第567話「最低最悪なダンジョン」
「ふぇぇぇぇ!!ゴ!ゴ!ゴースト!!弓!弓!用意して無い!!ふえぇぇぇぇ!!」
「ミミ!!落ち着くんじゃ!ゴーストに弓は効かんぞ!!」
ミミの慌てっぷりにアルベイが落ち着く様に言うが、彼女は安定のダメっ子ぶりだ。
しかしミミの言う通り、彼女の弓はアンデッド対策には持ってこいだ。
彼女の持つ武器はダンジョン産の『祝福されたマジックボウ』と言う武器で、マジックアローが撃ち込める。
その上『祝福効果』があるのだ。
『祝福効果』は、アンデッド種に『大ダメージ』を与える特効武器だ。
ちなみに祝福持ちがいない場合、仲間に撃ち込めばその対象には『祝福効果』が得られる。
当然マジックアローのダメージも貰うが、急所に撃ち込ま無ければ問題はない。
「アルベイさん、ミミの持つ武器は『対アンデッド』には最適なんです!『祝福されたマジックボウ』だから、祝福が付き矢がなくてもマジックアローが撃てます!」
僕は次弾の魔法準備をしつつ、数回ゴーストへ撃ち込む。
だがゴースト系の魔物は、当たる直前に霊体化されると魔法攻撃の効果は薄い。
咄嗟だったので魔法で迎撃したが、水魔法より範囲的なダメージの生活魔法ライトの方がダメージ比率は大きい。
「くそ!ヒロすまんな!油断した……まさかこの第一階層で『ゴースト』が出るとは予想外じゃ!!」
ゴーストの格好は、村人でもなく冒険者でも無い。
何やら古めかしい装備に身を包んでいる、相当古い装備で何処かの国の戦士団の様だ。
僕は水鏡村の禰宜が集めていた人骨を思い出した……
「くそ……あの人骨の利用価値はコレってことか………あの馬鹿禰宜め!良い様に利用されてるじゃ無いか!!」
僕は、文句を言いながらも呪文を行使する。
『ライト!!』
「ぎぃひぃぃぃぃ!!ひぃぃぃぃ…………ぎえぇぇぇぇ」
周囲に居るゴーストは、姿を消しても『感知』のお陰で僕にはバレバレなのだ。
しかしダンジョンでアンデッド種を倒した場合、最下層からまた這い出て来る。
ダンジョンでのアンデッド退治はイタチごっこなのだ。
「此処は……消耗戦になる……急いで踏破しましょう!」
「うむ……幾ら叩き潰しても下から補充されちまう!!死者に『何度も死ぬ苦しみ』を味わって貰うには……ちぃーとばかり酷じゃからな!急ぐぞ!」
僕は『アルブル・モンドの見渡しの魔法地図』を取り出す……下への階段を探す為だ。
「此処にしたへの階段が………何だコレ!?人?」
出した時に下階層への階段を降りる『名前』の動きを見た……
しかし複数の名前が重なってしまい、名前の確認まで至らなかった。
「ダンジョンのフロア構成が分かる魔法の地図か!?なんて物まで持っているんだ!!」
「え?今のは何ですか?何か動いて消えましたよ?此処の場所で?」
オリバーは驚きが隠せない様だったが、マールはそれ以外に驚いていた。
そして皆に知らせるように、階段を指さすマール。
多分、僕と同じ物を見たのだろう……
「マール……火龍に掴まれていた疲れのせいじゃ無いか?俺には見えなかったぞ?」
オリバーは茶化しを交えて緊張をほぐそうとした様だが、アルベイにも異常が見られる。
「いや……オリバー儂も今見たぞ!この地図の見方は既に儂は知っておる!他にも『人間』やら『魔物の特有名称』を持った『ナニカ』がおるぞ!」
オリバーは初見の『マジック・マップ』をマジマジ見ながら……『くそ!!低層ダンジョンなのにかなり危険じゃねぇか!』と愚痴をこぼす。
既に金級冒険者として、『名前付きの魔物』である可能性があると気がついている様だ。
「アンデッドで名前付き……そうなると……困りましたね……かなり強敵ですよ?」
そう言ってエルフレアはマジックバッグからうっすらと刀身が光る剣を取り出す。
「エルフレアの言う通りだな……普通の武器で様子見してたら、下手すれば誰かしらが死ぬな!」
エルデリアとエルオリアスも同じようにマジックバックから赤く光る剣と光り輝く剣を出す。
取り出したのは、彼等エルフの都市で『対アンデッド』用に作られた霊体用の剣だと言う。
「皆さん……話している余裕はなさそうです……前の通路から無数の魔物が来ます……数は捕捉できません。既に沢山の魔物が感知に被っているので………」
通路の奥から現れたのは、ウゾウゾと蠢く巨大なミミズだった……
「なんじゃと!?クラッシャー・アースワームか……クソでかいのぉ……」
「あの形からすると……『ミミズ』ですか?」
僕がそう聞くと、マールが答えてくれた。
目に前の大ミミズは『肉食の巨大なミミズ』だと言う。
土を耕すあのミミズに比べると人には害しかないらしい。
巨体を使い、牛や馬まで絞め殺し捕食する大食漢の様だ。
しかしゴーストに比べれば実体がある分やりやすい。
僕等はクラッシャー・アースワームに応戦する素振りを見せると、壁をすり抜けてゴーストが前衛に肉薄する。
『ライト!!』
「ギッィッヒィィィィィィ……グギャァァァ………」
「クソ迷惑じゃなぁ!デカい肉食ミミズに紛れてゴーストとは……」
ゴーストはライトの魔法の効果で、全身がブスブスと音を立てて焦げを作り部位が変色していく。
ライトの効果は長いはずだが、その効果はあっという間に無くなる。
ゴーストが逃げ様に闇効果のある魔法で、ライトの効果を打ち消し通路の奥を暗闇に戻して行ったからだ。
『ウォーター・スピアー!!』
僕は一直線の通路目掛けて、貫通力がそこそこあり周囲への爆散効果がある魔法を投げ込む……
中央にいた巨大なミミズに突き刺さり、その個体を突き抜けてから密集するミミズの群れの中で『ドズン』と音を立てて水槍が破裂する。
すると周囲の魔物が、暫くのたうち回り絶命する。
余波が大きいダメージ系魔法は、通路の様な狭い空間だと効果がでかい。
「す………凄い……なんですか?この桁外れの威力は!?水魔法ですか?今のが!?」
「凄いじゃろう?コレがファイアフォックスの秘密兵器、ヒロの底力じゃ!彼の真骨頂はテイマー能力でもゴーレムでも無い!この桁外れの水魔法じゃ!!あの鉱山のジュエルイーターを倒した魔法はコレより凄いぞ!」
「そうなのです!!ミミのお師匠様の魔法は天下一品なのです!!私も師匠に負けてられません!『ウォーター・バレットォォォ!!』」
マールの驚きに何故かアルベイがドヤ顔で答える。
魔法を使ったのは僕だが、まるで『敵を倒したのは自分だ』と言わんばかりの胸の張り方だ。
そしてミミは続けと言わんばかりに、両手で器用に10発水弾を作り次々とミミズの群れに撃ち込んでいく。
マールとオリバーは驚愕しながら僕やミミを見て、ファイアフォックスのメンバーだと再確認した様だ。
しかし僕が気になったのは、肉食ミミズが残したドロップアイテムだ。
『ワーム・ミート』と表記される物が、通路上にたくさん転がっている……
鑑定すると『非常に不味い』とか『腐っている』そして『普通』とか『極上部位』とか種類がある。
「コレ…………『ワーム・ミート』って何ですか?」
僕は安定的にマジック・モノクルを取り出して誤魔化しながら言う。
アルベイとマールの言葉はほぼ同じで、『非常に不味い肉』そしてたまに腐ってる……と答える……
「いやいや!物によって全然違うみたいですよ?」
そう言って僕は二人に順番にモノクルを見るように言って渡した後、通路奥から這い出てくるクラッシャー・アースワームを撃破していく。
「ナンジャこれは?知らんぞ?『普通』って普通に食えるって事か?あっちは『非常に不味い』じゃし、こっちのは『5つ星等級品』じゃぞ?」
「アルベイさん……それより……そのアイテムが非常におかしく無いですか?『鑑定できるマジックアイテム』って!!鑑定スクロール要らずじゃ無いですか!!」
アルベイは慣れてしまったが、マールもオリバーもそんなマジック・アイテムに出会ったことなど無い。
オリバーはマジックテントに魔法の地図、その様な普通の冒険者が持っていそうに無いマジックアイテムを僕が幾つ持っているのか質問した。
しかしその瞬間、凄い勢いで全員から駄目出しを受ける。
特殊アイテムなどの情報催促は、ご法度で争いの種だ。
誰が何を持っているかなどの詮索は御法度だし、持っている者には答える義務もない。
しかし羨ましさの余り、つい聞いてしまう事は仕方ない事だ。
だがそれを相手が答えた場合、物によっては切望に値する場合もある。
譲って欲しいと思うのは、冒険者であれば間違いないだろう。
そうなれば人によっては最悪力に頼る事になるのだ……
それであれば、そもそも知らない方が自分のためである。
なので僕は『まぁ……それなりに?』と答えておき、話の本題を有耶無耶にした……
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