第512話「マホガニーは悪知恵が回る女性大工だった件」


 タイミングは非常の大切だ……


 逃げるタイミングを失うと痛い目に遭う。


「アタイはヒロ男爵に『ツギテ』って言うのを教わるために逃さないようにしているだけさ!いいか?そもそもアタイ達は伯爵様とヒロ男爵様にこの村……ああっと……ここの『街づくり』をお願いされたんだよ!知識だって万全の状態で作ってこそだろう?アタイは大工だ!良い技術を聴いて何が悪い?」



「それが抱きつくこととと何か関係が?」


「そうですよ!ミオさんの言う通りです!!羨ましい!!まったく!!」



「「羨ましい?」」



 シャインの言葉にマホガニーとミオの声が被る……


 マホガニーは二人をチョイチョイと手招きすると、僕の右手をミオに左手シャインに取らせる。



「腕は両方あるんだよ?『ツギテ』は口があれば教えてくれるだろうから、アンタ達はヒロ様がツギテの技の全部を教えてくれるまで、逃さないようにしてくれよな。『羨ましい』んだろう……なら立ち位置を代わってやるから絶対に逃さないでくれよな?」



 マホガニーは知識欲がどの棟梁や大工よりも高いのだろう……


 僕が勉強用に作っていたサンプルの『継手』の意味を悟ったようで、直接聞き出そうとミオとシャインを利用したようだ。



「そう言うことでしたら構いませんよ!私はミオです!なんかすいません!勘違いしました!!」


「ですね!ミオさん!私達だったら此処で押さえて『銀級講習』も出来ますし!一石二鳥ですね!!」



 僕はマホガニーに継手を教えて、その僕はミオから講習を受ける、そんな構図になる。


 僕は夕方まで銀級講習会が続き、マホガニーの希望で大工達全員の継手講習会にもなっていた。



 棟梁と大工の全員が『継手』を実際に作り、目で見て頭で考えて学習する……そんな時間も日が暮れ始めて終わりが見えて来た……



 そして僕は思い出した……『テントの納品』が有るのを忘れていたのだ。



 大工達がする今日の仕事は、残る時間でひとまず村の拡張準備からスタートだ……まずは村を魔物から守る『防柵』を作る。



 固定して邪魔にならない様に移動できる様に作る……作る物は拒馬と簡易柵の2種類だ


 これから街を作り拡張するので作りは粗いが無いよりマシだろう……移動も問題なく出来るのも利点だ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕はテントに戻り自室で『倉庫』を使う。


 倉庫の奥にある2部屋目には山積みされた『テント』と『断熱マット』を発見した。


 僕はマジックグローブに全部を収納していく……



「アンタまた随分買ったねぇ!って言うか……そんな物を沢山持っていって、なんて説明するんだい?」



 背後から声をかけて来たのは『アナベル』だった。



「アナベルさん!もう二日酔いは平気なんですか?ポチさんが昨日言ってましたけど?」



「あの馬鹿猫……余計なこと言いやがって……全く油断も隙もないね!!今度見つけたら三味線の皮にしてやろうかね!」



「異世界に買い出ししてくれるネコがいなくなるので、やめてあげて下さい!って言うか三味線この世界にあるんですか?」



「ははは!お前さんの世界にも三味線があるのかい?………」



 僕はアナベルと他愛もない会話をするが、確かに『異世界テント』を大量に持ち込めば不思議がられるだろう……


 ひとまず『王都で大量に買った』と言っておけば問題はないだろうが……


 薔薇村や水鏡村の村人が王都まで行く気事は、ジェムズマインと異なりまず無い……巫女は別だが……


 その話をするとアナベルは……



「相変わらず適当だね!まぁ魔力も特殊な能力も無いから今の間はいいけど……まぁ面倒にならない様にちゃんと隠すんだよ!ちなみにアンタが持っているマジックテントの材料だからね!量産するならちゃんと回収するこったね!」



 サラッと問題発言を挟むアナベルだったが、『マジックテント』の材料が僕が買った『異世界テント』と分かったのはみっけもんだ。



「魔法のテントを知っているんですか?あのユニークアイテムの……」



「あれはね……昔に召喚魔法陣の魔術印を組んだ馬鹿が、召喚事故で偶然異世界から引き寄せたテントを元に作ってあるんだよ。アイツがあんなモノ作らなければ、アンタ達に迷惑かける事はなかったんだがね……まぁ焦らなくても、そのうちその男には行き着くはずさ!」



「その人は……未だにあの世界に居るって事ですよねそのセリフだと……アナベルさんが此処にいるのに……」



 アナベルは『鋭いねぇ!』とは言うが、それらの追加情報はくれなかった。



「アンタは今、色々問題事を抱えているからこれ以上仕事を増やさない方がいいよ!あと大切な事だから覚えておきな……あの水鏡村の真下のダンジョン……迷宮の主に挑めば『今のアンタ達は絶対に死ぬ!』……全員だ!!忘れんじゃ無いよ?」



「そ……それだけの魔物って事ですか?」



「あそこを封印した精霊は私の契約した精霊の一人さ………私達を逃すために犠牲になってくれたんだ。その時の私たちの平均レベルは58……最高レベルは68の盾持ちだった。3パーティー連合でボロ負けだ……過信してたのさ……馬鹿な私達はね……『私達なら勝てる!』って錯覚してたのさね……」



「そ……それでどうなったんですか?」



「もう知っているだろう?水精霊12人がかりでソイツの動きを止めて、次元の彼方に放り出したのさ!馬鹿な私達はあの世界の精霊を使い潰したんだよ……慢心の結果にね!……だが……アンタには『その精霊』も居ない……なら勝てる道理はないだろう?」



「じゃあ!!……あの土地は救えないって事ですか!?」



「アンタのお友達『エルフ』に、まだ出会ってない『ドワーフ』を仲間にしな……それが出来てようやくスタートラインだ!私等は取るべき選択肢を慢心で取らなかったからね……『人族』だけで倒してやるって言ったのさ……馬鹿だったね我ながら……」



「!!……ドワーフは何処に居ますか?」



「それを調べるのが『アンタの役目』だろう?あたしゃヒントは与えたよ……私の経験は物によっては語れるが、それだって限られるんだ。欲張らないで一歩ずつ確実に行きな!」



 アナベルは相当無理をしているのか『言葉を選んで』話しているのは伝わってくる。



「ところで……皆がアンタを探しているから、もうそろそろ戻った方がいいよ?何かがあった様だからね!次元テント内で次元倉庫を使用したせいで、テント内にあったアンタの部屋のドアは一時的に消えちまってる……作りは同じなんだよ……テントも倉庫も」



 僕はアナベルに外の状況を聞いて、慌てて部屋から出ようとする。


 しかしアナベルは最後に一言付け足す……


「いいかい?あのダンジョンの最下層が復活するのにはかなり時間を要するから、その間は各階層で経験を積みな!必要な物は全部使いな!そして『周りの雑魚ども』の話は聞くな!自分の直感を信じるんだ!良いね!!」



「はい!アナベルさん!ありがとうございます!」



 そう言って僕は倉庫の扉を消すと、ミオとシャインが部屋に飛び込んでくる。



「ヒロさん……あ!!居た!!大変です………薔薇村の住民と水鏡村の住民が、新しい街のことで喧嘩を!!」



 アナベルが教えてくれた村で起きている問題は、ビックリした事に村民同士の諍いの様だった。



 水鏡村のダンジョン跡から何かが現れたり、野良の魔物が大挙して襲撃して来た訳ではなかったのは救いだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふざけるな!水鏡村の人口が多いんだから街の名前は『水精霊』に因んだ名前に決まっているだろう!」



「なんだと!?人の村に押しかけて来ておいて!受け入れてやった恩を忘れやがって!!人口が多いから村の名前を水精霊絡みにするだと?そもそもこの土地は『薔薇村』の物だろうが!!」



「そうよ!此処は森精霊と風精霊を祀る村なんだから!それに因んだ名前にするのが当然じゃ無い!!」



 僕が村の広場に向かうと各村民達が口々に喧嘩をしていた………



「皆さん!一体どうしたんですか!?なんで喧嘩なんか!?…………」



 僕の一言で、大勢の村人が詰め寄って来て『新しい街の名前』について一斉に質問して来た……街どころかまだ住居エリアの土地確保もままなってないのだ……気持ちが前向きなのは良いが気が早過ぎる。


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