第566話「潜入!国境付近のダンジョン」



 流石にエルフ達も、マールのお小言には口を挟まない様だ……


 しかしながら、完全にとばっちりであるミミも反論に出た。



「マールしゃん!『ガシッとして下さい』って言ったのは私だけで、マールさんもとは言ってないです!!それに龍種に『ガシッと』されても、生きている事なんか絶対ないじゃ無いですか!!良い経験ですから絶対に!!」



 その発言に、エルフレアとオリバーは大声をだして笑い出す。



「いやはや!流石ファイアフォックスのメンバー!このオリバー感服です!マール確かにそうだぞ!?掴まれていた事は、エルフの御三方に我々も証人だ!ミミ嬢の言う通り、これは凄い事だからな!龍に鷲掴みにされて生き残る経験なんぞ100%無いぞ!?それも怪我ひとつ無いじゃ無いか!」



「そうですね!私も是非掴んで飛んで頂きたいです。龍っ子さん用事が済んだら私も是非『ガシッと』して下さい!そうすれば精神的にも鍛えられるでしょうし!大概の事など龍種の鷲掴みに比べれば、どんなに小さいことに感じるか!」



 マールは周りに反論したかったが、よく考えれば言われた通りだ。



 龍種でも一番危険な種である火龍に鷲掴みにされて、怪我一つしていない状況など絶対に有り得ない。


 火龍が、人族を握り潰さない握力で掴む事など考えられないからだ。



「た……確かに!オリバーとエルフレアさんの言う通りですね……金級冒険者とエルフ近衛隊騎士団の隊長に言われれば、それこそ……そうとしか思えませんし!でも!!有無を言わさず、背後から急に『ガシッと』される立場に立ってください!どれだけ死ぬかと思ったか!風は強いし、空気は薄いし、耳は痛いし、声出しすぎで喉がカラカラですよ!もう!!」



 涙目のマールだったが、皮袋から水を飲み漸く落ち着いた様だ。



 エルフ近衛隊の隊長達は、マールとオリバーそして龍っ子に出会ってすぐに名前を名乗り敵では無い事を説明していた。


 そして何より現状確認をしたい様で、すぐに話題を切り替えた。



「ヒロ殿……その我々には何が何やら……数日かけて此処まで来たのですが……ヒロ殿は何故此処に?」



 エルオリアスにエルフレアそしてエルデリアは龍っ子の経緯を知らない。


 ドワーフのスレイヤーとジェムズマインの城門前で揉めた後、彼等は部下に役目を言い渡していた。


 僕には、別の案件で街を出ると説明して即日ジェムズマインを発っていた。



 近衛隊メンバーと言えば、ユイとモアそしてスゥの護衛に4名の兵を残して一人は国へ報告へ……


 そして自分達は、森精霊の願いを聞くために国境付近の人工ダンジョンへ向かっていた。



「新緑の騎士様にこの周辺のダンジョンの事を聞きましたので、我々で先行し内情視察にと……まさか追いついて来るとは……それも龍種に騎乗して……彼女は火龍ですよね?」



 エルデリアの言葉は辿々しかった……


 真横には5メートルサイズの火龍、そして真上の樹木の枝にはハーピー4匹が居るのだ。



 知っていた状況が一変するにも程がある。



 そしてエルフ達は、森の精霊に相談する訳でも無く独断専行したので、ダンジョン踏破の約束を精霊達とした僕にお咎めを受けるのでは?と思ったらしい。


 新緑の騎士はエルデリアの信仰の対象で、トラロックはその新緑の騎士が崇める古代の神だ。



 そして僕は、そのトラロックを化現させられるのだから、上下関係に煩いエルフ族は気が気じゃ無い様だ。



 ひとまず僕は、火龍との出会いのあらましを話す。



「……と言う事は……我々が城門前でドワーフ達と渡り合った後に、ジェムズマイン鉱山で火龍が娘に!?それも土精霊の危機だと……なんと言う事だ……」



 エルデリアは、その場に居なかった自分を悔やみ唇を噛み締める。



「……そして薔薇村の仕事の最中に、ハーピーの報告で国境付近のダンジョンで問題が更に起きたと知らされたと……」



 土精霊とエルフは、切っても切れない間柄だと言う。


 森を育てるのは大地であり、その大地に活力を与える精霊や神を崇めるのは当然だろう。



 ちなみにエルフの中で、森エルフはドワーフと特に仲が悪い。


 その理由は、精霊崇拝による部分も大きい。



 ドワーフはツルハシで穴をほり山や大地を削る。


 しかしその地表には、当然エルフが大切にする森もある。



 ドワーフは邪魔な樹木の根など斬り払い、坑道を先に進ませるのだから揉めるのは当然だ。



 そして、そのドワーフも大地の精霊であるノームやノーミーを崇める。


 鉱石の在処を教えてくれたり、落盤の危険性をいち早く教えてくれるからだ。



 土精霊にしてみればドワーフが穴を掘っていようが鉱石を採掘しようが、大地そのものに依存しているので地中の鉱石がどうこうされようと特別問題では無い。


 要は森エルフは大地をあるがまま自然の状態のままにしたいが、ドワーフは鉱石と言う物欲しさにそれを破壊する。



 その生き方の差が、衝突原因にもなるのだ。



「其方のダンジョンは如何なったのですか?まさか……精霊様は……もう……」



 僕はエルデリアに、後日遠征予定だから予定が合えば是非参加をして欲しいと言う。


 まず精霊の事もあるが、名前付きホブゴブリンも片付けないといけないからだ。


 前のスタンピードから考えれば、少しでも手勢が欲しい。



 もし、あのスタンピードの中に紛れていたら間違いなく死んでいるだろうが、あんな存在感を発揮する魔物が他のモブと共に死ぬとは考えにくい。



 そう話していると、エルフレアから質問が出る。


「ヒロ殿!ではハーピー達の話で更にこの地のダンジョンに異変があったと……だから早々にダンジョンを破壊に来た。そう考えて宜しいのでしょうか?もしそうであれば、是非我々も同行をさせて頂きたい!」



「そうです。前に新緑の騎士さんにも約束しましたし、あまり深化が進むと攻略に時間がかかるので……ちゃちゃっと破壊して戻りましょう!」



 僕が言う前にエルフレアの発言もあり、僕は3人のエルフの助力を得られた。



 こうしてダンジョンを間近にして、問題児を多く含む8人の変則パーティを組む事ができた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 龍っ子達に食べ物と飲み物を渡してから、決してダンジョンに近づかない様にと言い渡して先に進む事にした。


 龍っ子は行きたいとせがんで少しついて来たが、数十メートル歩いた時点で気分が悪いと引き返して行った。



 人間には分からないが、特有種にはその身に起こる変化が敏感にわかる様だ。



 人種はこの穢れを一番産む素材なだけあって鈍感なのだとハーピー達は言う。


 ハーピーが言っていた様に彼女達は『キメラ種』だ。



 鳥類と人族のキメラ体なので魔物特性が色濃く表れてはいるが、人族の鈍感さも持っているのである程度近くまでは近寄れる様だ。



 問題は近寄りすぎると、ダンジョンに飲み込まれるらしい。


 飲まれてからすぐは出られるが、時間をおくと出られなくなるだろうと言う。



 偵察隊は同種族が何度か飲まれている姿を見ているそうで、数回飲まれた個体はそれからダンジョンから出てこないそうだ。



 その事もあり、一定距離からは近付かない様に周りの樹木に目印をつけていた。



 龍種はキメラ種のハーピーよりも敏感なので、もっと遠くでも不調を感じる様だ。



「では……入ります。このダンジョンは低層型らしいので時間はそうかからないでしょう……問題は『魔物が何か』分からない事です。十分注意しましょう」



 そう言って中に入ると既にダンジョンは石壁造になっていた。



「ジメッとしてやがるな……コレは臭いからして最悪だ!アンデッドだぜ此処は!!」



「アルベイさんの言う通りですね……特有の腐敗臭やカビ臭い感じ帝国領のアンデット種のダンジョンで見た事があります」



 タンクのアルベイの言葉に反応する様に、薬師のマールが言う。



「マールアンタは薬師じゃろう?絶対に前に出んなよ?前衛は儂に任せておけ!」



『ウォーター・バレット!!』



「ぎひぃぃぃぃぃ…………………」



 後ろを振り返ってマールと話したアルベイの背後に、突然姿が浮かび上がった………


 僕は咄嗟に魔法で迎撃に出たが、ダンジョンに入ったにも関わらず『感知を使っていなかった』ので、この少しの間に平和ボケしていた様だ……

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