第519話「雨を司るトラロックの神の力と森の信者」



『ヒロよ!まさかトラロック様と契約を結んだのか!?お主は……一体なんなのだ?……あ!!あああ!!申し訳ございません!トラロック様!!我は森を守る『剣』新緑の騎士ことグリーンナイトで御座います!この森を護るのが我が役目なれば、森への恵みをお願いしたく馳せ参じました!!』



「あ!あれは!!新緑の騎士様だ!!」



「「「新緑の騎士様!我らこの森を守り続けてまいりましたぁ!」」」



 賢人こと新緑の騎士は僕とトラロックが同一体なのを見抜いたが、僕のつもりで話したので謝罪するのに忙しそうだ。


 しかし過剰反応するのは他にも居た。



「新緑の騎士様!?新緑の騎士様ですと!!」



 エルデリアと部下達は馬から飛び降りると風の様に走り、新緑の騎士のそばに駆け寄ると跪き頭を下げる。




「我は、主フォックス・エルドリアン・ディープ・フォレスト国王陛下に仕える大地のエルフ、エルデリアと申します!陛下に変わり発言させていただきます。新緑の騎士様の御姿をまさか見ることが出来るとは!!我ら森のエルフは新緑の騎士様の剣と盾になります故!何時でもお呼び下さいませ!!」



 僕の念話と新緑の騎士の念話を聞いたユイは、慌ててテントから出た瞬間意識を集中し新緑の騎士が居る場所を探す。


 トラロックの所に向かいたかったのだが、新緑の騎士がいる手前自分などが行く事はできない……と判断したからだ。


 エルデリアの様に走るが、今まで濡れていなかったはずの濡れた地面で見事にすっ転ぶ……



 それを見た僕は、偶然そばに居たのでユイが泥だらけにならない様に即座に受け止める。



 だが僕が急に動いたことで新緑の騎士が慌てふためき、それを見たエルデリアが無理な体勢で振り返り、濡れた地面で足を滑らせすっ転ぶ。



 僕と新緑の騎士が慌てふためいた事で、ミセラ達がびっくりしてお互いぶつかり合いすっ転んだ……



「きゃぁぁ……」



『ドテン』



「舞姫様!?わっぷ……うみゃー!!カーデルあびない!!あぶぶ………」


「ちょっと!ミミ!そこに居たら……わ!っちゃ!!っちゃーー!!」



『ドシン』



「あ!ああ…………あああ………………皆さん……ご御免なさい………」



『ユイさん大丈夫?足捻ってない?』



「はい大丈夫です!ヒロさんありがとう…………!?ひぃ!?………ふわわわわあぁぁぁぁ!?……ト……トラロック…さ……『クテ』……」



 それを見たユイの第一声は『御免なさい』になっていたが、僕が『雨と雷の神・トラロック』が化現した姿である事を認識したユイはびっくりした余り気絶してしまった……



『エルデリアさん!ユイさん気絶した!早くテントへ!』



 すっ転んで泥だらけのエルデリアに、ユイを任せられないモアとスゥは代わりに連れて行ってくれた。



「多分……ヒロよね?そのなんと言うか……想定の斜め上を行く人ね?」


「私も流石にモアと同じ意見だわ……神様と契約する?普通………出来ないわよ?恐れ多くて!」



 二人の目はなぜか僕を憐んでいた………



 それからしばらく周りは騒然としたが、新緑の騎士とドリアードは『新緑の祝福』というスキルを使う。


 村周辺の木々が次々に枝を伸ばし、初夏を思わせる艶やかな葉に覆われていく。



『我々森の精霊はトラロック様のより頂いた力で、この地に多くの幸を齎そう!人族よ我々と共に豊かで争いのない平和な時を共に!』



 新緑の騎士がそう言うと、村に新しく植えていた樹木がいっせいに成長を始めて、すぐにも収穫できるほどの果実を実らせる……


 森の精霊と言うだけあって能力はチートに近いが、どうやら効果自体は限定された空間のみの様だ。



「おおお!こんなにも精霊様の力は凄いとは……作物など植えて間もないと言うのに!もう収穫できる程にまで!果樹園など……数年も経ったかの様な立派な樹々に………感謝致します!恵みの神トラロック様!!新緑の騎士様に森の守り人ドライアド様!」



『私達こそ感謝致します!失って久しい力を、ようやく取り戻すことが出来ました。人の子よ……ありがとう!』



 ドライアドの中でも、ひときわ人間に近い状態の個体が村長に歩み寄り念話で語る……



『ドライアドの上級個体も度重なる戦乱で、多くこの世を離れました。しかしこの恵みの雨で多くの個体が『存在進化』できる様になります。それに、この土地にはこの先千年は枯れることの無い『大地の力』が蓄えられました。それが森だけでなく我々も救ってくださるのです』



 平伏す村長の手を取って起き上がらせたドライアドは、長老の前で不思議な色合いの大きな一本の巨木に姿を変える。



『その力を持つ神を……貴方達は大地を潤す力を持つトラロック様を化現させてくれました。我々ドライアドはこの地を守る人族へ森の恵みを約束しましょう。そして森の守護者であるトレントは貴方達の住むこの地を如何なる外敵からも守護するでしょう!共に安寧なる千年を!』



「「「おおおお!」」」



「精霊の霊樹だ!この村に偉大なる森精霊の霊樹がぁぁ!!我々の村に………お越し頂き言葉もございません!我々人族は共に歩むことをお約束させて頂きますぞ!!ドライアド様!」



 せっかくドライアドの手助けで立ったのに、また座り込んで泣き出す村長だった。


 しかし、やらかす人間はどこにでも居る……


 そのやらかす人間とは……エクシアだ!!



「なぁ!ドライアドさん、悪いんだけどさ……霊樹分けてくれよ!アタイ達武器作って、名前持ちのホブゴブリンと戦わないとならないんだ!」



 その言葉に慌てる村長だったが、ホブゴブリンと聞いたドライアドは念話を送る。



『あの忌まわしき生き物の『名前付き』と言いましたか!?………あの悪鬼どもは、かの大戦で我等ドライアドを『焚き木』に使った忌まわしき種族です!必ず根絶やしにして下さいまし!!』



『ビキビキ………ベキ………バキ……パキッ………バキバキ』


『ズドォォン』


『バキバキ……ガラン……ガラン』



 まるで古い枝を自分で剪定するかの様に、表皮や枝を落とすドライアドの霊樹。


 落ちて来た太い枝や表皮は、ロズの体躯程はあるだろう。



『村長よ、私は定期的に姿を変えます。その際に出る表皮や枝はそこの冒険者へお渡しくださいませ!そして我々眷属を薪扱いした悪鬼に、思い知らせてやるのです!そこの人の子よ、それで足らなければ此処の村の村長へ言いなさい……定期的に追加の素材を貰える事でしょう。代わりに……この地より動けぬ我々の代わりにあの悪鬼共に制裁を!』



 千年の安寧を……と言っていた気がするが、ドライアドさんは意外と武闘派なのかもしれない。


 動けない理由がどの様な理由ワケか聞かないと分からないが、ドライアドはある一定の場所からは離れられない様だ。



 そして今までなかった場所に、巨木が出来ているので多分それが本体なのだろう。



 村を覆う樹々の中にも見慣れない巨木がそびえ立っているので、其れ等が彼女の言う他の若いドライアドなのだろう。


 村民もそれに気がついたのか、指差しながら興奮が抑えきれず飛び上がって喜んでいた。



『ヒロよ!そろそろ化現の限界である!……この地はドライアドが言った通り、千年は梃入れせんでも、大地が蓄えた力だけでどうにかなる。まぁ千年はあっという間だがな……それに我はまた力を貯めておくから安心せよ!!では嫁が首を長くして待っているので帰るぞ!さらばだ!!』



 トラロックは一方的に化現を解いて帰っていく……


 帰り際に『人族の信者がガッポガッポだ!!嫁が喜ぶぞ!!』と言っていたのは、化現を解いた後なので周りには聞こえてなかったのは不幸中の幸いだろう。



 僕には今回化現した理由が分かってしまったが………神様も結局は信者が欲しい様だ。

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