第521話「深い傷を負うアナベルと憤るポチ」
「でも………でも痛くて辛いのは見ててわかります!!なんで…………」
「予想よりあそこのヤツが多くチカラを蓄えてやがったのさ!私の落ち度だ……このままだったらアンタ達がダンジョンに飲まれちまう……そうしたら酒がもらえいないだろう?」
アナベルの憎まれ口と強がりは生まれつきだろう………何を言ってもはぐらかそうとする。
しかし彼女にはポーションは効かない……自作ポーションを試したが効果は無く、高級ポーションを試そうとしたら止められた……
彼女の身体は血塗れだったが、暫くすると身体が霞んでいき元の体に戻る……
「どうだい?言った通りだろう?」
「でも痛いんですよね?苦しいんですよね?………それなのに………」
「マッタク……私は死ねないんだよ!!だから怪我しても元通りさ!この通りね!だから………『常に痛みがあるんですよ!へそ曲がりアナベルは言いませんからあっしが言いますよ!!』………」
声の主は猫のポチだった………
「アンタ!いつに間に!!……」
「納品に来たら……なんすか?この様は!誰にも与しないアナベルの姿は何処に行ったんですかね!?」
「う!うるさいね!!この馬鹿猫!三味線のするよ?黙っておいで!!」
「コレが今回の納品物です!!テントは奥に置いときますね!それで?ウイスキーと日本酒は?1ケース渡しとけばいいですか?『成功報酬』なんでしょう?」
関西弁など一切話さない猫のポチは……若干不機嫌そうだ。
「マッタク………学びませんね!あの時もそうでしたよね?何処にいくかわからないって言ったのに………」
「ヤメナ!馬鹿猫!その話をするなら『アンタでも殺すよ!!』…………」
初めてアナベルの殺気を感じた……今まで感じた様々な殺気など子供の遊びだと思える程に、濃密で肌に突き刺す様な強烈な殺気で、此処になどこれ以上絶対に居たくないと感じるものだった……僕は胃が痙攣したかと思うと途端に五感が麻痺して動けなくなる……
「アナベルはん!ヤメナはれ!ヒロ坊が辛そうでっせ!!」
「あ!!だから!言ったこっちゃない!マッタク……アンタは早く帰っておけば………」
僕は薄ら笑いを浮かべ……
「ポ……ポチさん!成功報酬の日本酒1ケースとウイスキー1ケースをアナベルさんに!!久々に母さんに本気で怒られた感じがしましたよ!!」
「『!?』……は?………ははははは………聞いたかい?ポチ!!母さんに怒られただってさ!私の殺気が『母さんに怒られた』程度だってさ!?はははははは!!」
何故か泣き出すアナベルだったが、ポチはウイスキーを取り出して投げつける。
「おどれはバカか?あんな殺気喰らってあんな風に言えるかい!『わざと』やろ!あんさんのあの頭のおかしい娘じゃあるまいし!!さっさと酒飲んで二日酔いになって死んじまえ!わての上客になんてことすんだまったく!やってられませんわ!」
僕はポチとアナベルの会話に、此処にいる3人以外の誰かを感じ取ったが、誰かを聞けば今までの関係性が完全に壊れる気がした。
だから聞く事はできなかったが、アナベルはそれがあるから誰も死なせたく無く、ポチはアナベルが壊れない様に此処にいると言う事は容易に想像がついた。
「ポチさん!報酬の猫缶は一箱此処の倉庫で預かりで………」
「なんでや!?なんでやぁぁぁ!!わて何かミスしましたか?」
「あ……いや……自宅に持って帰ったら『自分で独占して食べれない』と思ったから………」
『ヒシ!』
「ヒロさん!………好き!!大好き!!むっちゃ好き!」
「結構です!猫も猫じゃ無くても……間に合ってます!!というかポチさんは絶対に嫌です!」
アナベルのために、此処で食べて……と言う前に抱きつかれて告白された。
雄猫に告白されても嬉しくなどない。
ポチは箱を開けて『猫缶』を取り出し貪り食いはじめる……
「この濃厚な味!わてら猫用の飯なんか普通無いですよ!?ヒロさんの故郷!!あそこはわてらの保養地確定っす!可愛い猫もたくさん居るんで!!息子の嫁探しが捗りますわ!」
「やめてくださいよ!二足歩行の猫が日本歩き回ったら……それこそ異世界バレるじゃ無いですか!」
「大丈夫!大丈夫!脳みそちょいちょい弄れば忘れるでしょ!………はぁぁ!うまぁぁい……ナンですか!?クッチャクッチャ………ジュルルル………このしっとり感!極上マグロ!!神食材ですよ!!クッチャクッチャ………ジュルルル………」
「なんか……アンタが食っているの見ると食欲がなくなるね……決して食い方は汚く無いのに……汚く感じる『音』が嫌だねぇ!」
「アナベルさんに激しく同意ですね!なんでしょう……その様は優雅なのに……音が非常に『汚い』ですよね!!神がかった汚い食べ方です!!」
「ちょっと!!アンタらわてに喧嘩売ってんのか?いいっすよ!……買いませんよ!買うと思ったでしょう!?んなわけないでしょう!危険人物なんですからね!アンタ方………完全にヤバイヤツですから!……ふぅ……ご馳走様でした!さぁ!この2箱を嫁さんと子供達の持って帰らんと!また注文お待ちしてます!ほな!さいなら!」
「さっさと帰りな!じゃないと三味線にしちまうよ!」
「ああ!こわ!!」
『ギィィィーーー………バタン』
そう言ってポチは帰っていった……
よく考えるとポチは、あのアナベルが発していた殺気を物ともしなかった……危険な猫なのは確かな様だ。
「私も今日は疲れたから酒飲んで寝るよ!コレ悪いね!まぁいい仕事したんだ!報酬でもいいだろう?よく考えな!アンタの領民の村人が死ぬよりいいだろう?おっと!そんな怖い顔されると困っちまうね!じゃあ退散するよ!!……日本酒……うまいかねぇ!!楽しみだ!!」
アナベルも子供の様な様を見せて帰っていく……
「アナベルさん!無茶しないでくださいね!!」
「アンタに心配されたらお仕舞いだよ!まったく………ああ!分かったよ!そんな顔せんでおくれ!!酒が不味くなっちまう!じゃあね!アンタもがんばんな!」
『バタン』
僕は猫用の餌でポチを釣って、情報をダイレクトに聞き出そうと心に決めてから倉庫を出た……
「おい!大丈夫だったのかい?アンタがあんな風になる事は見たことがなかったよ!アナベルってのは……まさかアタイ達を庇って…………」
周りを見回すと、伯爵2人に人形になった霊樹のドライアドと新緑の騎士にエクシア、ギルマスが集まっていた。
僕は事情を話すと全員が落ち着いた様だが、森精霊達だけはその言葉を信じられない様な素振りをする。
『神………名無しの?』
『辞めぬか!我々精霊にその権限はない。それどころか詮索すれば我々は二度と精霊には戻れぬ!』
ドライアドのセリフも意味深だったが、それ以上に問題発言をしたのは新緑の騎士だった。
この世界の精霊はあるがままを受け入れるのだ『言われたもの』は聞くが、自分から『興味本位で聞いてはならない』ようだ。
だからこそ僕は、『わざと聞こえる様』に伯爵達へ説明する。
アナベルが水郷村地下のダンジョンの吸収効果を最低限の被害で防いだ事、そして血塗れ状態だった事と無事回復した様に見えた事を……
「なんと……アナベル様は……あの剣聖では無いのだな……その様子だと奥様の魔術師様だな……この世界で初代の聖女であり、同時に偉大な魔術師……しかし名前は語られず剣聖様が亡くなられてから代わりに『聖女アナベル』の名を持ったお方だ……」
『『聖女………アナベル………』』
『我々は忘れませぬ!同族の命の多くを助けて頂いた今日を………』
『過去の聖女にその様な境遇を持っていた者がいらっしゃるとは……私達同様この地を守る者なのですね……アナベル様は……』
森精霊達はしんみりと話す……
しかしそのアナベルは、日本酒をカブ飲みして早々に酔っ払って『頭が痛い』と念話で言っている……
相当酒が弱いのに酒が好きな様だ。
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