第514話「アイアンガッズの地下帝国」


 伯爵の話ではどうやら最悪な状況になったらしい。



 本来ダンジョンは地下に伸びるが、稀に王都の様な状態にもなるのは記憶に新しい。


 だが今回は水鏡村の事例を加えた形になっていた。


 ダンジョンより上の『アイアンガッズの地下帝国』を取り込んだ。



 問題はそれを取り込んでどうなったかと言うと……それがなんと上層階になったそうなのだ。


 騎士団達がそれを見分けた方法では簡単だった……



 前日まで無かった『遺骸の消滅』と『討伐部位や宝箱』のドロップだ。


 問題はそれに伴い、上層階のゴブリン達が『アイアンガッズの地下帝国』の魔物に置き換わったのだ。



 この時点で騎士団は遠征を取りやめ、踵を返して街へ帰って報告をした。


 それが決定打になって伯爵達は即座に会議を行ったところに、伝書クルッポーが来たそうだ。



「……それにしても困ったことになった……鉱山だけでなく水鏡村にも問題とは……何度もミク殿のクルッポーが来てくれて助かった……随時状況が分かったからな!それも移動途中に我々と理解して手紙を届ける事が出来るなど……ミク殿の今後の重要性を本気で考えねばならん!」



「それはそうと……あの水鏡村のダンジョンは踏破できそうなのか?」



「今は無理です……実は真紅の魔女アナベルさんに言われました……『挑めば間違いなく死ぬと……それは例外なく間違いない『死』だそうです……あのダンジョンは平均レベル58の3連合でも余裕で負けるそうです……」



「な!なんだと!?そんな高レベル冒険者など……今まで数える程度だぞ!ま!まさか!!剣神アナベル殿のパーティー『精霊の剣』の事か!?ひろ殿が言っているのは!?だがアナベル殿は……男だったはず魔女なはずは……」



 僕は詳しい話は言えない……と言ってから、それ以上は想像に任せますと言っておくことにした。



「ところで……『ドワーフ』について聞いたことはありませんか?」



「ドワーフとな?『アイアンガッズの地下帝国』は、もともとドワーフの鉱夫達が作り上げた鉱山内部の都市だ。我々はそれをそれをドワーフの地下都市と呼んだが、オークが奪い『オークの地下帝国』にしたのだ……」



「オークがですか?」



「ああ!あのオークだ!!だが……ある時を境にオークは一夜にして鉱山を捨てて逃げた……人族に目もくれず、町や村を一切襲わず鉱山を手放し逃げたのだ……」



 なんか……とある物語で読んだ記憶があったのでそれを話す……



「地下に悪魔?そんな化け物がいたら既に我々は滅びているだろう。鉱山からは目と鼻の先だぞ?ジェムズマインは?」



 たしかに!と思ったが、ウチにも悪魔っ子がいるのでそんなに珍しい存在ではないのでは?と思ってしまう。



 現に朝に『悪魔っ子』はご飯をしれっと食べに来る。


 夜は大親友の『マリン』のいる孤児院にお泊まり会をしに向かう……と言うより朝食の時以外最近見かけない。



 最近の悪魔っ子との会話は、朝の僅かな御飯時だけだ……会話はほぼマリンちゃんだ。



 今日の会話にはかなりの問題があったが……『いずれ冒険者にでもなりたいのだろう……』と思う事にした朝だった……



「マリンちゃんにファイアストーム教えようとしたんだけど、MPが足らないから『フレア・サークル』にしたの!最近マリンちゃん強くなったんだよ!もう変な奴には絶対負けないんだから!」



 それは負けないだろう……名前からして危険だ……


 マリンちゃんは次の悪魔になったりしないか……ちょっと心配になる。



 ザムド伯爵は悪魔の話よりもドワーフの話が気になった様で、ドワーフについての話を続ける……



「それはそうと、ドワーフの地下都市がダンジョンに飲まれた事を彼等の王国へ知らせに使者を出したが、返事が来るのは早くても6日後だろう……王都並みに遠い場所だからなドワーフ領は……」



「国交があるんですか?」



「正確に言うと国交ではないな……ジェムズマインで取れる『鉱石』欲しさに続けているだけだからな。王国とは敵対関係にはないが相互不可侵を結んでいるだけだな……まぁ理由は我々人族にあるがな……過去の過ちだ」



 ザムド伯爵が教えてくれたのは、ドワーフと人族は互いに上手くやっていた。


 だが悪辣貴族が裏切り行為をしたそうだ。



 ジェムズマインを共同で開発していく話を人間が持ちかけ、ドワーフはそれを了承した。


 ドワーフは地下に都市を作りそこで、金属生産を行い人族に提供した。


 此処までは至って普通だったが、人族の悪辣貴族はドワーフの取り分が気に食わなかった。



 事ある毎に生産からの互いに取り分について『話し合い』が持たれた。


 だがドワーフ達はそれにも応じた。


 理由は『鉱山の仕事』『人族の飯』『村民の温かい出迎え』これに勝るものはなかったからだ。



 当時鉱山付近には割と大きな『村』があったそうだ。


 ドワーフはそこにも良く遊びに行ったそうだ。


 自分達の取り分の良質な鉄を使い、村人の農具や調理器具を作って無償で配っていたそうだ。



 当然かわりに村民は暖かく出迎え、何かがあればツルハシを武器を持ち替えて駆けつけていた。



 しかしある日、そのドワーフ達にオークの襲撃があった。


 オークも鉱山に穴蔵を作り鉄器の製造をする部族がいる。



 ドワーフ達は運悪くそれと出くわしてしまった。


 地下都市を拡張中にオークと鉢合わせして戦闘になったのだ。



 ドワーフの鉱夫達に比べて、向こうはかなりの数が居た。



 問題はドワーフ側は『鉱夫であり戦士』であったことだ。


 逃げずに戦ってしまうのだ。



 日に日に仲間を失い疲弊していくドワーフ側は、人族に頼り鉱山の維持を願い出た。


 当然人族はそれに応える……しかし派遣されたのは『悪辣貴族達』だった。



 王の目前では言葉どころか顔にも出さないが『何故自分達がドワーフの援助をしなければならないのか……』などと考える程だった。


 その結果、彼等は適当に戦い後をドワーフに任せて手を引く……そんな馬鹿な事をしでかした。



 結果は明白でドワーフ達は惨敗し、鉱山の鍾乳洞奥に逃げるしか手段は無くなった。



 ドワーフは寝る間を惜しんで、鍾乳洞を進み時には武器をツルハシに持ち替えて、入り口とは反対側になる横穴口を掘り進めていた。


 すると山をよく知るドワーフ側にも少しだけ望みができた。



 偶然にも『ダンジョン』を掘り当ててしまったのだ……それは出来て間もないダンジョンで、外に通じる未開拓の鍾乳洞の一部と同化していた。


 だが、できて間もないダンジョンでも中には魔物も存在する。



 ドワーフ達は一度そのダンジョンの入り口を岩で閉じ、最低限の作業で外へ繋がる鍾乳洞の小さい脱出口を拡張して、自分達が逃げられる出口を作った。


 横穴の逃げ道が完成した事で、ドワーフ達はダンジョンの入り口の岩を退けた。


 そして、鍾乳洞の脱出口から出るとその出口自体を破壊した。



 こうする事でドワーフたちは無事逃げられ、ダンジョンとドワーフ地下都市は繋がった。


 オークはダンジョンと気がつかず侵入するだろう……ドワーフ達はそう考えたのだ。


 だが当然オークの襲撃が止む訳ではない。



 今までドワーフが堰き止めていたが、その矛先は繋がったダンジョンと人族の村に変わる。



 人族の村はオークの襲撃に遭い反撃する間も無く滅びてしまい、運良く逃げられた村民は村の総人口の2割しか居なかったそうだ。



 悪辣貴族の欲は『ドワーフ』を死地に追いやり、同族の村を破壊する結果となった。



 問題はその悪辣貴族達が全ての責任を『ドワーフ鉱夫達』に転嫁した事だ。



 人族の王は怒りドワーフ国に抗議をした……



 だが王へ偽の報告をしたー悪辣貴族は知らない……その鉱夫達はなんとか自国へ帰っていたのだ。

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