第565話「巻き添いマールの不運な1日」


 するとオリバーとマールが………



「ヒロ殿!金級冒険者オリバー回復師としてダンジョンへお供する!依頼主を守るのも仕事だからな!」


「そうね!此処は皆に任せて、私とオリバーはついて行くわ!!それに……そんな話を聞いて放っておいたら銀級冒険者の名折れだしね!」



 アルベイに加え、オリバーとマールまで行く気満々だ……


 しかし龍っ子の背中に乗れるのは3人が関の山……タンクであるアルベイは正直来てくれると助かる……



「龍っ子の背中に乗れるのは多分3人が関の山です……だから……前衛タンクのアルベイさんに回復師のオリバーさんでお願い出来ますか?」



 僕はそう言って龍っ子の背中によじ登る。



「「「「火龍に騎乗して行くんですか!?」」」」



 思っても見なかったとは言わせたくないんだが……なぜか声が揃って驚き始める……


 そもそも僕は龍っ子に『乗せてくれ』と話したんだから、そうなるに決まっている。


 『何処でもなドア』でもあれば話は別だが僕は生憎持ってない。


 知り合いに、イヌに付けられそうな名前が付いた、異次元猫が居るくらいだ。



「まさか儂があの娘っ子の背中に乗るとはな……想像もしとらんかったわ!」



「う………うむ!俺もだ!なんて言って良いのか……飛ぶのだろう?如何やったら落ちずに済むんだ?」



「ロープしかあるまい?お互いの身体を離れない様に縛るしかないじゃろう?」



 そう言って荷物袋からロープを取り出すアルベイだったが、僕は前向きに抱え込んだ鞄からスライムを呼ぶ。



「スラ!悪いけど………皆の身体を龍っ子とくっ付けてくれるかな?お駄賃はチョコレートで………」



 そういう時必ず反応するのは龍っ子だ……


 食べ物と理解したら当然欲しがるので、口に放り込んでやる。


 しかしスライムに纏わりつかれて、ビビりまくるアルベイとオリバーはそれどころではない様だ。



「大丈夫なのか!?このスライム……まさか飛んでる最中に我々を消化したりせんよな?」



「オリバー大丈夫じゃよ!儂もスライム合体は初めてじゃがな……ヒロはテイマーじゃからな!消化などはされんよ。エクシアも以前トンネルアントにこれで騎乗していたからな!なかなか快適らしいぞ?」



 アルベイはそう説明したが、オリバーの混乱具合は増す一方だ。



 ブツブツと……『前衛職で魔法が使え……いやゴーレムが前衛タンクか!……って事は……魔導師の魔導士でテイマー?どれが本職なんだ?デュアルクラスは聞いた事があるが………むむむむ…………』


 と独り言が多い……



「では皆さん!すいませんあとは頼みます!今からは村長さんの説明に従ってください!」



 僕がそう言うと、ミミが突然龍っ子に前に立ちはだかり……



「龍さん!私をガシッと掴んで一緒に連れてってください!ガシッと!ガシッと!!」



 龍っ子は言われた通り『ガシッ』とミミを右手で掴む……そして左手で何故かマールも『ガシッ』っと掴む……



「ええええ!?私も!?なんで?私は『ガシッと』って言ってない!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 そして一気に羽ばたき高度を上げて行く……



「ぐえ………ガシッと過ぎます………龍っ子さん………内蔵が口から出ちゃいます………ぐえぇぇぇぇぇ…………」



 飛んでいる間中マールの悲鳴とミミの呻き声が響き渡る………


 そして男なのに甲高い悲鳴をあげるオリバーと、高いところから下を見て子供の様にはしゃぐアルベイ……



 それはまさに……『一人で来た方が良かった』と言わざるを得ない…………



 飛んでいるとハーピー4匹が必死な形相で飛んでくる……



「ま……間に合いました………羽根に魔力を纏って飛ぶ方法がこんな速いとは………ですが魔力が凄い勢いで無くなって………」



 龍っ子は尻尾をハーピーに差し向ける、どうやらそこに掴まっていろ……という事だろう……



 大空を飛ぶ事……約1時間。


 既に目的地周辺だったが凄い光景だ……



 龍の背中には3人の下半身がスライム化した男性に、両手には女性二人が鷲掴み……そして尻尾には4匹のハーピーが休憩する変な状態だ。


 そのハーピー達が目の良い長所を使い監視していたが、森から何かを発見する。



「真下に動く気配が!敵でしょうか?我々が先に迎撃してきます!!」



 そう言って4匹のハーピーは強襲しに向かう……


 しかし下では既に索敵をしていて、上を飛ぶ龍種に気がついていた……



「こんな所に……龍種!?………更に尻尾にハーピー!?なんだアレは?」



「おい!あれを見ろ!龍に人が捕まっているぞ!!龍種では我々とて無駄死にだ……それにあの高度では矢の威力はとてもじゃ無いが望めない。しかし万が一だが……手放す可能性も有るか?……」



「ちぃ!目的地前だと言うのに!!ハーピーに見つかったぞ!!くそ!仕方ないハーピーは迎撃する!!ついでに龍の手も狙うが……もし成功したら、落ちてきたところを上手く風魔法で衝撃を和らげろ!!喰われるよりマシだろう!!」



「あの龍族の種類が火龍じゃ無い事を祈るしか無いな!……救出後は散開だ!いいな!?やるぞ!!」



 そんな事が既に話されていて、下に居た奴らはハーピーよりも先に真下から矢を射掛けて来た……



 龍っ子はチマチマした攻撃を避けるのが面倒になり、周辺をいっぺんに焼き払おうと口を大きく開けて、炎を吐き出そうとする………



「アッチィ!アッチィです!!お口真っ赤で………龍っ子ちゃん!!ミミは!!こんがりロースト・ミミにはなりたくありません!寧ろこの距離では消し炭です!夕飯にミミの丸焼きは、絶対にーーー!!お腹を下しますよ!!」



 勝手な発言でついて来たくせに、あれこれと煩いミミだった。


 しかし下に居た者達は、ミミのおかげで一命を取り留める事になる………



「ええ!?あの煩さ!!ミミ!?ミミか!?」



「ああ!エルフレア……間違い無いぞあの声!アレはミミじゃないか!?間違い無さそうだ………」



「なんであの娘は、あんな龍に捕まる事になったんだ!?トラブルを招くのは、ヒロ殿だけだと思ったのだが……彼女もトラブル大好きの様だな!ぶははは………流石ファイアフォックスだ!エルフレア!エルオリアス!理由ができた!!何としてもミミを助けるぞ!!」



 僕は熱がっている居るミミを見た時、木のてっぺんに登るエルオリアスとエルフレアそしてエルデリアらしいエルフを発見した。



 下に居るのは仲間だから、即座に龍っ子とハーピーに攻撃をやめて下に降りる様に言う。


 そしてスライムを少し分裂させてエルオリアスに向けて投げる。



「なぁ!?スライムが空から降って来たぞ!!エルフレア!エルデリア!気をつけろ!くっ!コイツ……頭の上で跳ねるな!!」



「エルオリアス!!そんな事をする奴は世界がいくら広くても、人間で一人しか居ない!!エルフレア弓をしまえ!あれは敵では無い!多分ヒロだ!!今度は龍に乗っている………あの口から察するに火龍だ!!」



「「はぁ!?ヒロだと!?………」」



「だからミミは鷲掴みなのか……成程!!と言う事は……あれは特訓か!!アレで何が得られるんだろうな?精霊力でも得られるのか?風系とかか?私も一度お願いしてみるかな?」



「いや……絶対に違うと思うぞ?エルフレア……アレは絶対ミミの自業自得だと思うぞ?あの煩さから想像すればな!おい!エルオリアス!何時迄もスライムと戯れるな!」



「だ……断じて戯れてない!!決してだ!!」



 エルフレアは鷲掴みになったミミの経緯を誤解している様だった。


 そして僕が投げたスライムだと気が付いたエルオリアスは、如何やらスライムをお手玉の様にして楽しんでいた様だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 地上に降りてから、足の運びが小鹿の様なマールに説教されるミミはある意味とばっちりだった。



 ミミは自分を『ガシッと』と言ったはずだが、龍っ子はマールも行くと言っていたのを聞いていた。



 その為に龍っ子は一緒に『ガシッと』したらしい。



 マールの産まれたての小鹿の様な足取りは、それはそれで見てて面白かった。

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