第544話「アリン子の食欲と地下への通路」
階層主の部屋から先の通路へ続く扉が開いた形跡は無かった……
部屋からドワーフ族や人族が出た形跡はなく、続く通路から繋がる部屋には、未開封の宝箱が数個置かれていた。
未開封の宝箱が部屋にあった理由は、この階層が新しいダンジョンになった証であり未踏域である証拠でもあった。
「ようやく出られるぞ!魔術で出られなくも無いが、未契約の精霊などはそのままその場に放置されることが多いのでな!大変じゃと思うがもう少し頑張るんじゃぞ!」
『隔絶領域のお陰でだいぶ楽です。穢れの影響は全く無くなりましたし、精霊力もヒロ様から頂いてます。本当に申し訳ありません!契約精霊でも無いのに……』
ちなみに現在風っ子が猛烈に後輩が欲しい様で僕に……
『ノーミー仲間にしちゃいなよ!ノームのメスは珍しいよ?契約しちゃいなよ!それにわたしには精霊界の後輩が必要だと思うのよ!?ねぇヒロ!!』
と精霊に有るまじき言葉で唆している……
呆れた水精霊が勢いよく放り投げるが、自分で起こした風にのって戻って来るので割と迷惑だ。
それに後輩云々より、僕自体が精霊力をどうやって確保して居るのか説明が無いので教えて欲しい位だ。
そんなやり取りを風っ子としていると、フレディ爺さんがしびれを切らして、話にわって入ってきた……
「本当に精霊と仲が良いな?その話は地上でせい!……じゃあ、帰るぞ?いいな?」
「フレディさん。いいも何も……早く地上に戻らないと土っ子消えちゃいますから……」
そう言って急いで魔法陣を起動してみると、ダンジョン入り口脇の壁紋様から放り出された。
鉱山ダンジョンの到着地点の魔法陣は壁でも若干高い位置に埋め込まれて居るらしく、飛び降りる形になり使った後は少し危険が伴いそうだ。
大勢で一気に使うと誰かが下敷きになる作りで、非常に危険だ。
「おお!ヒロ男爵!フレディ殿……どうであった?ダンジョンは………」
「ちょっとした理由があって8階層までしか行けんかった。あとな言い難いんじゃが……多くの遺体がその部屋にあって、ドワーフ戦士団はそこから先に行けて無いのは確実じゃったからな。降りても無駄じゃろうが……もし、そこから更に降りるのならば一度帰った方がいいぞ?準備も必要じゃし、ヘイルストームの坊やにも伝える事もあるからのぉ!」
ドワーフ戦士団の前で国王を『坊や』呼ばわりされた王は、恥ずかしそうにデコを拭う。
しかし周りの者は『人族』の寿命を知って居るのだ……
だからこそそんなセリフを聴いた時点で、もはや『ヤバイ相手』としか思え無い様で、一歩フレディ爺さんから離れる様にする。
僕もザムド伯爵に説明することがあるので、宝箱の報告をする。
当然ダンジョン階層が未踏域になったのだから、今までのダンジョン地図はアテになど出来無いからだ。
「フレディさんの言う通りです……ちなみに宝箱3箱を未踏域にて発見しました。手に入れた場所は8階層の『階層主』部屋から先で、そこからはドワーフ団も入って無いので未踏域と思われます。そして部屋の奥にはまだ通路が続いてましたので、下層階段はその先になりますね……」
「8階層の階層主はどんな魔物だったのだ?それ次第で計画も変わるのだが……」
フレディ爺さんは8階の階層主の魔物は既にあてにならないと伝える。
僕達が見た階層主は『ピットフィーンド』と言う『悪魔種』の存在だと告げて、その魔物もどうやったのか既にその階層から抜け出て居る事も伝えた。
そしてその事が『ドワーフ王国』にも関わる問題事項であるとも伝える。
「こうしてはおれん。一度ジェムズマインに戻るぞ……エクシア!我々が鉱山へ入るのは後回しだ。
「うむ……儂もそう思う……ドワーフ王国の事もバウギン伯爵やガウギン侯爵の情報も纏めねばならん。それに一刻も早くドワーフ王国へ戻らねば、人族と戦争になっても困るからのう……」
僕達は急いで鉱山から出る準備をするが………
アリン子が凄い勢いで僕のところに帰って来る……
『ネェ……シタニナニカイルヨ!オッキイナニカトチイサイナニカ!!ナニカヲバリバリタベテタ!!』
「アリン子が下に何かが居ると言ってますけど……大きい何かと小さい何かが……それも何かをバリバリ食べてるって………」
「何だいそりゃ?殆どが何かじゃ無いか!?って言うか下って何処だい?」
そのやり取りを聞いたフレディ爺さんは頭を抱える……
「問題を起こす飼い主だから、従魔も問題児かのぉ………見に行ったのか?下に?その巨体でどうやって………って掘ったに決まってるわな………はぁ困ったもんじゃ……」
どうやらアリン子は、僕とフレディ爺さんがダンジョン探索中に暇を持て余し、鉱山内を徘徊してた様だ。
そして僕が開けた例の下穴付近で、何かの音を聞きつけて下層への通路を掘って進んだそうだ。
しかし小さい何かが食べている物が気になりつつも、大きい何かが『本能的に危険』と感じたそうで引き返してきたそうだ。
僕達の問題としては、アリン子が通れる位の結構な大きさの穴に拡張されている事だろう。
そして鉱山で何かを食べる魔物と言えば一つしか思いつかない……
『ジュエルイーター』は1匹では無く、数匹いたと言う事だろう……それも大小2匹は確実だ。
小さくても大きくても、現状では厄介な事には変わりない。
攻撃特化ゴーレムも1体のみでは心許ない。
そもそも『ジュエルイーター』なのだ……岩を砕くのはお手の物だろう。
魔力で強化したゴーレムと言っても、所詮は石像だ……あっという間に砕かれるだろう。
「このまま放置すると………どうなりますか?フレディさん的にはどう思います?」
「儂の意見では魔法で眠らせてから、通路を塞ぐのが一番じゃと思うぞ?外にさえ魔物が出なければ『今』は凌げるじゃろう?」
僕は睡眠系の魔法は使え無い事を伝えると、フレディ爺さんも使え無いと言う……
フレディ爺さんと僕の連続魔法でゴリ押しすれば、ジュエルイーターの小さい方位は何とかなるだろう。
問題はアリン子の小さいが、どの位のサイズかと言う事だ。
3メートル級のアリン子が敵を見て、小さいとするのが同サイズかそれ以下なのか分からないのだ。
「何はともあれドワーフ戦士団と街の者は邪魔じゃ!万が一の時アリン子と儂とヒロならば逃げられるじゃろうが、正直他の者は足手纏いじゃからのぉ……」
そう言われたドワーフ戦士団が熱り立つが、フレディ爺さんが全身に魔力を込めて凄むと恐怖のあまり動けなくなる。
「此れくらいでビビる様では足手纏いじゃ……少し訓練の方法を変えるべきじゃないかのぉ?ヘイルストーム王よ?自慢の戦士団が爺さんにビビってる位じゃダメじゃろう?せめてヒロくらいにはならんとな……」
僕はアリン子がフレディ爺さんに喧嘩を売ろうと頑張っているのを、必死の形相でなんとか止めているいる……
魔物は威圧されるとやり返す性分な様だ……次は絶対にやめて欲しいものだ……
慣れたとは言え、大顎が『ギチギチ』顔の横で音を立てているのだ……たまったものでは無い。
それから納得のいかない戦士団はブツブツ文句を言っていたが、結局は僕とアリン子そしてフレディ爺さんを残して、鉱山の坑道入り口からジェムズマインの街へ帰っていった。
ドワーフ戦士団は『絶対強くなってやる!』と言葉を残して帰ったのは、言うまでも無い。
「それじゃあ行こうかのう……アリン子の説明を聞いた感じじゃと……デカイ方は寝てるんだろう『定期的な眠り』じゃろうな……まぁ小さい方を刺激し無い様に、繋がる穴を埋めて穴を『転移』で鉱山外壁と入れ替えてさっさと終わりにしようじゃないか……それにしても爺使いが過ぎるぞまったく………」
「フレディさんの転移ってやっぱり『ポチ』ですか?」
僕がそう聞くと、『儂はあの猫とは契約はしておらん……食い物渡しているうちにヒントをくれたんじゃ……ああ見えてあの猫は優しいんじゃよ!かっかっか!』などと笑う。
たしかにアナベルとの一件を見て『言葉の割に実は優しい猫』だと僕も思っていた………
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