第505話「精霊核の崩壊と水没するダンジョン」


 しかし一部の『背信者』はその場を離れずに、何やら演説をしている。



「皆さんご覧なさい!これは私が水精霊様から頂いた『聖痕』です!良いですか?我々には水精霊様が残して下さった、この『聖痕』があります。これは選ばれし者にしか与えられない『水精霊』に近づいた証なのです!恐れず私についてきなさい!!今この地は危険です!我々の住む『新しい地』を探さねばなりません!荷を作り旅立つ準備をするのです!我が子達よ!!」


 そう言ったのは西の宮の巫女だった。


 そして負けじと北の宮と南の宮の巫女も同様に『嘘』をつく。



 しかし、今この現状であれば『必要最低限な嘘』だと認めざるを得ない。


 落胆した信者は精霊と最後を共にする可能性だってある。



 そうなれば間違いなく、未来永劫アンデッドだ……


 それを防ぐ手立てに『水っ子』を考えていたが……まさかの事が起きたので、転んでもタダでは起きない3人は、なかなか手強い『偽の巫女』だと思うしかなかった……


 西の巫女と北の巫女は烙印持ちだと僕は知っていた。


 しかしそれが確認できたのは、偶然からだ……背信者が烙印を得た場合大はしゃぎするが、しかし二人の巫女はそれを自慢していなかった。


 彼女達が目線でそれを視認した事までは確認済みだが、言葉に出してやたらに自慢しないので、注意深く確認してなかったら見過ごす所だった。



 今まで黙りを決め込んでいたのは『事実を知らない人を騙す』道具にする為だったのだろう……


 だが残念だが口八丁と言うやつで、見事に事実を知らない信者の心を掌握していて、自分の信者を連れて村を出て行く準備をし始めた……



『ズドォォォォ………ン………ザバァァァン………ガラガラ……ザッパーーン……ガラガラ……』



 巨大な爆破音と共にダンジョンの入り口がある鍾乳洞が崩れる……


 そしてダンジョンの中から大量の水が溢れ出て水没して行くダンジョンの入り口……



 水に沈む鍾乳洞の入り口を見て信者は涙を流すが、これは終わりではない……今からが『悪夢の始まり』なのだ……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 村へ戻りテントへ向かう……


 中ではイスクーバがザムド伯爵とウィンディア伯爵と話していた。


 側にはエクシアとロズがいる。



「ヒロ男爵!無事であったか!………まさかこんな事になろうとは!!クリスタルレイク家は協力を惜しまぬ!」


「うむ……災難と言うにはあまりにも酷いな……領内どころか村にダンジョンとは……それも水精霊の地に!!気を落とすでないぞ?我がロックストーン家もウィンと同様協力を惜しまぬぞ!」



「お前……飽きさせない展開だな?まさか薔薇村の不正を見抜いたあと、ダンジョン発見とかあり得ないぞ?だけど伯爵に感謝するんだな!今王都と知り合いの領持ち貴族から『大工』を集めてくれているぞ?」



「エクシア姉さん!村の皆に睨まれてますから!やめてくださいよ!マッタクなんでそれ言っちゃうかな……まぁヒロ……大変だったな?」



 ミミの親がちゃんとテントに来たか確認に寄ったのだが、ミミの両親の友人達である他の村民もテントに避難していた。


 ウィンディア伯爵とザムド伯爵の存在は知っていた様で、食堂からお茶をせっせと運んでいるが、このテントは僕の物だから、そこまで気を使う必要はないのでは?と思ってしまう。



「ダンジョンの猶予は……2日持てばいい方でしょう……ひとまずは薔薇村に協力を仰いで村民の受け入れを………『ざわざわざわざわ』………」



 外が非常に騒がしいので、テントの表に出ると各集落の村民が怒り狂ってミミとミミの両親を探している。



「いたか!?」


「こっちには居ない!!」



 僕の横にいるミミの父親を見つけた村人が大声で皆を呼ぶ。



「いたぞ!!食堂の裏だ!」


「責任を取らせろ!!村を破壊した悪魔どもめ!」



 村人がいきり立ってミミの親を連れて行こうと掴みかかってくるので、冒険者はそれら暴動を制圧する構図になる。



「邪魔をするな!!」


「封印を壊した張本人を裁くんだ!部外者は邪魔をするな!!」



 村民は本当にミミの親を罰するつもりなのだろう……口々に不満を口にするが、張本人は別にいる。



「何か勘違いをされている様ですが……張本人はボーザー禰宜ですよ?」



「何を言っているんだ!冒険者風情が!あの方はもう禰宜では無い!神子様だ!!」



「「「「神子様?ボーザーが?」」」」



 僕達が助けた村民は一斉に憤慨する。



「馬鹿を言うな!アイツのせいで俺はダンジョンに飲まれたんだ!アイツが元凶だ!!」


「そうよ!娘まで巻き込んで!絶対に許せないんだから!やっと権禰宜になったのに!全部台無しにしたのはあのバカのせいじゃないのよ!!」



 村人同士の言い合いが続く中、問題児が勢揃いする。


「我々は『水精霊の聖痕』を受けし7人なり!!道を開けよ!………ほう?これはこれは!此処に纏まって隠れていたか?ミミ……逃げおって!今度は逃がさんぞ?」



 アホな事を言うボーザーだったが、今は彼に時間を割いている暇はない。


 馬鹿な仲間を連れてさっさとこの村から避難をしてくれれば、どこで『教祖ごっこ』をしていても構わない……


 僕が彼等にひとまず好きな場所で演説してもらって良いが『村から出てくれ』と言おうとするが、ザムド伯爵が僕より早く口を開く。



「ボーザー禰宜と言ったな?今は神子様だとか……私はジェムズマインの元領主ザムドであり、こっちは現領主のウィンディア伯爵だ。お前達がどこで何をしようと構わんが、今はこの村を……『黙るがいい!下民!』………」



 テロルはボーザー斬り捨てようとするが、笑いが止まらないエクシアに抑え込まれる……エクシアは『面白いから邪魔すんなよ!』と小声で言っている。



「伯爵?私は神子なるぞ!我々はこの水鏡村の神子7人衆である!役立たずの親子が起こした不始末は正さねばならん!!わかるか?下民のザムドにウィンディア!それにその取り巻き!!私は水精霊に選ばれた者だぞ?『精霊使い』なり!!」



 精霊使いの何たるかを知っている全員は一瞬でシラけてしまうが、エクシアだけは大爆笑だった。



「精霊使い様!水精霊の化現を!ぜひお願いします!!ぶふ………ぷっぷ………ぶふ……」



「何を笑っておるか?下民なぞに見せるか!!敬わぬ者になど見せるわけがないだろう!!」



「ミミと両親を連れて行け!!」



「「「「はい!神子様!!」」」」



 ミミと両親を捕縛する信者達……エクシアは面白いので全員に『手を出すな!!』と合図を送っている。



「ひえぇぇぇぇ!お師匠様!エクシアさん!ルームリーダー!ルーナちゃーん!!ワテクシどうすればいいのですか?」



「ミミいいから黙ってついていきな!罪滅ぼしって言うんだから聞いてやんな?何が罪かをまずちゃんと聞くんだ!いいね?」



「ひえぇぇぇぇぇ!エクシアさん?なんか笑ってませんか?お師匠様!」



 ミミは村民に捕まった事と、家族も捕らえられてかなりパニック状態だ。


 しかし突然、その白羽の矢が僕にも刺さる……



「師匠って言うのはその男だな?飯屋に居たやつだな……良いだろう!そいつも捕縛して連れて行け!!」



「ぶははははは!!ヒロ!行ってらっしゃい!!」



「ちょっと!エクシアさん!笑ってないでくださいよ!こんな三文芝居に付き合ってる暇はこの村にはないんですから!」



 困った事にお馬鹿さんは僕を捕縛し始める……暴れて全員のしてしまえば村から連れ出せるが、全員のした場合避難させられる人は限られる……困ったものだ……

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