第518話「トラロックと恵みの雨」



「なぁヒロの旦那!あそこの加工済みの木材は使って良いってことだよな?一応あそこにあるの数えたが、それだけじゃ足らないし、乾燥させてたら冬なんか終わっちまう!悪いけどあの建材2倍に増やしてくれないかな?最低それだけあれば大幅に短縮できるからさ!」



「親父!知り合いの大工呼べよ!アタイ達だけじゃー間にあわねぇよ?あとで他の村とか王都周辺から他の奴が来るって言ってもさ……ツギテの仕組みを一から説明してたらよ!そうだろう?」



「マホガニー大丈夫だ!出る前に声かけてある!抜け目なくな。おい、ラワン!他の大工はいつ来るって言ってたんだ?」



 僕抜きで話が進んでいくので、僕は棟梁ゴウバンの言った様に木材加工を始める……



 周りの村民はユイナとソウマに連れられて森の食材を集めに向かう準備を始め、エルフ達と輝きの旋風は村の食材を増やす為にウルフを探しにいく様だ。



「あ!村の外に出る人たちは絶対に『水鏡村』方面には行かないでください!絶対です!ダンジョンが活性化するのは今日か明日かなので近づくと飲まれて出られなくなりますから!」



 そう言うとルモーラが


「妖精村の周辺で食材集めれば?って言うかさ、私等妖精も此処に住んで良い?あの畑の綿菓子草そろそろ蜜が取れるんだよね!」



 ルモーラの言葉で僕は畑を見ると色鮮やかなワタの花が咲き乱れていた……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「な!?こんな短期間に収穫できるわけないだろう?ルモーラ!!何をしたんだ?」



「ちょ!ちょっと失礼ね?私じゃないわよ!!エイミィとローリィよ。森精霊の慈愛の事忘れたの?彼女達が村の為に何かしたいってやってたんだから!全くもう!私じゃないわよ私は……花の蜜を盗んで食べてたくらいよ!あ………」



 僕はルモーラに謝ったが許してもらえず、チョコを一個所望されたので謝罪の証に渡すことになった。



「森っこちょっと良いかな?『森精霊の慈愛』のスキルって植物育成に使えるのは分かったけど……此処まで急激になるの?」



 僕は森っこに質問すると、木材片を使って小さい体を作って化現してくれた。


 『森精霊の祭壇』も早く探さないと、森っこに負担ばかりかけてしまう……



『はい!森精霊の慈愛スキルであれば、大地の力を使い急激に育たせる事はできます。ですが余りやり過ぎると大地が枯れてしまうので注意が必要ですね!彼女達二人は森精霊の契約をしてないので、注意をしておく方がいいですね……』



 念話はルモーラにも聞こえていた様で、『私から言っておくわ!』と言ってくれた。



「一応トラロックが大地へ効果がある『恵みの雨』を使える様だからあとで大地を回復させておくよ!」



『後でだと?今やれば良いではないか!我を化現させ人へ神の偉大さを広めよ!!我が契約者よ!!』



 ちゃっかりトラロックは話を聴いていた様で『化現させよー!化現させよー!化現させよー!』と煩いので力を使ってみることにした。



「なんて言えば化現出来るんですかね?トラロック様は………」



『古代神の一柱なる雨と雷の神よ!人々に恵みの雨を!トラロック!!と言えば我が降臨の儀が完成するぞ!さぁ!我が契約者よ唱えるが良い!』



 僕は正直めんどくさいなぁと思いつつ、神様のうるさい直接脳攻撃をやめさせる為に化現させることにした。



『古代神の一柱なる雨と雷の神よ!人々に恵みの雨を!トラロック!!』



「どうしたのですか?ヒロ男爵様?何か言った…………な!何を今度は……うげぇぇぇぇぇ!!」



 村長の言葉が酷かった……



 僕が降臨の儀をすると、偶然ザムド伯爵とウィンディア伯爵にギルマスのテカーリンそしてエクシアがテントから出てきた……



『ゴゴゴゴゴゴ………ゴロローーーン!!ピカピカ………ゴロロロ…………ゴロローーーン!!』



 空が急激に曇り雷雲が空に渦巻く………



 そして僕は青白く発光し始めて『雷を纏う巨大な青い大蛇』に姿をかえた……


 周りを見回すと無村にいる人間がゴミの様だ……じゃ無かった……びっくりして見上げている……



『トラロック!!デカ過ぎる……村が壊れる!!それに雷!人が!危険が危ない!!』



『なんだと?これでもかなり小さくしたのだぞ?お前の村を壊さないように!!それに雷だと?こんなの光で誤魔化しているだけだ!雷なわけなかろう!皆死んでしまうわ!!まぁお前がそこまで言うならば、信者の為にも仕方ない人形ヒトガタになるか……だが威厳が……』



『トラロック!!いいから早く!!』



 僕の怒った口調の念話で仕方なく小さくなるトラロックだったが、それでもやっぱり大きくサイズは3メートルほどの高さだった。



「ヒロ男爵は………神様なのか?」



 そんな言葉を言ったのはザムド伯爵だったが、僕は即否定をする。



『いやいや……契約したトラロックっていう神様がですね、恵みの雨を村に降らせるって言ったので……仕方なく……』



 トラロックを化現させていたので、会話は全て『念話』になった。


 僕の言葉は一斉に村にいる人間に直接届く……



 道具屋や宿屋、飯屋から一斉の飛び出てくる……マッコリーニにフラッペそしてハリスコまでも道具屋からすっ飛んでくる……




「恵みの雨だぁぁ!!皆の衆神様の恵みを!!この村が得られたのじゃぁぁ!!」



 村長の発言で一瞬にして村が大騒ぎになる……



 舞姫のミセラまでが踊る準備を始める……


 他の巫女が居ないのでミセラはミミとカーデルを大抜擢して、引退したオババ様も無理矢理引っ張り出され踊るように舞姫特権で言われている。


 ミセラの目はマジで怖かった……踊りだけに人生を捧げているのだ……雨の神と言えば間違いなく『水精霊』が関わるのだから踊らないわけにはいかないのだろう。


 ミミの母親も無理矢理ミセラに連れて行かれている……過去に巫女候補だったのだろうか……



『それでは人間達よ!雨と雷の神であるトラロックが人族の為に『恵みの雨』を授けよう!!』



 トラロックは僕の口で勝手に念話を送る……マジでやめてほしい……




『古よりこの世界を守る水精霊と大地に祝福を!!恵みの雨よ大地を潤せ!!』



 本当に僕の口で念話を送るのはやめて欲しい………後で色々聞かれて、言われて、答えるのは『僕』だから!



 そう思っていると、青白く輝く雨雲が村全体を覆い輝く雨が降ってくる……



 ミセラの合図で水鏡村の全員が歌い楽器を鳴らす。


 それに合わせてミセラを中央に据えて、周りにミミとカーデルそしてオババ様にミミの母親が踊り狂う。


 それを見ていたベグラー宮司とミミの父親のムムーラは、抱き合って咽び泣き喜んでいる。



 男同士抱き合って泣いているのは、非常に見ていて困る……


 それに宮司は仮にもミミに怒っていた人で、抱き合っているにはその父親だ……まぁ仲直りでもしたのだろうが……



 しかし、現状は酷くなる一方だ……


 周辺の森からはフェアリーがすっ飛んできて、森精霊やドライアドやトレントも集まってくる……


 ドライアドやトレントは魔物の類では?と思うが……薔薇村の民は怖がるどころか喜んでいる。



 森精霊達は恵みの雨を浴びたいが為に森から出てきて、ミセラの踊りに合わせて踊りに加わる……


 そして風精霊もその様を見て踊りに加わり風を起こす。


 すると、より遠くに雨が散布される為もっと多くの精霊や森の生き物が村に集まってきた……



「も!森の精霊様だ!!」


「風の精霊様も踊ってます!!」


「賢人様だ!!ドライアド様もいるぞ!!」



 その様に非常に感動したのは、薔薇村の住民だった。


 しかし村人の瞳は、見てはいけないものを見てしまう……

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