貨の形を維持できてない。


 部屋の空気はダンジョン特有の性質のせいか問題はないが、高熱で炙られ続けた最初の方の硬貨は熱くて触れたもんではない。


「すまんのぉ……此処で弊害が出るとは……」


 僕は灰以外をマジックグローブで一応回収して回る……当然生活魔法のウォーターで冷却してからだ。


 冷やす理由は、マジックグローブの中でも熱は維持し続けるので、外に出す時危険だからだ。



 その間に皆には準備をして貰う。


 この後の階層主兼ダンジョンの主の戦いは、間違いなくダークフェアリーが介入してきてもおかしく無いからだ。



「ヒロ!大丈夫じゃぞ!」


「今度は沈黙対策も万全です!問題は魔物が何かですが……部屋が大きい上不可視領域で魔物が見えません……」



 アルベイの後に状況説明を加えるオリバーだったが、言われて初めて気がついた。


 ボス部屋に不可視領域があり、部屋の外からは魔物が何かわからないのだ。



「不可視領域が扉にあるのか、それとも開け放ってある扉にあるのか分かりませんが、困りましたね……」



「しかし仕方ないじゃろう!見えないからと引き返すと、また一から倒さんとならんぞ?」



 アルベイの言う事は最もだった……ここで引き返していたら、今日戦った意味がない。



 僕達は意を決してボスの部屋に踏み込む……



『キシシ!カタカタ』



 軋む音を立ててその身体を動かして向かってくるのは、特大の『ボーン・ジャイアント』だった。



「なんてデカさじゃ!コレはジャイアント種の骨か!!あのダークフェアリーめ!こんな物まで用意しおって!!悪質極まりないぞ!」



「全員祝福の加護を盾に戦うんだ!アンデッドの攻撃ダメージは加護で緩和される!!回復も俺に任せておけ!!」


 オリバーはそう言うと、部屋に入るなり即座に全体祝福を唱えた。



「神よ不浄な魂を滅せよ!『天啓の祝福』」



 ボーン・ジャイアントはエリア祝福の効果を受けて、動きが更に緩慢になる。


 不浄な魂と聖なる領域の鬩ぎ合いで、各部位への魔力伝達に異常が出ているせいだ。


 しかし動きが緩慢でも、攻撃の威力には差異は無い。


 持っていた巨大な動物の骨を、棍棒代わりに大きく振り被り薙ぎ払う。


 それをエルフ達三人は難なくかわし、アルベイは範囲外の後ろに走り転がり器用に避ける。


 ミミは安定のビビリを発揮して、遠くから弓と水弾を撃っている。



『水槍撃!!』


 僕は遠巻きから、その武器を持つ腕めがけて槍衾を放つ。



『バキバキ!!メキ……ゴキン……』



『ゴゴォォン』



 凄い音を立てて腕がへし折れ落ちる……



 槍衾が当たった場所は、折れた腕が魔力でも接続不能になる程に粉々になる。



「なんだ!?今の魔法は……水魔法なのか!?」



 オリバーはそれを見て、驚き動きが止まってしまう。


 ボーンジャイアントは、折れた自分の腕を動きがとまったオリバーめがけて投げ付けて来た。


 しかしマールの『危ない』と言う言葉で、なんとかその攻撃を交わす事ができオリバーは事なきを得た。



「こらオリバー!金級冒険者じゃろう!いちいち驚くな!」



 アルベイのお小言が飛ぶと、オリバーは笑いながら『スマン!マールも助かった!余りにも馬鹿げた威力だったからついな!』と声をかける。



 全員が最終決戦と意気込んでいるだけあり、動きにはキレがあった。


 戦闘慣れしている前衛のアルベイは元より、あのミミでさえ注意しつつ最適な動きをする。



 それでもボーンジャイアントとなると、その戦闘は過酷だった。


 ナリがデカく、ダメージを受けても痛みを感じないアンデッドである為、全員が気を抜けないのだ。



 エルフレアもエルオリアスも持っている弓ではダメージが期待出来ないと知ると、接近戦用の武器に持ち替えて近接戦闘に移行した。


 だがエルデリアは、自分の役目である関節破壊の為に脚間接を狙って火矢を撃ち込む。


 地味な攻撃だが、効果は大きかった。


 火矢で焼かれた関節を補う為に、他の部位の魔力が薄くなるからだ。



 そして魔力が薄くなった場所に、エルデリアの指示でミミの祝福の矢が撃ち込まれ直接ダメージに繋がった。



 関節部位の破壊が大きくなった所を見計らって、僕とミミによる水魔法の『ウォーター・スフィア』だ。



 水魔法は見事に直撃し、爆散ダメージで脚関節を破壊する。


 巨体はバランスを崩し自重が支えられず転倒する。


 その機を逃さず僕達は総攻撃をした。



 そうして戦う事、半刻を過ぎた辺りで漸く『ダンジョンの主』を討滅出来た。


 戦いが終わると、流石に全員が肩で息をしていた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る