第546話「天真爛漫な火龍の子」
「向こうには何やら、赤い鉱石やら紫色の鉱石がありますよ?」
「お主……さっき迄の緊張感は何処に行ったんじゃ?………と言うか、母龍が起きる前に此処から出ねばならんぞ?飯の件は定期的に上から飯をやる事で多分落ち着くじゃろう。本来は親も餌を集めに巣から出払うことが多いからの!」
「そうなんですか?良かった!!ご飯なら多めに作って予め渡しておけばそれで済むでしょうし……でもご飯あげている間に母親が起きたら……流石に逃げないとダメですね……」
「まぁ起きる前に独り立ちして貰わんとな……おょ?……あの子龍は何処行きおった?………アリン子も居らんぞ?……ま……まさか上か!?」
僕がフレディ爺さんと話している間に、子龍はアリン子の背中に跨り勝手に上の層に登っていったのだが……僕とフレディ爺さんは珍しいドラゴンの卵の殻を物色していて気が付かなかった。
「えええ!?………僕の『感知』にはアリン子の反応もあの子龍の反応もないです!……もしかして……本当に上に?」
「アリン子がここに居ない時点で考えられるのぉ……なんて事じゃ……流石に龍種が鉱山内部をほっつき歩いてたら大事じゃぞ!今は鉱山には誰もおらんからいいが……」
僕達はアリン子が作った坑道を必死によじ登る……
上の層に登った後に『アルブル・モンドの見渡しの魔法地図』を出して確認すると、アリン子と子龍は早くも鉱山から出ようとしていた………
「何処に居る?ちょっとみせい。………いかん!アイツら一緒に外に出る気じゃ!………龍種の幼生なんぞ見つかったら……国同士の奪い合い確定じゃ!完全に戦争もんじゃ!ヒロ急ぐぞ!!」
「え!?戦争ですか?あの食いしん坊の為に戦争?」
言い方は酷いがフレディ爺さんが話に出したのは母親ではなく子供の方なのだ、ドラゴンは確かに人間にとって脅威だが、産まれてさほど時間が経っていないと思えるドラゴンを求めて戦争だなんて……と考えてしまう。
「当たり前じゃろう?今は幼生なのだぞ?成体の龍種などが個人に懐いている所を想像してみぃ!国一つではとても手に負えんぞ!?それにあの食いしん坊とやらの母親のあの尻尾見て何を思った?お主はアレに勝てるか?」
僕はフレディ爺さんの言葉を良く考えてみた……
今は危険な状況を生き残ったからこそ、こんな馬鹿な事を言ってられる……
確かにフレディ爺さんの言う通りで、小さくてもドラゴンには変わりない。
「あとな……母親が起きた時に自分の子供が何処かの国に捕まってて見ろ……人間は『龍種』で最も攻撃的な『火龍』を敵に回すんじゃぞ?人など羽ばたく火龍の前では、どんな強力な魔法使いでもハエ以下じゃ……」
僕はその事を想像して、一生懸命入り口に向かって走る。
しかしフレディ爺さんが背後から声をかけてくる……すごい息が切れている。
「ゼェゼェ……ダメじゃ……儂はもう歳なんじゃ!!……仕方ない!『転移』するぞ!儂の手を掴め!」
そう言ったフレディ爺さんの手を掴んだ途端に、酷い立ち眩みのような状態に襲われる……
気がつくと空には太陽があり、ジュエルイーター擬きと戦った場所に居た。
僕は数歩前に出たが平衡感覚が狂い、足が縺れて倒れてしまう……すると……
『ギチギチ』
目の前で見慣れた大顎がギチギチ音をたてている……
『ヒロ……コケタ……タテソウニナイ?ダイショウブ?……セナカノル?』
念話でアリン子が話しかけてくるが、その背中には既に子龍は居なかった……
僕は急いで周りを見回すと、岩場の影に隠れているゴブリンの頭に噛み付いていた。
フレディ爺さんは『感知』を使い、その場所を知っていたようで子龍の元へ走っていた……
「これこれ!ゴブリンの頭はそんな美味い食べ物じゃない………食べ物はまた持って来てやるから、今はあの洞窟から出たらいかん!いいな?」
「ヤダヤダヤダヤダ…………美味しいご飯!!美味しいご飯ーーーーーーー!!」
ゴブリンの頭は美味しくないと言われた子龍は、地団駄を踏む。
すると、地団駄を踏むたびに、元の5メートルサイズに段々と戻していく……当然姿はドラゴンだ……
「待つのじゃ!外に飯など食いに行ったら、母親から叱られるぞ?いいのか?怒られたくないじゃろう?」
「う……………う……………なら………ママに聞いてくる……パパとご飯食べに行って来ていいかって………」
万が一にも母火龍に聞きに行かれたら、絶対にとんでもない事になる……
フレディ爺さんも流石にそれを理解しているので、幼い子龍を止めるのに必死だ。
「ま!待つんじゃ!飯は持ってくるのだぞ?ここで待っていれば良いだけの話ではないか!」
「アリン子がすごい美味しいお肉を知ってて、街に帰ったら食べれるって言ってた!!ワタシも食べたい!食べたーーい!!ワタシだけ食べれないのは嫌!!出来立てはすごい美味しいって追うんだもん!!だからママに聞いてくる!」
頑固なのは龍種だからだろうか……
それとも『ママ』と言う台詞を出せば、此方が折れるしか無いと言うのを本能で感じたのか……どちらにせよフレディは折れるしかない。
だから僕は口から出まかせを言う……でも全部が嘘ではない……
「龍っ子ちゃん……でもねドラゴンの形だと街には入れないし、『龍だと知れると』二度とご飯が食べれないんだよ!街の人が皆怖がってご飯をくれないから!だから人型のままでないとダメなんだよ!」
「パパみたいに?じゃあ!ワタシも出来るよう!パパの子だもん!!」
そう言って人形程に小さくなる……
僕は仕方ないのでクロークから『レッド・ローブ』を取り出す。
このローブは前にダンジョンで手に入れたローブだが、誰かにあげなくてよかったと心底思う……
サイズがかなり大きいので後で寸法を変えて作り直さなきゃならないが、裸で走り回られるよりマシだ。
「後で街に帰ったらちゃんとサイズに合う服を用意するけど……いまはこれで我慢してね!裸で走り回ると『人間』じゃないってバレるからね!そうしたら街でご飯は食べれないよ!分かった?」
「大丈夫!ワタシ……パパみたいに出来るもん!!」
フレディ爺さんはこのやり取りでを聞いていたが、10歳は歳をとったように憔悴している。
「仕方ないのぉ……じゃが飯を食ったらちゃんと鉱山の巣に帰るんじゃぞ?母龍が心配して怒られたら嫌じゃろう?」
「ウン!!大丈夫!食べたら帰ってくるもん!妹達もまだ産まれてないから!おねぇさんとしてちゃんとしないとダメだもん!!」
「そ……そうか……『ヒロの知識のお陰で』妹思いのお姉さんになれそうじゃの!しっかり帰らないとダメだぞ?」
龍っ子は、アリン子の背中に凄い勢いで登り定位置に待機する。
「じゃあ……行きますか…………はぁ………」
「いや……お主のせいじゃからな?儂のせいじゃないぞ!!」
龍っ子は、その話を聞きながら『お肉!お肉!』と言いながら、我関せずを貫いている……
「じゃあ……アリン子街に帰ろう……」
そう言って、僕とフレディ爺さんもアリン子の背中に跨る……
アリン子は難無くジェムズマインの街への直通路を帰っていく……力持ちのアリン子だからこそ出来る技だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
街の宿に帰ると悪魔っ子が口を開けて呆けていた……
余りにもショックなことがあったようなので理由を聞くと、ユイナがいくら待っても帰ってこないと言う。
「さっきじゃが……ギルドから使いが来て緊急会議とかで呼ばれたんじゃ……なんかな……約束をしていた様じゃがエクシア嬢ちゃんも呼ばれたから……多分当分帰ってこない筈じゃ……」
「「……………」」
肉が無い事を知った『龍っ子と悪魔っ子』はガクガクブルブルしながら、この世の終わりみたいな顔をしていた……
悪魔っ子は朝ご飯の後ユイナに駄々をこねて夕飯の準備をお願いしていた。
だからとても夕飯を楽しみにしていて、早めに王都の孤児院から宿に帰って来て、珍しく宿のお手伝いまで頑張っていた。
しかしユイナとソウマそしてエクシアはドワーフ王の事で残念ながらギルドに呼ばれていた………
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