第562話「マジックテントに驚愕するオリバーとマール」


「……と言う事で、明日の予定はジェムズマインと薔薇村の中間地点に向かいます。汚染された魔の森を開拓する為ですが、主な目的は新たな領主の屋敷を建てる為です」



 僕はそう言ってから、仕事内容の再確認をしてから折角なので僕達は夕食を一緒に取り事になった。



 彼等にしてみれば、村にいる魔物は何故か僕を中心に村の為にせっせと働いているのだから、その様な結果になるのは当然な事だろう。



「では聞きたい事がない様であれば、テントを設置した後にひとまず夕食にしましょう!」



 彼等にそう言うと、テントで宿泊にも関わらずかなりウキウキしている様に見える。



「村に来たのにテントで宿泊なんて本当にすいません。隣の水鏡村の村民も避難して来ているので……色々と大変な状況なんですよ……」



 僕がそう説明すると、オリバーとマールは……



「寧ろ有り難いさ!こんな見た事もないテントで泊まれるなんて思っても見なかった!それに冒険者だからテントを使うのは慣れている。」



「ちょっと!オリバーさん!!幾ら金級冒険者でも相手は貴族様で、この領地の領主様よ?元々冒険者と言っても『元はそうだった』って事で……言葉遣いはちゃんとしないと!!」



「ああ!たしかにそうだな!マールさん!!貴族っぽく感じないからつい……はははは!!ゴホン……実はヒロ領主様が来る前にテントを覗かせて貰ったんだ。しっかり閉めてしまえば中は風も入らない作りなんて



 その会話を聞いて、僕は本当にやり辛いので敬語は辞めて貰う事にした。


 爵位有りで話をすると何かを頼む度に貴族扱いされてしまう可能性もある。


 そんな話が出回れば、確実に面倒になるからだ。



「ヒロさんって……本当に変わってるんですね?貴族爵位を貰った冒険者って大抵上から目線なのに……根っからの冒険者なのかしら?そう思わない?オリバーさん。でも……まぁ……それを説明されれば、そうしたい理由もわかるけどね?」



「俺もそう思うよ。それも俺みたいな金級でないんだぞ?マールと同じ銀級冒険者って言うんだからなぁ?どれだけの功績を得たらその階級で爵位を貰えるのかな?マールさんは知っているかい?その方法?」



「オリバーさん?私が知るわけないってば……夕食時に聞けば?彼なら間違いなく教えてくれるんじゃない?その代わり何かあったら、この村の為には手伝わないとならなさそうだけど?」




 僕は彼等と村長を伴って村の中央に向かう。


 前にテントを設置した場所は、何故か僕専用の場所にされているらしい。



「ひとまずテント設置したので中へどうぞ。部屋が多いですが、部屋は早い者勝ちなので……目印を置いてくださいね。貴重品は自分で管理してください」



 マジックテントにの中を見た彼等はビックリこそしたものの、臨時で泊まる場所になった大工達が入ってくるなり部屋の争奪戦が始まったので、手近な部屋に飛び込んでいった。



 各部屋からは『すげー』とか『毎日ここで過ごしたい』とか声が聞こえる。



 大工達はどうやら『工具』を目標に置いている様で、部屋を取った者からすぐに食事の準備を手伝いに向かっていた。


 作る食事も人数が多いので、皆が協力しなければならない様だ。




「まじか……こんなテント……ヒロって何者だ?」



「オリバー!!お風呂があるの!奥に!!すごい豪華よ?ヒロさん!!ナニコレ?本当にテントなの?」



 銅級冒険者のドロスとペイはもう空気に様な扱いだが、ちゃんと部屋を確保した後にテント内を物色してから夕食準備を手伝いに向かった。


 祝福の仕事だけでスイートルームの様な場所に泊まり、申し訳ないと思ったそうだ。


 僕は興奮が収まらない二人を伴って村の食堂に向かう……



「あら!領主様!?まさか準備を手伝いに来たとか……言いませんよね?」



 目が回るほど忙しい食堂内の厨房だが、食堂の女将さんの一声で働く者達の目が僕に集まる……


 僕はユイナ直伝の料理の数々を作れる様になったので、自分達の分くらいは……と思ったのだ。



 食堂の女将さんは、まさか貴族が食事を自分で作るとは思っていなかった様でアタフタするが、村長は『任せておけば良いんじゃよ!鼻持ちならない貴族共とは我等が領主は違うんじゃから!』と言うが、女将さん的な問題は、竈門の数の事じゃないだろうか?



 僕は、作った料理は自分達で好きな分だけ盛ってもらう事にした。


 どれくらい食べるか分からないからだが、僕自身お腹が空いていたからもある。



 ちなみにエルフ味噌を使った料理で、大鍋に山程の『肉味噌炒め』を作った。



「まじでなんでも出来るんだな!これは……冒険者ぱーの料理番できる腕前じゃないか!!」


「ヒロさんのがいるパーティーは、食材だけ有ればこんなモノ食べれるのね?羨ましいわ!私達のパーティーなんか大概黒パンに塩漬け保存肉よ?」



 僕はユイナの存在を明かすと……『上には上が居るって言うが……これよりうまい料理を作る冒険者か……』とオリバーが味噌肉炒めを頬張りながら感動していた。



 マールは、食べ易いお肉が何か気になった様だったので、フォレスト・ウルフ肉だと教えると『あのウルフ……食べれるんだ!?』などと驚いていた。


 ドロスとペイは遠慮がちに食べていたので『冒険者なんだから遠慮しちゃダメだ!』と言うと、なぜか『マール』が大木皿を手荷物から取り出してそれで食べ始めた。


 マールは細身体型なのだが、どうやら痩せの大食いの様で遠慮していた様だ。



 2回程作り増しをする羽目になったが、その理由は大工衆が椅子を持って来て相席するからだ。


 これ以上作ると、大工衆にエルフ味噌が全部食い尽くされる危機感を覚えた僕は、食材の味噌が品切れのなったと誤魔化しておいた。


 翌朝は、風の9刻に村の入り口に集合とだけ決めた。


 時間が遅めなのは、彼等はこれから村の酒場で飲むそうなので少し遅めに設定した。


 因みに出るのが早すぎると、朝飯探し中の魔物に出くわす可能性も高いので丁度良かったかも知れない。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「………魔物が護衛………あれ?その娘って昨日の龍の子だよな?………それは?何食べてるんだ?卵?」


「ああ……朝飯ですね。おにぎりですけど?本当は昼食用だったんですが駄々こねるもんで……」



 龍っ子にパパと呼ばれる度に、あちこちで凄く視線を集める……


 昨日の『村での変身』の事があったからだが、おにぎりを餌に『村では絶対に変身しないこと』を約束した。


 村民はこの村が異常な環境である為に、相手が龍でも害がないと分かれば多分慣れてしまう。



 だから主な理由は村の建物が壊れるからとしておいた。


 この村の状況で慣れてしまえば、後々困るのは僕と龍っ子だ。



 貴族と言っても全員がまともな訳ではない。


 龍と知れれば、何かしでかすお馬鹿さんも居るだろう。



 ちなみに、龍っ子はかなり早い時間に村に来た。


 貰った魚をコンガリ丸焼きにして数匹食べて、残りは妹達が産まれても食べれる様に焼き魚にして置いて来たそうだ。



 僕は早起きしてエルフ米を炊き、焼き味噌おにぎりを作っていた。


 しかし横から遠慮なくどんどんと食べる奴がいたので、顔を見たら龍っ子だった。



 仕方ないので、追加でお米を炊いて龍っ子様に沢山作った。


 同じだと飽きるだろうと思い焼き魚をほぐして入れたり、生姜焼きを入れたり工夫をした。




「ねぇパパ!もう一個だけ食べていい?」


「そんなに食べるとお昼の分が無くなるよ?外では作れないからちゃんと残しておかないとお腹空くよ?」



 そんな話を村の入り口でしていると、ようやく主要メンバーに村長と大工衆が来た。


 いよいよ魔の森の開拓に出発だ!

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