第504話「上級精霊の最後と意思を継ぐ水っ子」


「どうりで手強い訳じゃ!……じゃがこの先にも同じ形の部屋があるの?うん?………入り口が見当たらんのは……何でじゃ?他の部屋には『扉』があるのに、これは……『壁』じゃろう?



「確かにそうですね!可能性的には……今いるこの部屋に入る前に僕達は『ダークゴブリン』を殲滅したので、もしかしたらあそこの扉から出た先にいる『ダークゴブリン』を全滅させたら……先に行ける可能性はありませんかね?」



 アルベイは地図を見て『ダークゴブリン』の名前の数を数えるが、動き回る『同じ』名前は数えるのが非常に難しい。



「うぉぉぉぉ!!苛々するのぉ!同じ名前がちょこまかと!!よく考えれば今は村民の命が優先じゃ!あの先がどうなっていようが、扉から先には人なんぞおらん!此処が最下層でないし階段もない!いくだけ無駄じゃ!ワシは転送陣を見てくるぞ!!」



 自分で数え始めたが、動く名前を全て数えられないので、苛々したアルベイはさっさと諦めて転送陣を見に行く。


「私達は帰れるのですか?」



「あの先が転送陣なので、ちゃんと地上へ帰れますよ!良いですか……残念ですがこの村はもうこのダンジョンに飲まれてしまいます。なので貴方達は地上に出たらすぐに避難してください」



「村が……ダンジョンに飲まれる??水鏡村が?」


「水精霊の社はどうなるんですか!!この村の守り神を祀っているんです!」


「どうにかならないんですか!?冒険者様!!」



 僕は時間的猶予がないので、転送陣を指差して……


「今は逃げることが先決です!この場所で命を失えば貴方達は『アンデッド』として永久にダンジョンを徘徊せねばなりません!それは水精霊の望むことではないので、精霊に貴方達村民を助けて欲しいと頼まれたから僕たちは来ました!」



「「「精霊様………………」」」



「だから今すぐ逃げてください。水精霊は最後の力を使い、このダンジョンを破壊して侵攻を少し遅らせるそうなのです貴方達がいたらそれが出来ない!」



 村民は渋々チャイとチャックに案内されて転送陣へ向かう……



「皆さん先に地上へ向かってってください。僕は水精霊の願いで最後の準備をしなければならないので!」



「そんな!ヒロ様!一人では危険です!」


「そうじゃ!危険じゃぞ!こんな何があるかわからないダンジョンに一人残って何をするんじゃ!」



「いや……入り口付近で手に入れた水精霊のトーテムで作業したらすぐに追いかけますから、そんな時間は変わりませんよ!寧ろ逃げようとしたときに前に人が大量にいたら逃げられませんから!」



 逆に皆がいた方が僕の危険が増えると言っておく。


 水精霊が何をするかなど全く想像がつかない以上一人の方が逃げやすい。



 万が一の時はスキルを使い地上に逃げれるが、皆がいたらそれも出来ない。


 そう言うと、皆スキルを手に入れたことを思い出して理解してくれた。



 僕は皆に転送陣へ行くように促してから、最後の一人が飛ぶ前に声をかけてもらうようにお願いをして『水氷の半分砕けたトーテム像』に話しかける。



「最下層には着きましたが、此処からどうすれば良いでしょう?」



『有り難う御座います。この最下層まで連れてきて頂き助かりました。隣へ続く扉を開け放って頂けますか?』



「扉をですか?ですがあそこにはかなりの数の魔物が……僕一人で倒すには割と時間がかかりますけど?……まぁゴーレムもあるのでそこまで苦労はしませんが……」



『大丈夫です我々は力を失いつつありますが、これでも上級精霊ですから』



 僕は精霊が言うままに扉を開けてから、ウォーターバレットをダークゴブリン目掛けて牽制射撃して扉から離れる。



『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー』



 突然『水氷の半分砕けたトーテム像』から魔法陣が浮くと、扉に垂直に重なり大量の水が大通路に流れ込む。


 大量の水に足を取られ転倒するダークゴブリン達……


 どんどん増えていく水の勢いに負けて、突き当たりの壁まで押し流されていくダークゴブリン。



 ものの数分で部屋は水で満たされるが、不思議な事に扉からは一滴も僕の居る大広間へ流れてはこない。


 そして今度は魔法陣へ、一気に水が吸い込まれていく。



 水が全て無くなると部屋の中には、既に酸欠で息絶えた『ダークゴブリン』の骸が転がっていた。



「い……今のは何でしょう?」


『今のは『ウォーター・プリズン』と言う魔法です。本来は対象を視認してから魔力で包み水魔法で満たすのですが、生憎今の私達には意識核しかないので『感知』で捉えられる部屋ごと囲いました』



「成程!僕が顔だけやっているのを全身丸ごとってことなんですか……そんな魔法があったとは……」



『寧ろ私たちが驚いてます……『顔だけのウォータープリズン』ですか……器用な事をなさいますね?因みに今の魔法は精霊魔法でありますが、水魔法にも応用が効くので覚えて損はありませんよ。最後の希望を叶えてくれた貴方へ私達から感謝の印にある力を与えましょう!』



 水精霊の精霊核が集まった『水氷の半分砕けたトーテム像』の一部が新しいトーテム像へ姿を変える……



『これは『雷雨のトラロック像』と言います。トラロックとは我々水精霊と深く関係を持ち、雷を扱う神族です。貴方であればこの力を受け入れることができましょう!』



 僕がそのトーテム像を握ると『ビシ……ビシビシ……』と全身に電流が走る。



『面白い小僧だな……この世界の人間ではないのに命をかけて精霊を助けているのか?かつてお前の世界でも崇められた我が、まさか此処でもお前達人間の世話をするとはな!!水眷属の願いであれば仕方ない……我がお前の手助けをしてやろう……』



 直接脳に話しかけてくるトラロックの声は『我がシンボルを大切にするが良い!力を欲した時は我をその身におろし化現させよ』と言うと、トーテム像が砕け散る。


 その直後に僕の手のひらには渦巻く水と雷が重なったシンボルが焼き付いていた。


 しかし不思議な事に、そのシンボルは吸い込まれるように消えていった。



 そして『砕けたトーテム像』は、手に入れたときに比べてはるかに小さくなっていた……


『無事契約を終えた様ですね……まさか貴方は異世界の住民だったとは思いませんでした。……それもトラロック様が過去に崇められていたとは面白い縁ですね!」



『このまま面白い貴方様と話をしていたい所ですが、もう時がありません……この場所に私達を置いて転送陣から地上へ向かいなさい。貴方の水精霊に安否を確認したら我々はこのダンジョンを破壊します。いずれこの地が人族の手によって、水の豊かな場所に戻る事を祈っています!さぁ、行きないさい!』



 水の精霊が化現して6人の意識核に最後の挨拶をしている。



『ヒロ!いきましょう!頼まれた最後の役目を全うしないと!』



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕達は転送陣で地上に戻ると、転送陣周りに冒険者と救助した村民だけでなく、村にダンジョンができた事で更に村人が集まっていた。



「大丈夫か?ヒロ!随分遅かったじゃないか!!」



 それがソウマの第一声だったが、それどころではない……村民が避難せずに何時迄も此処にいることに僕はビックリしていた。


 しかし、心配の種はすぐに水っ子が解決してくれた。


 水っ子は近くの川の水を使い化現すると……



『人族よ!直ちにこの場から離れるのです!これから上位精霊によるダンジョンの破壊を試みます!しかしながらこの破壊は一助的な物です……残念ですがこのダンジョンを完全に破壊するには至りません。これは我々水精霊が出来る貴方達人族を守る最後の手段です……今は一時この地を離れ、強き者の力でこの地を取り戻すのです!さぁ行きなさい!水の子達よ!』



 僕は水っ子の話が終わると同時に指示をする……すると冒険者と『ダンジョンの中に囚われた村人』はすぐにその場から離れた………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る