第520話「封印の破壊と地獄の様な光景」
「雨の神を化現させていただき!村民を代表して心より御礼申し上げます!!今日の事は未来永劫、代々村長へ引き継いで参ります!」
「「「ありがとうございました!雨神の神子ヒロ様!!」」」
舞姫やら水鏡村の住民やらエルフ達まで跪いている……
教祖の様に扱われ僕は困惑するが、彼らに話す言葉は決まっている。
「偶然ですから!水鏡村の上級精霊のお願いを聴いた時に、トラロック様のトーテム像を押し付けられただけです!もし感謝する気持ちがあるならば、この村を盛り立てて『水鏡村の奪還』を手伝って下さい!そうすれば水精霊も喜びます!それに此処がその拠点になる『街』になりますからね?」
「「「分かりました!!」」」
「エルフレア、エルオリアス!村の食材を集めに行くぞ!手伝ってくれ!!この村は森精霊の守る街ぞ!我々エルフは遂に手に入れた!大地を救う術を!森が!大地が!救われる様を見たのだ!!姫様達が目指していた『大地を救う術』だぞ!!」
エルデリアが興奮気味で各エルフの隊長へ話す……
系統種が違うから其れ程気に留めたりしないのでは?と思った僕が馬鹿だった……
「この周辺に城を築く許可をもらえぬものかな?どうだろう、エルフレア?太陽エルフの王から語りかけて貰えんか?」
「やってみる価値はあるな!エルオリアス月エルフの王への打診も頼む!分たれた姉妹が集う地か………心が熱くなるな!!」
「そんな事は後だ!エルオリアス、エルフレア!今はこの街を完成させて森を守り抜くのだ!忘れてはならんぞ!隣には………『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………』…………」
エルデリアの言葉がフラグになった訳ではない……単純に早まったのだろう……
水鏡村ダンジョンの侵食が思ったより『脅威』だったのだ。
村があった方角は『薔薇村』から1時間も離れているが、目視できるほど禍々しい黒い竜巻が天に登っていく……
『ゴキベキ………バキバキバキ………ミシ…………ガラガラ………ビシィ………ミシィ……メキメキ』
黒い渦が天を染めていくその真下にあたる場所はどうやら『飲み込まれている』様だ。
何処へかと言えば当然『水鏡村のあのダンジョン』だ……
「全員!水鏡村方面から避難!住民の確認を!!」
僕は咄嗟に反対方面に逃げる様に伝える。
『トレント!ドライアド!賢人の森へ結界を張るぞ!!』
『ハイ!グリーンナイト様!』
『グォォォォ!』
ドライアドは返事を返すがトレントは意思表示で大声で叫んだ……正直、樹木の化け物が叫ぶのだ怖くない方がおかしい。
『マステマ・ドロア・マレナ・レィ・フォレスト・サンクチュアリー』
『テラク・ロア・レィフィン・ルア・ホーリー・フィールド』
『グォォォォ……フォレスト・ウォーク!!』
新緑の騎士が『フォレスト・サンクチュアリー』と言った瞬間、賢人の森全域が光出して黒い竜巻を押し返す……直後にドライアドが使った『ホーリー・フィールド』で黒い竜巻が掻き消されていく……
トレントが唱えた『フォレスト・ウォーク』の効果は残念だが目視はできないが、効果がない事をするとも思えない……と思っていると周囲の樹木が蠢き絡まり合う……どうやらお互いを絡まさせ合ってより其々が巨大な木になるのだろう。
その様は非常に不思議な光景でしかない。
森精霊の尽力もあって、こちら側への被害は少なそうだが水鏡村の被害が恐ろしい。
ダンジョンに吸収された場所は『ソックリな偽物』ができると言う事だが、今それを確認に行けば危険だろう……見にいくのは最低でも1週間位は置いてからの方がいいだろう。
「うぉぉぉぉ!!トレント様!!な!なんと……『森渡り』の魔法をこの目で見れるとは…………」
「エルデリア!馬鹿かお前は?感動している場合ではないぞ!お前達の大切な森が飲まれておるんだぞ?正気になれ!!」
家ほどはあろう『巨大な動く樹木』が森から出て来たのは記憶に新しいが、その巨大な樹々はその幹に顔の様な樹洞がある。
木の樹洞だと思われるが見た感じは完全に顔だ……
と思ったらその木のうろが動いた……それは完全に人の様に表情を浮かべる。
トレント達は優しそうなお爺さんの様な樹洞を作り、全員に後ろに下がる様に枝を動かす。
「皆の衆!賢人様は後ろに下がれと言っている様じゃ!邪魔にならない様に下がるのじゃ!」
村長の言葉で全員が我に帰り、水鏡村方面とは反対側に集まると、トレント達は一斉に唸り出す……
『グォォォォ!!セイレイノモリ……ワレラニチカラヲ!!』
『『『ローズガーデン!!』』』
群れの中でお一番大きなトレントが片言で何かを言った後、トレント全員が『ローズガーデン』と言うと……僕の知っている薔薇迷宮が現れては消えていく。
どうやらトレントは異空間をわざと吸い込ませて、大地の被害を減らしている様だった。
しかしダンジョンの侵食が始まって間もない……
新緑の騎士もドライアドも文字通り死力を尽くしている………
だが侵食が始まって間もないのだ……ある程度の被害を覚悟しないとならない状況が刻一刻と近付いているのは、彼らが一番よく知っていただろう……
『バサバサ………バサバサ……』
突如周辺の森から一斉に鳥が飛び立って逃げていく………
『仕方ないね………坊や……森の其奴等を退かしな!!一度だけだ!コレはカップ麺の礼だよ!!』
非常に強い『念話』が僕の頭に響く………直後に天が割れ紅蓮の焔が水鏡村に降り注ぐ……
『ゴア・マギナ・デス・フレイム……アトミック・エクスプロージョン』
「………はぁ?原子爆発!?なんてもんを!…………全員!!ふせてーーーーーーー!!」
僕の一言を聞いた全員は血相欠いて伏せる僕の真似をする。
『ゴ!ズガガガン……………キーーーーーーーーン……………………………………』
途中から音が聞こえなくなった……そして顔を上げると黒い竜巻も何も無くなり見えない……そして『無音』の状態が続いた………
しかし赤黒い何かが水鏡村の空に浮かび、いく筋もの焔が雷と共に落ちている……
『ゴガガガン!!ガガーーン!!ゴォォォ…………キーーーーーーーーン』
聴力は少しすると回復するが、激しい破壊音のそれを聴くと耳鳴りがして一切何も聞こえなくなる……
『いいかい?コレはアンタ達が見たり聞いたりしてはならない力だ……見られちまうのは問題だがアンタがなんとかしな!!音は私が奪ってやる!アンタの世界で言う1分で全てが終わる……回収の力は全部私が奪ってやった……あとは任せたよ!坊や!………ゲホ……ガフ……』
アナベルの言う通り1分程度すると状況は一変する……あれだけ不利に見えた状況が嘘の様に収まったのだ。
しかしアナベルの言葉使いはあまりにも変だった……
僕は急いでテントに戻ろうとするが、感動した村人に止められる……完全に僕と勘違いした様だ。
「後でにしてください!今はそんな事はどうでもいいんです!!アナベルさんが!サナベルさんが!!」
僕の異変を見た伯爵達や下級ドライアドの森精霊たち……そしてエクシア迄もが僕と村人の間に割って入る……
急いでテントに入った後になりふり構わず真横に扉を作り『倉庫』のスキルで中に入ると……アナベルが居た。
「馬鹿やっちまったね!私としたことが坊やに肩入れしちまうなんて……焼きがまわったもんだ………ガフ………気にすんじゃないよ!私は死ねない身体だ……痛いけどね!悪いと思ったらニホンシュ多めにくれても良いんだよ?」
アナベルは笑ってみせるが、その身体は血塗れだった………
僕はアナベルに駆け寄り抱きしめて何故か泣いていた………
「馬鹿だねぇ…………何泣いてるんだい?ハセガワとは違って私は死なないんだよ!………だから泣くのはおよし!」
そう言って怒りながら笑ったアナベルの顔は、何処となく僕の母親に似ていた…………
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