第561話「建設計画会議に現れた金級冒険者」


「マークラさんお疲れ様です……どうですか?進捗は?」



 僕の挨拶から始まった会議は、僕とマークラに村長と大工棟梁のゴウバンそれに数人の大工達だ。



 会議が始まる前に森の精霊達と話して、ハーピー達のことを伝えた。



 彼等の種族の中で話し合ってくれと言っておいた。


 新緑の騎士の説明では、彼等はハーピー達が来る事はどちらでもいい様だ。



 彼等にとってハーピーは、巣の提供的意味で共生関係にある様だ。



 ハーピーの出したゴミや排泄物は、森の土壌を作るのに役立つらしいので今までは敵対はしていなかった。



 敵視してない大きな理由には、ハーピーは腕が翼なので火起こしができない。



 短時間で森を灰にする事や森を傷つける事もない彼等は、ゴブリンやオークそして特定の人間の様な『森の敵』では無い。



 今回の騒動は、僕等が不用意にハーピーの縄張りに入った事が問題だ。



 しかし元を辿れば、人の欲望の象徴である人工ダンジョンにある。


 森精霊にも言われたが、やはりその場所を早急に破壊する必要がありそうだ。


 そうすれば彼等も安心して元の縄張りに帰れるだろう………



「領主様が来る前に、村民へ自己紹介とヒロ男爵家の筆頭執事になる事を説明しました。その上でヒロ様に指示された箇所の森の開拓を指示して、伐採による樹木分の新たな植樹と、穀倉地帯の計画も説明しました」



 出来る男マークラの段取りの良さは流石だ!


 僕は穀倉地帯の事を言われたので、ある男を思い出した。



 美食家で男爵崩れの『チック元男爵』の事だ。


 この件は是非マークラへ説明しておこう……



「マークラさん実は穀倉地帯の適任者が居ます。ザムド伯爵かウィンディア伯爵のどちらかが『チック』と言う元男爵を保護してます。ある事件の大切な証人であるので生かしておきたいらしいのです。彼なら多分食料関係は上手く出来るはずです。今度伯爵達に会ったら話しておきます。」



 僕はマークラにそう説明する。


 マークラはその様な人材を起用するのに凄く反対の様だが、彼は問題児だが悪辣貴族でも常軌を逸している逸材だ。


 食料の為に犯罪に加担するのだから……



 ならば、その様な環境を管理管轄させれば良い方向に働けるのでは無いだろうか?


 特にこの世界にないメニューの再現には、彼の様な食に興味がある人間がかかせない。



「マークラさん実はある意味逸材なんです。彼は食料自給率に偉く関心がある様なんですよ。働く環境さえちゃんと整えて活躍する場所を与えれば、王都での事件には加担しなかったんじゃ無いかとさえ思えるんです」



「ですが王都で問題を起こした人をそんな簡単に起用できますかね?伯爵達も事件に関与しているなら、そう簡単には……」



「そうですね。なので僕は鉱山で強制労働と穀倉地帯で指示監督のどっちが良いか、天秤にかけて貰おうと思ってます」



 マークラは呆れた顔で僕をみる。


 当然、自由のない鉱山と穀倉地帯の監督業務ならば、間違いなく後者だろう。



「成程……問題はありますが、正規雇用では無く『犯罪者の起用』なのですね!それならば間違いなく、穀倉地帯の発展に尽力してくれる事でしょう」



 僕は大工の親方衆に、不足しているものが無いか聞き取りをした後に、現状の進捗を確認しに向かう。



 複数の建設予定地には既に家の形になっている物も有り、新たに基礎が出来始めている場所もある。


 よく見ると大工達の数が増えて居た。



 住む場所の問題は無いのか聞くと、既に提供したテントで上手く持ち回りで寝泊まりしているそうだ。


 僕はお急ぎ便でテントを追加購入しようかと思ったが、既に水鏡村の住民用にも多くのテントを渡しているので、置く場所にも問題があり更にテントを貰っても困るそうだ。


 今の問題は一軒でも早く建てる事だろう。



 しかし今は僕が居るので、今日くらいはゆっくりと寝て貰おう。



「今日は僕のマジックテントを使うので、寝泊まりの場所が無い大工の皆さんはそこで寝てください」



 大工達にそう言った後、僕達は村長の家に場所を移す。



 マークラは勿論、村長と製材業務の責任者に薔薇村の冒険者ギルドの職員を呼び翌日の予定を話す為だ。



 明日の予定は薔薇村からジェムズマインに1時間近く戻った場所にある、魔の森の開拓作業だ。


 魔の森の穢れに汚染された伐採と運搬は、ゴーレムにやらせるが『祝福作業』だけは冒険者依存なので、ギルド職員の参加も必要だった。



 その為ギルド職員には『祝福』が使える人を集めて貰っておいた。


 仕事内容は『伐採済みの魔樹への祝福』で、薔薇村村長の依頼扱いだったが集まったのは4人で、回復師1人と薬師が3人だった。



「依頼を見て来たが……この村は異常だな?来た当初は樹木の魔物に村が襲われていると思ったが、見過ごせないから死を覚悟して飛び込んだよ!したら魔樹の魔物に歓迎されて驚きは倍だったぜ!午後からはハーピーの群れに5メートル龍族……俺は話すハーピーなんか長い冒険者人生で初めて見たぜ!」



 ギルド職員が連れて来た男性は、余りにも驚きすぎて自己紹介の前に興奮気味に話し始めた。



 男は王都からジェムズマインに来たらしく、理由はジェムズマインの街に有るギルドのファイアフォックスに用事があった様だ。



 残念だがギルマスのエクシアは朝早く僕が見送ったので、彼等が来た時は既に街には居なかった。



 男は金級冒険者で名前を『オリバー』と言うらしく、残り3人の薬師は仲間という訳では無い様だ。


 薬師は男性2名が銅級冒険者で名前をドロスとペイと言うらしく、女性は1名で銀級冒険者の様でマールと名乗った。



「はじめまして……この周辺の領主をやっているヒロと言い爵位は男爵ですが、皆さんと同じ元冒険者です。この依頼を考えたのは僕なので、本来は僕からお願いするべきなのですが、今回は諸事情があり薔薇村の村長名で依頼をお願いしました」



 僕は自己紹介と今回の依頼主は自分であった事を話す。



「宿泊先はお決まりですか?もし今日の宿泊先を決定して無ければ、宜しければ僕が用意するテントを提供出来ます」



 テントで宿泊と言うと嫌そうな顔をすると思ったが、外の既に無数に有るテントを既に見ていた事と、現在の村内状況を既に聞いて居た彼等は文句を言うでも無く素直に従ってくれた。



 僕は明日の予定を話すついでに冒険者への任務内容も話した。


 魔樹を祝福すると特殊素材になる事を話し、それを用いてこの村を街にする計画なので重要な事だと説明をする。


 本来それらの情報は金貨5枚から10枚にも値するらしく、惜しげもなく教えて貰えた事に彼等はかなり喜んでいた。



 何故情報量に差があるかは『情報を貰う場所』によって上下の差があるそうだ。


 ちなみに金級冒険者の『オリバー』は祝福で素材になることは知っていた。


 しかし、魔の森特有の穢れによる汚染が消える事は知らなかった様で、この依頼を受けた自分を褒めていた。



 仕事内容は力も使わずMP消費だけなので、今回の依頼料はかなり安い。


 依頼については『銅級資格保持者』をメインにしようと話していたのだが、銀級どころか金級冒険者まで参加するとはとは思わなかった。


 オリバーとマールに安い依頼なのに何故この依頼を受けたのか聞くと、黒い渦が天を染めた水鏡村の異変をジェムズマインの街で見たらしく、冒険者として現場に駆けつける為に来たそうだ。



 あの異変はジェムズマインでも知る事ができた様で、多くの冒険者が出発する準備をしていたそうだ。


 しかしアナベルの魔法を直後に見る事になった彼等は、『行くと全員が間違い無く死ぬ事になる』と住民に止められ、仕方なく諦めたそうだ。


 薔薇村からの伝書鳩の速報で街は落ち着いたが、水鏡村方面に向かう際は自己責任とギルド職員に言われた為、向かう冒険者はほぼ居なくなった様だ。

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