第513話「長蛇で待機!?異世界製品大人気!」


「僕が皆さんのために『色々準備』をしているのに!『街の名称』ですか?今はやる事があるでしょう?喧嘩する暇あったら全員幸せになる仕組みづくりに協力してくださいよ!まったく!!」


 僕は村民を叱り飛ばす。


 若造に叱り飛ばされる村民は全員黙ってしまった……まぁ領主に怒られれば仕方ないかもしれない。



 僕は仕方ないので、広場の一部を借りて喧嘩していた住民を集めて仕事を与える。


 『テント』の貸与に伴い、自分サイズに合った『断熱マット』のカッティングだ。



「何ですか……この変な塊は?」



「え?テントですよ?5人様の?水鏡村は家族が多いので基本5人様を用意しました。あとこの丸い束は断熱マットって言います。地面に引いて冷気や熱を遮断するのに使えます。あとは弾力があるので上で寝ても痛くありません……まぁ地面で寝るよりはマシなだけですけど!」



 僕はテントを広げてから、ひとまず断熱マットを適度な長さに切ってテント内に敷き詰める。



「冬用では無いので雪などには対応してませんが、日差しや雨はどうにかなります。虫が入らない様にしつつ風は入るメッシュ加工なので息苦しくは無いはずです」



 僕はそう言って、そばに居た水鏡村の住民を中に入る様に勧める。



「すごい!地面に寝転んでいるのに……全く痛く無い!?それにこのテント……道具屋で売っている物とは全く違う!大きさが尋常じゃなく大きい上凄い丈夫だ!これって……布じゃ無いのか?この周りのは!?」



 やっちまった……見た感じ布だったが、実際に手に入れたら布では無かった。


 そして呼び込んだ住民は観察眼に優れていて、内側のメッシュ生地をガン見している。


 このテントに使われている素材は、この世界には無い物だった……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ちょっと!さっきから並んでいるんだから!このテントは私のよ!」


「並んでただと?ふざけるな!早い者勝ちだ!!」



「喧嘩しない様に!!水鏡村の住民分はまだありますから……それにちゃんと並んで順番を待ってください!早い者勝ちと言った覚えはないですよ!マッタク……何でそんなに喧嘩腰なんですか……これから同じ街の住民になるんですから!」



「……すいません……こんな凄い物を初めて見たので……」



 僕はひとまず水鏡村の住民用に買ったテントを配布する。


 配布と言っても仕組みが分からない住民は組み立てできない……と言っても、運良くワンタッチ型というテントを買ったので細かい仕組みはない。



 僕は不器用なので、意外と設置は面倒だったが文句は言ってられない。


 少しでも時間を置くと、貰えないと勘違いして住民が取り合い喧嘩を始めるからだ。



 一つ設置しては横にずれて、間を開けてまた設置する……ユイナとソウマも見かねて手伝ってくれはじめた。



 そしてミカとカナミそれにアーチが『キャンプした時の経験用に設置を覚えたい』と言って手伝ってくれた。



 広場を埋め尽くすテントだったが、何故か家がある薔薇村の住民も欲しがりカオスな状態になる。



 家よりテントがいいとか……もはや意味がわからない……



 ただ、あげたくても数が無いので、どうしてもとなったら交代で使ってもらう感じになるだろう。



「ヒロさん!ちょっといいかな?アタイ達の泊まる場所なんだけど?どうしよう?」



 住民分のテントを設置し終わるタイミングで、マホガニーが僕に相談をして来た。



「何時迄の契約なんですか?まさか……住民の住宅を全部建て終わるまでですか?」



「アタイに聞かれてもねぇ……でも……一応そう言う話なんだけどね?ザムド伯爵とウィンディア伯爵には何も聞いてない?」



「ヒロ男爵様!!俺達はこのテントを報酬で欲しいんだが!!駄目か??これが高いのは分かっているんだが!コレがあれば他の遠征でも役に立つんだ!!家が全部建った後こんなに必要なくなるじゃろう?良ければ考えておいてくれ!」



 僕は空いているスペースに予備で買っておいた3個のテントを設置する。



「外のテントで良ければ使ってください!でも……寝辛いですよ?いくらクッション素材使ってても、外には変わりないしそもそもテントですしね?」



「何を言ってるんじゃ?ヒロ男爵様……風を防いだりできる上に雨も入らない作りで、その上虫も入ってこないじゃないか!普通のテントでは考えられんぞ?それに……うん?……この白いギザギザはなんだ?動くぞ?」



「それを下ろすと閉まるんですよ……内側から閉められるので多少風強くても中はどうにかなる仕組みです」



 何故か渡した筈の水鏡村の住民までも、数人がテントに入って来て一緒に確認する。



「棟梁のゴウバンさんとツーバイさん、あとラジアタさん。もし欲しければこのテントで良ければ報酬の一部として貰っても良いですよ?これは予備で用意した3個ですから……金額もそこまで高く無いですし。この村でやる作業量に比べたら……残念ながら雪には対応してないので、雪が降る様な真冬は使えませんが……」



 そう話しているとザムド伯爵とウィンディア伯爵が『くそ!完全に出遅れたな……貰い損ねた!!』と口に出して早足で近づいて来た。


 そんなに欲しければ次の『ポチのオーダー』に入れておくのだが……


 よく考えれば、冬遠征用に耐水耐雪用テントを用意する必要があるのだ、皆の事を優先して万が一の冬季遠征を忘れていた。



 王都には今でもトンネルアントの巣穴のダンジョンがあるのだ。


 前みたいに中から魔物が大量に出てきたら、間違いなく行かなければならない……それが雪が積もる冬でもだ。




「すまぬが其方らには悪いがヒロを借りるぞ?此処からは『貴族の会話』であり領民には聞かせられぬ話だからな!!」



 そう言って僕と伯爵達はテントの一室へ向かう。


 村民は自分のテントの確認と、ユイナとソウマ達は村民達の夕飯の準備だ。




「ところでヒロ……エクシアと話したんだが……鉱山逃げ込んだ『ホブゴブリン』の事だが、今ジェムズマインでは銀級冒険者を募集しているんだが……ファイアフォックスに輝きの旋風そして、ギルド・癒しの剣のジャスティン達に頼もうと思っておる……ヒロは何か良い案はあるか?」



「因みに鉱山は銀級からって言うのは変わらないんですよね?」



「うむ……あそこは魔物の脅威度が極端に変わる階層があるのだ。それが理由で銅級資格冒険者を送り込むことができん……何故だ?」



 僕は冒険者が駄目でも騎士団が潜るのを平気としている理由を聞くと、騎士団は階層制圧するのを目的にして無く、スタンピードに備えて魔物を間引いて居るだけと説明を受けた……それも主に低層階のみだと言う。



 だから騎士団が行けない中層から下層は魔物が増える一方だと言う。


 しかしアナベルが注意したのは『水鏡村』のダンジョンであって、鉱山にあるダンジョンではない。


 前に聞いた『アイアンガッズの地下帝国』から続く『宝石窟のダンジョン』此処までは情報を手に入れているが、ホブゴブリンが向かった場所がその『地下帝国跡』ならば、言葉の通りであればダンジョンではないのでは?と思ったら状況は悪い方に転がっていた。



 ダンジョンが活性化したので、僕達は急いで王都から帰ってきたのだ。


 そして、すったもんだがあって僕は『銀級冒険者』になったが、その理由の一つにダンジョン踏破のために『戦力強化』の必要があったからだ。


 そして問題は銀級冒険者の天翼の獅子が現状再起不能と言うことだ。


 この時点で戦力が遥かに低くなる。


 1パーティが有ると無いのでは、全く話が変わってくる。



 そして予定外の問題は『アイアンガッズの地下帝国』だった。

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