第560話「新たな住民候補ハーピー種」


「旦那!流石にアレはねぇっす!屋根から落ちたら死んじまう!次は村の外で姿を変えてくだせぇ!」



「そうです!流石に街になる前に大工衆が村から逃げちまったら家なんか建てられませんぜ?」



 親方衆は口々に不平不満を漏らすが、僕も彼女には注意している側の人間だ……だが河童やらハーピーやらトレントが共存する不可思議な村だったので気が緩んだのだろう……



「すいません!!今度もう一度ちゃんと言っておきます!」


「いやぁ……別に今更龍種だの変身だの……何をしようが構いませんぜ?ただ風圧で屋根から落ちるのだけは勘弁ってことですよ!意味分かりますか?儂等には羽根がねぇんですよ!」



 ビックリする事に大工衆の問題は龍っ子の姿でなく、突風による被害のクレームだった。


 唐突に羽ばたいた龍っ子の翼が巻き起こす突風は、かなり威力がある様だ。



「そ……それも一緒に言っておきます……多分周りに自分に似た魔物が居たので気が緩んだのでしょう!」



 順応力が強いこの村の一部の住民は魔物に耐性が出来ている様で、簡易鑑定には『恐怖耐性・恐慌耐性』成功と表示されている。


 当然失敗している住民も居て、その住民は逃げ回っている……


 ちなみにそれが人としては正常だ。



 だが、その村民もいずれ『耐性』ではなく『無効』のステータスを得る事だろう。



「ならば私達が手助けできると思います。人間位であれば掴んだまま飛ぶことも可能なので、ロープをあらかじめ掴んでいれば落下防止になるでしょう!」



 ハーピー隊の隊長は話を聞きつけて、村長の家の屋根から話しかけてきた。



 集まっていた大工達は、ハーピーの提案を黙って聞く。


 安全に仕事にできるなら、それに越したことは無いからだ。



「おお!それはええなぁ!職人が怪我しないに越したことは無い!ところでオメェさん達どの位の重さ迄運べるんだ?例えば二人で屋根板を持って飛べんかの?それが出来ればワシらが落ちることもかなり減るんじゃが……」



「持って飛ぶのは多分可能でしょう……と言うか一つ聞きたいのですが?……貴方は私が怖くは無いのですか?ハーピーですよ?私が言った事ではありますが……」



 大工衆の親方は、使える物ならなんでも使う性格の様で魔物迄使う様だ……


 確かに言われてみれば飛行可能な魔物を使えば、作業は格段に楽になり安全になるだろう。



 そう思っていると村長のガロスと棟梁のゴウバンが何やら話し合い始めた……


 気に掛かったので何を話しているのか聞いてみる……



「どうしたんですか?何か問題でも?」



「いやぁ……もしお願いできるなら、ハーピー達を雇えねぇかってな?……村長からヒロ男爵様にお願いしてそれが出来るなら、工期も減らせるからよぉ!冬までに数軒って言うとハーピーでも使わなけりゃ、流石に間にあわねぇなぁってな……」



 大工棟梁のゴウバンはそう言うと、ハーピーの隊長に直談判を始はじめ実際に屋根板を持って飛べるか試す……


 荷馬車から太めのロープを持ってくると板に絡めて、ハーピーの隊長と何やら作業分担の話を始めた。



 隊長の指示でハーピー二匹が降りてくると、ゴウバンの指示通りに持ち上げ運んで屋根にあげる。



「おお!軽々と持って飛べるんじゃな?ハーピー達が手伝ってくれるなら、かなり順調に事が進むんだが……どうじゃ?男爵様!目で見てわかる上々の結果じゃ!……頼んでくれんかの?」



「ぼ……僕にそう言われても……ハーピーの皆さんは自発的に手助けしてくれているだけで、僕と何かに契約関係にあるわけでは無いんです」



 比較的穏便に事が済む様に言う……


 お互いが共生関係にあればお願いも出来るだろう。


 だが現状では何処までお願い出来るかも分からない。



 しかしハーピー達は満更でも無い様で、共生関係はウエルカムの様だ。



「私に考えで申し訳ないのですが、もし可能であればこの周辺に住処を移住さえてもらい、異種族間協定を結んで貰いたいのです。我々はこの地を離れたら最後行く場所が無く路頭に迷います……まだ幼いハーピーも多いので戦闘をしながらの拠点探しなどできないのです……」



「なるほどなぁ……魔物も話をしてみると色々苦労してんだな?まぁ俺等は雇われ大工だから、拠点移動はこの村の村長と、新領主のヒロ様に聞いてみろ!」



 頭領のゴウバンがリーダーにそう話した後、横にいる村長を指さす。


 その村長は僕を見て、どうしましょう?と言う顔をしている。



「村長様!新領主様に掛け合って貰えませんか?それに……龍族の家族が居る村であれば、我々も安泰ですから!!ハーピー族の長には私が説得してみます。我々は人も魔物も見境なく襲う、言葉を忘れたハーピー族ではありません……。共生は出来ると思うのです……」



 どうやら必死な訴えを聞いて、村長も無下に断れない感じになっているようだ。


 村長も今まで酷い状態でこの村を運営していたのだ……種族は違えど救えるものなら救いたいと考えているのかも知れない。



 僕がそう考えていたら、村長はハーピーの隊長に歩み寄る……



「まぁ……村の者に聞かねばならない事もあるので今すぐ即答は出来ぬし、そもそも族長に聞かなければならんのでしょう?先に確認してくるが良いでしょう……因みに新領主様に関しては、もう話の全てを聞かれておるから心配せんでもいいですぞ?ですよねぇ?ヒロ新領主様?」



 ハーピーの隊長は僕をみると、信じられないものでもみる様な目で見る……


 隊長は流石に、僕が人族の貴族でありこの一帯を治める新領主である事など知らない。



 彼等が知っているのは、怒った火龍は子供でも手に負えないと言う事だろう……ちなみに僕にも手に負えない。


 理由は簡単だ……


 龍っ子は頭に血が昇ると、ほぼ間違いなく僕の存在を忘れるのが目に見えている。



「まぁ村長には村人に採決を取ってもらいましょう……新緑の騎士様やトレント達もこの周辺で暮らすのだから問題にならない様にしないといけないし……問題は……その格好ですが……どうしましょう?」




 ハーピー種は女性の上半身に、猛禽類と人が掛け合わされた下半身、そして鷹の様な脚と禿鷲の様な翼を持つ。


 下半身は羽に覆われているので問題無いが、上半身は洋服など着てないのでちょっと教育上的に非常にまずい。



 ハーピーは特有な身体を持つ、色々話を聞いてみるとハーピーにはオスは居ないそうだ……


 ここまで繁殖はどうしたのか?……と気になってしまうが、聞くのもなんか嫌だ。




 村長はハーピー種のことをあまり知らないが、魔物はこんな物では?と全くと言っていい程に気にしていない。



「ひとまず理由は分かったので、村長は村民に隊長は長老様に話をして結果をまとめて下さい。僕は新緑の騎士様に聞いておきます」



 僕はそう言ってからため息を吐く……


 せっかく街建設の会議できたのに、またもや問題が増えてしまった……



 しかし収穫もあった。


 ハーピー種全部が人語を話せる訳ではなく、扱えるのはごく一部だと言う。



 人語を扱うハーピーは縄張りを持つと種族を重要視するそうで、翼を持つ生き物には高圧的に追い出すようだ。


 しかし根は争うのが嫌いな様で、結構無理して頑張っていると言っていた。


 相手に襲われない限りは、手を出さない様に心がけているようだが、今回はそうもいかなかった『事態』だった訳だ。



 確かに自分達のすぐ側で龍が暮らせば、ハーピー達が場所を譲り逃げない限りはその場所では安定した生活など出来ないだろう。


 ちなみに知恵があるハーピーだからそう考えるが、人語と扱わないハーピー達はかなり無頓着らしく、自分たちの様な選択を取るかは分からないそうだ………

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