第545話「鉱山内部で繁殖中!?」


『バリバリ……ボリ……バリボリ……バキボリボリ………』



『バキ………バリボリ……バリバリ』



「ほう………生まれて間も無い個体じゃのぉ……なかなかデカイじゃ無いか……さぁどうするかの……残念だが見つかったのぉ」



 フレディ爺さんはかなりマッタリした口調で話すが、僕は正直逃げたくて仕方なかった。



 目の前にいるのは『ジュエルイーター』などでは無く『火龍』と鑑定で出る……当然見た感じ龍種なのだから、間違いは無いだろう。



「……ちょっと……ジュエルイーターでは無く……龍じゃ無いですか!!それも小さい方で5メートルのサイズですよ?………」



「じゃから言ったじゃろう?行くならば一人でと……ドワーフ戦士団が此奴を見たら腕試しと言って攻撃しちまうじゃろうな……そうなったらここいら周辺は火の海じゃ!……さては童……鑑定しおったな?あの子龍に……気がついてコッチに来ておるじゃ無いか……」



 子龍は目の前で自分が入っていた卵の殻を食べていた……


 モンシロチョウなどは食べると学んだが、ドラゴンは何故食べるのだろう……ドラゴンの鱗のためだろうか?


 そんな風に現実逃避するしか僕はできない。


 目の前の子龍を傷付ければ間違いなく親は起きるだろう。


 その親と言えば今は尻尾の一部しか見え無い……それだけ巨大なドラゴンという事だ。



 周囲にはまだ孵化して無い卵が数個あるが、今はそれに関心を寄せている場合では無い。



「困ったのぉ……転移で逃げるにしても穴がある以上此処から上にこいつは出ちまう……鑑定について注意しなかった儂のミスじゃが……本当に困ったのぉ……」



 僕の前にフレディ爺さんが居るが、子龍はフレディ爺さんには目もくれずに僕の方に近寄ってくる……



「あれ………なんで僕の方に?………フレディさんどうしましょう………」



「じっとしておれ……其奴が口を開けた瞬間に童を地上に『転移』させる。そのあと儂とアリン子も転移し坑道の半分を崩すしか無いだろうな……あのドワーフ都市は隠れ家にもってこいじゃったが、今はそれを言っている場合では無いからのぉ……」



 フレディ爺さんは逃げた後の予定を話す……



 要は僕が食べられそうな瞬間を狙って全員で転移して、食べたと錯覚させる作戦ーらしい。


 しかしそれが上手く行かない事がすぐに分かる……



「お腹すいた……殻以外の美味しいもの食べたい………パパ達は何処に行くの?」



 僕達の会話を聞いて、すぐに人語で対応する子龍の知能の高さを思い知らされる。



 ひとまず僕は、宿屋の亭主に貰ったお弁当をクロークから取り出して、子龍にそれを見せて地面に置く……子龍は『スンスン』と匂いを嗅ぐと僕をジーッと見る。



 僕は中のオカズを一つ摘んで食べてみせると、子龍は突然人の形になり座って手掴みで食べ始める。



「オヌシ……何故弁当なんぞ持っている?と言うか……童……お前さんが餌付けしたせいで、完全に『父親』と思われておるぞ?『感知』してみい!!母親に知恵を貰ってない龍種に餌付けなど……其れにしても産まれてすぐ人化までするとは………先が恐ろしい個体じゃ……」



「言った事を理解してたじゃ無いですか!……逃げられないと思ったし、食べられたくなかったので………お弁当なら喜ぶかと思ったんです!!」



『ケプ………』


 僕がフレディ爺さんに説明すると食べ終わって、僕の周りをクルクル走り回る……


「おいしかった………もっと食べたい………おいしかった!……ジュル……薄くて茶色いのおいしかった……ジュル……」



 僕は食べられたく無いので、保存食の『ウルフ・ジャーキー』を弁当が入っていた木皿に山盛りにする。


 また子龍は『ジーッ』と見ているので食べてみせると、真似をして食べ始める……



「おいひぃ……くちゃくちゃ………さっきと違うけど……くちゃくちゃ……いい匂い……」



「なんで喋れるんですかね?孵化してまも無いんですよね?」



「くちゃくちゃ………パパから知識貰った……モグモグ……さっきパパワタシと意識繋げた………モグモグ……知識流れこんできた……くちゃくちゃ……だからそれ使った……ゴックン」



「どう言う事じゃ?この童が『鑑定』した時に『知識』を貰ったと言うのか?」



 謎を解明したいのか、フレディ爺さんが子龍にうっかり質問をする。


「そうだよフレディお爺ちゃん!『言語』と『アカシック・ライブラリー』はパパから覚えた……他はまだ難しい……」



「「………………………」」



 言語を習得する方法が龍種にはあるようだ……


 その上、個人の名前までしっかり理解してそれを使い分け話している。


 それによく分からない単語が飛び出たが、まったく身に覚えがない『物』だ……「アカシックレコード』とかは漫画でよく聞くが『アカシック・ライブラリー』とはなんだろう……



「アカシック・ライブラリーって何ですか?」


「……儂が知りたいわ!………童は自分が知らない何かを持っているって事じゃ!………今言えることは、お主を連れて此処へ来るんじゃなかったと言う事じゃ……」



 若干呆れた感じでフレディ爺さんが半ギレする。


 たしかに……


『何かに餌をやる』………『餌付けによりついてくる』………『皆が困る』


 この流れは僕がよくやる流れだが、今回は命がかかっていたのだから、少しは多めに見て欲しい。


 フレディ爺さんと話しをしていると、あっと今に半分平らげた子龍がしゃがんで肉を咀嚼しながら僕達の話を聞いていた……


 たまにアリン子の口に肉を放り込む子龍は、アリン子に念話でお願いをされたのだろう……


『ケプ……』


「お腹いっぱい……ああ……でもあの殻も食べないと……硬いだけの美味しくないあの殻……」



 人形になると胃袋も比例して小さくなるのか、一人前のお弁当とちょっと多めの保存食のジャーキーで満足したようだ。


 それより自分が入っていた殻を、食べたくも無いのに食べているようだ。


 ちなみに卵の殻は半分位は出る時に破れて地面に散乱しているが、食べなきゃと言ってた割には殆ど食べていないようだ。


「なんで食べるの?美味しくないなら食べない方がいいんじゃないの?鱗とかに影響があるとかなら食べた方がいいけど……」



「鱗に影響?何もない……でもお残しは良くない……食べれる物ちゃんと食べる。……大きくなるのに必要?……パパの知識で言うとそんな感じ……」



 僕はフレディ爺さんと卵の殻に近づき『鑑定』すると、建材や素材に使えることが判明した。


 食べたくないなら、無理して食べる必要はないだろう……



 それに鑑定結果では僕の自領で鍛冶工房を建設する時に、かなり役に立つのは間違いない。



「これ食べたくないなら………僕……欲しいんだけど??貰って良い?」


「お主………またそんな事を………」



「だってフレディさん……どう転んでも、もう問題は変わらないじゃないですか?なら………お得にって……因みにこれ粉末にして鍛冶工房の炉の素材に使うと、かなりいいみたいなんですよ!」



 僕は折角の素材を無駄にする必要はない……とフレディ爺さんへ力説する。


 それに自領で鍛冶工房を開く事を考えれば、絶対に持っていて損はない。



「いいよ!硬くて味しないから食べたく無かったの!パパにあげる……」



 その言葉を聞いたフレディ爺さんは呆れていたが、鉱石やら素材やらには少なからず興味があるようで、途中からはノリノリでドラゴンの卵について話をしていた。


 周囲を見ると、色々な素材があるのは『簡易鑑定』ですぐに分かる。


 会話中もフレディ爺さんは、めぼしい素材が無いか忙しく周りをうかがっていた……


 

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