第559話「大工とハーピーの相性」


「ヒロ様!お疲れでしょう?ささ!此方へ!!」



 村長はそう言って村の入り口で僕を案内する……


 何故この時間に来ると知っているのかを聞くと、新緑の騎士が突然飛び出して行ったのでそうでは無いか?と考え、待機していたそうだ。



「ところで……空を飛んでいるハーピーは敵では無い……と考えてよろしいのですな?ヒロ様の事ですから、仲間に引き入れたと考えてますが?」



 村長の言葉で驚いた僕は上を見上げると、村に入る前に巣へ返したはずのハーピー達が居た。


 未だに警戒して周りを警護するハーピー達は、村の上空を旋回し飛んでいる。



 感知スキルを使っていれば気が付いたかもしれないが、村についたので油断していた。



「もう大丈夫だから!巣に帰って休んでいいよ!ありがとう!!」



 僕がそう言うと、火龍に黒焦げにされた例のハーピーが降りて来た。


 僕は痛々しい傷を回復するために中級ポーションも提供した、一番怪我の度合いが酷かったハーピー戦士隊の隊長だ。



 ポーション効果は魔物にも問題なく効く様で、酷かった怪我は殆ど回復した様だ。


 やり過ぎた龍っ子のフォローのつもりであったが、収穫もあった……


 ハーピーの様な魔物に使うと、傷の回復効果は失った羽を増やす事にも役立った。


 羽根を武器にするハーピー特有の様だが、羽を新たに生み出すのには其れなりのエネルギーを要する様だ。


 しかしポーションのお陰で、お互いの関係性は良い方向に働き、今に至った。



 そのハーピーは降りてくると、仲間にも降りてくる様に伝えた……



「私達には謝罪に加え恩があります!我々は夜目が効きます故、貴方様が居る村の安全は私達が守ります!」



 そう言うと、勝手に村の巡回警護を始めるハーピー達……



「ら……らしいです……村長さん。村民の皆さんにハーピーは安全なので……攻撃はしない様に言って貰えますか?」



「ふぉっふぉっふぉ!大丈夫ですよ!この村の住民は男爵様のおかげで既に『見る目』がありますからな!ある程度は、敵かどうかくらいは見分けられますじゃ!問題は彼等に共存する気があるかどうかでしたからな!」



 そう言った村長の言葉通り、村民は普通にハーピー達に話しかけている。


 それに驚いたのは、ハーピー達の方だったのは言う迄も無い……



 ジャーキーを燻している子供に至っては、焼き上がったばかりのジャーキーを空へ放り投げてハーピーに餌付けさえしている……順応力が高すぎるのも考え物だ……



 ハーピー達は姿形からして忌み嫌われると思っていたので、人間のその行動には動揺が隠せない……



「ヒロ様!!村の人間に野菜を頂いたのですが……。ですが私には代わりに渡すものなどないのですが……」



「実は私も……。カッパから魚を沢山貰い、どうしたら良いか………」



 巡回警護しているハーピーへ村民は何かを渡している様でだ。


 ホバリングしているハーピーは何かしらを持っている。


 河童はどうやら襲わないで貰おうと、服従の証的な物だろう。



「ならば自分たちができることで恩返しすれば良いのでは?河童も似た様に魚を野菜に変えている様なので。ハーピー目が良いのだから空からの監視とか……出来ることからコツコツと。どうですか?」



「それは助かりますのぉ!儂等の村はまだ監視台が出来上がってませんのじゃ!魔物の侵入は事後処理しか出来ませんのでなぁ。特に夜目が効くのであれば、儂等には大助かりですじゃ!!」



 すると、更に僕の服の裾を引っ張る感覚がしたので振り返ると、何故かまだ龍っ子が居た……


 どうやら鉱山へ帰らずコッソリとついて来たようだ。



 そして、横には河童がいて当然の様に魚を持っていた。



「魚を交換してくれるって言うんだけど……交換するものが無いの!パパ何か交換するもの頂戴!」



 僕は仕方ないので、村長の家を借り倉庫のスキルを使って『日本酒』を1パック持ってくる。


 河童と言えば日本酒?と言う発想しかなかった……



 本当はドワーフに振る舞う予定だったが、問題続出で結局時間も取れずに用無しになった可哀想な酒だ。



 僕は蓋を開けて、河童に見せてから酒でいいか話をする。


 パックその物を交換するつもりだったのだが、どうやら様子がおかしい……



「酒?いい匂いするなこれ……クレ!!サカナと交換!!頭の皿にかけてくれ!!」



 そう言うと、龍っ子に魚を押しつける河童……


 村でエールを貰う時はどうやら、ある程度の量と交換の様だ。



 僕は頭の皿にかけてと言われたので、言われるままにグラスについで適量をかける。



 すると、みるみる内に頭の皿に吸い込まれていく……



「うぃ……この酒……うぃ……飲みやすい……でも強いなぁ……ヒック………」



 その言葉通りあっという間に酔っ払う河童に、僕は戸惑いが隠せない。


 考えてみればアルコール度数が違うのかも知れない……飲まない僕には違いが全く分からない……



 千鳥足の河童は、酔ったまま掘った貯水池の縁に行くと仰向けに寝はじめた。


 それを見た他の河童も、龍っ子に魚を押しつけてくる……



「パパ!私がやる!交換は私がする!!」



 龍っ子は半ば強引に酒を奪い取ると、貯水池に走っていく。


 河童達は珍しい酒に興味津々で交換し始めると、竜子の足元にはあっという間に魚の山ができた。


 波打ち際のトドの様な格好で寝る河童が、地面に転がっていく……



 龍っ子は早めに鉱山に返さないとならないが、今酒を取り上げたらイヤイヤ病が発症されそうなので仕方なく見守る……


 暫く交換会をしていたが、意外と早くカタがつく。


 幼い河童以外は酔っ払って寝てしまい、だらしなく寝てしまった。



 龍っ子はと言えば、はじめての交換会に満足した様だ。


 沢山手に入れた魚を、マジックバッグにいそいそと詰め込んでいる。



「これで当分魚には困らない!鉱山の地底湖には魚少ないから良かった!!妹達の分も手に入ったし、凄くお腹もすいた……それに産まれてないか心配だから帰る!パパまた明日迎えにくる!!」



 そう言った龍っ子は、あれだけダメだと言ったにも関わらず洋服を脱いで龍の姿になる。


 それを見た村人は、5メートルを超える龍種から少しでも遠ざかろうと逃げ回る。


 だが問題の龍っ子は、既に飛び立った後だった………



 因みにマジックバッグはキバで咥え、服は脱ぎ捨てて行った。


 宿ではご飯以外にも何やら詰め込んでいたが、明日着る服がマジックバッグにしまってあると良いのだが……



 しかし周りは、それで済むわけはない。


 村長が息を切らしながら戻ってきて一言……



「ヒロ様の周りは………何故こうも……『人』では無いのでしょうか?ハーピーは『かなりビックリ』で済みましたが!龍は………!!どう考えてもこうなりますぞ?」



 周りを見ると、建物の影に隠れたり貯水池に飛び込んだり、それはひどい有様だ。


 脱兎の如く逃げた村長は、歳の割に足が速かった……



 ちなみに薔薇村で迫害を受けていた小さい子供は、全員が龍っ子の飛んでいった方向へ駆け出して……『いつか僕達も飛べるかな?』と言っていた。


 同じくらいの背格好だった為、何かを勘違いしたのかもしれない。


 どうやら村民よりは子供達の方が逞しい様だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「何はともあれ……マークラ殿から話は聞いております!……早速ですが建築会議をしたいのですが?」



 村民は逃げ回り、河童は酔ってイビキをかいて寝ているので龍の存在に気がつかず、ハーピーは既に存在を知っているので監視巡回中……


 そんな異様な村であったが、なんとか冷静さを取り戻した村民は、自分の仕事の持ち場に戻って行った。


 大工達は冷や汗をタオルで拭いながら『死ぬかと思った……龍が……翼が……』と口々に話していた。


 彼等は建築中の家の屋根に登っていたので、飛び立つ龍に近い位置だったらしい。


 数人は間近でその顔を見た様で、興奮が収まらない様だった……

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